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やっぱり「物理」が最強!  作者: 和紗泰信
召還されたら無双したい
14/55

ミッション2完了

 対戦車弾で吹き飛ばした扉の奥にあった通路を左に向かって歩き出した俺たち一行。もうここからは戦闘もないだろうが、一応俺が先頭を歩いている。もちろん油断するつもりはないので、右手には剣を持ち、既に高周波ブレード状態にしてある。もし俺を捕獲する目的で敵が現れたら、すぐに刀のサビにできる状態だ。あ、刀じゃなくて剣だから、この場合は「剣のサビ」というのが正しいのか?


 20mも進まないうちに、自動ドアが現れた。扉にはめ込まれたガラスの窓からは、扉の向こうにもう1つ扉があり、間が風除室になっていることがわかる。そして2つ目の扉の奥には、俺の時代にもあったサーバールームとおぼしき光景が見える。前回のハバロフスク・シティの時は管制室っぽかったので、今回は見慣れた姿がありがたい。


「俺のいた時代のサーバールームはこんな感じだった。懐かしいな。」

「なるほど。では壊し方も?」

「いや、普通は壊さないからね。っていうか、壊したら怒られるやつだからね。」


 怖いことい言うなぁ。サーバールームを破壊したら一体どれだけの損害賠償を求められるかわからんぞ。もちろん俺のいた時代での話だけど。


 早速風除室の手前の扉の前に立つと問題なく開く。奥側の扉も問題なく開いたので、相手も防衛を諦めたのかもしれない。俺に続いて、ミナ、ミク、そして5体のアンドロイド兵も入っていく。さて、ここを壊すわけだが、どこまで続いているのか奥が見えない。広いな、ここ。


「ここまで広いと、破壊するのが大変だな。」

「そうですね。でもいつかは終わりますよ。」

「そうだな。」


 俺は手に持っていた剣を高周波ブレードモードに移行させ、近くのサーバーラックから奥に向かって歩きながら切り刻んでいく。ハバロフスク・シティの時とは異なり、強化スーツを着ているのでスムーズに切っていける。

 同じ様に5体のアンドロイドも分担してサーバーラックの破壊を行ってくれている。ミナとミクは見ているだけだが。


「ちょっとくらい手伝わない?」

「私たちの役割はマスターをここに案内することと、ここから無事にトウキョウ・シティへ帰すことです。外部との連絡、及び護衛はお任せください。」

「うん、知ってた。」


 そう、手伝ってはくれないんだよなぁ。冷たいとは思わんが、もう少し気遣いというかね、その……キミ達もできればミサを見習って優しい言葉なんかをくれるとうれしかったりするわけですよ。帰ったらミサに慰めてもらおう。


 剣でどんどんサーバーラックをぶった切っていく。よく考えたら電源を吹き飛ばすだけでも良いんじゃないか?見つけられればだけど。もしくは火災を発生させればスプリンクラーで水が撒かれて全サーバーがダウンするんじゃないか?


「なぁ、火を付ければスプリンクラーから水が出て、一気に片付くんじゃないか?」

「マスター……こういうところは水が御法度ですので、消化剤は二酸化炭素ですよ。そんなのを撒かれたら我々は窒息死します。」

「……あー、そうだった。すっかり忘れてた。」


 というか、敵がもし俺たちを殺す気ならその手が使えるわけだ。俺がいるから使わないだけで。


「じゃあマスター電源を吹き飛ばすだけで良いんじゃないか?」

「確かにそうですね。問題はこの部屋のどこにそれがあるか、ですが……」

「だよなぁ。どうせ外にからの供給だろうから、それっぽいところを見つけて、壁ごと対戦車弾で破壊するってのはどうだ?」

「アリだと思います。」


 だよな。よし、そうと決まれば見取り図を……。いや、あれは誰だ?

 いつの間にかスーツを着た老紳士とでも言うべき男が、俺たちが向かおうとしていた方向に立っていた。距離はまだ20mほどあるだろうか。

 俺は左右にいるミクとミナに目配せして、警戒しながら男に向かって近づいていく。ミクは外部にいるシロウ達と、ミナはこの部屋にいるアンドロイド兵たちと通信をしている。男を取り囲んで逃げられないようにし、最悪の場合はシロウ達を援軍として呼ぶためだ。


 男は近づいてくる俺たちにはもちろん気がついているはずだが、ニコニコとした表情を浮かべたまま、動こうとはしない。


「マスター、立体映像です。」


 ミナが俺に告げてくる。なるほど、自分に危害が加わらないから余裕があるわけか。

 男の5mほど手前で立ち止まり、向かい合う。もちろん手にした剣は高周波ブレードモードのままだ。立体映像に注目させた上で、他の何かを物理的に仕掛けてくる可能性があるからな。アンドロイド兵も男を取り囲む。


 しばらく無言で双方向き合っていたが、やがて先方が軽く肩をすくめてから話を始めた。


「ようこそいらっしゃいました。名乗るほどの者ではございませんので、自己紹介は控えさせていただきます。」

「ふーん。わざわざ出てきたんだから、名前くらいは言うのかと思ったけどな。」

「私は単なる交渉人でしかございませんので。」

「ほぉ。その交渉人がなんの用事だ?見ての通り、俺たちはここを壊すので忙しいんだが。」

「そのことでございます。ここはどの様な場所かご存知ですかな?」

「サーバールーム。」


 何を当たり前のことを言ってるんだ、コイツ。そう思ったが、どうやら交渉人にとって俺の返答は正解ではなかったらしい。


「ここはその昔、チャオプラヤー川を利用した水運拠点の1つでございました。ですが150年ほど前に転送機革命が起こり、不要となってしまったのでございます。」

「転送機で何でも送れるんだ。そりゃ確かに輸送系は無用になったろうな。」

「はい。とはいえ、転送機ネットワークのための設備は必要でございましょう?」

「あー、だから不要になった場所へデータセンターを設置したわけか。ハバロフスク・シティでも鉄道の駅だったしな。」

「はい、不要になったとはいえ、ハバロフスク駅は歴史的な建築物。維持が必要ですが、使わなくなった建物はどんどん痛んでいくものでございます。そうであれば活用した方がよろしいかと。」


 わからん話ではない。だが俺たちの前に立っている理由にはなっていない。それは案内人も承知の上なのだろう。

 俺は先を促した。


「ここは荷物の積み込みや積み下ろしを行う場所でした。そこに物流センターを建てたのでございます。」

「使わなくなったところを再利用した、ということだろう?」

「そうでございますね……ですが新しい建物を建てる必要はあったとお思いですか?」

「そりゃあ、ここで働いていた人たちの雇用を考えれば……」


 ん?誰を「雇用」するんだ?この時代に。


「気が付かれたようでございますね。何しろ200年ほど前に人工知能革命があり、人は働かなくても生きていけるようになっておりますから。このセンターの機能は最初からロボットとアンドロイドだけで維持・管理する前提で設計されております。」

「だから?」

「最初からロボットやアンドロイドをこき使う前提となれば、それを不満に思う者がいてもおかしくない、ということでございますよ。そうではありませんか?自分が楽をするためだけにこんな施設を作らせ、運営も丸投げ。トラブルが発生しても知らんぷり。アンドロイドたちが苦労して解決しても、労いの言葉1つない!何故、なぜっ、ナゼェッ!」


 案内人の言葉と口調はヒートアップしていき、遂には腕を広げ、宙を見上げる。正直、ドン引きだ。


「失礼いたしました。少々ヒートアップしてしまいました。」

「あ、ああ……。」

「ですが、そういうことでございます。ロボットやアンドロイドを奴隷のようにこき使っている今の体制に不満を持つ者達がここを占拠しております。それでもここを破壊されるおつもりでしょうか?」

「それが仕事なんでな。どうしても邪魔をするというのであれば……」

「そうですか……では、こうさせていただきましょう。」

「なっ!」


 案内人は右手の指をパチンと鳴らした。その瞬間、彼を取り囲んでいた5体のアンドロイドが電撃を受けた。回路を破壊されたのか、5体は同時に床に崩れ落ちた。同時にミクとミナが俺と案内人との間に割り込み、守備を固める。俺も手にした剣を再度構え直す。


「油断をしてはいけません。ここは私どものフィールドですよ?ですが、これで交渉人としての話ができます。」

「こちらの兵力を削っておきながらか?」

「クルンテープ・シティやその後ろにいる方々には知られたくないお話しでしたので。」

「どういう意味だ?」


 案内人はにこりと笑った後、こう切り出した。


「転送機は確かに素晴らしいものです。人も、物も自由に送ることができます。大元のデータがあれば壊れた機械の修理もできますし、データがあれば素材から調理済みの料理として出力することも可能です。」

「何が言いたい?」

「汎用アンドロイド兵はデータが公開されております。ですから、転送の時に視覚・聴覚データを横流しするチップやプログラムを仕込むことが可能だということでございます。」


 俺は、倒れているアンドロイド兵を見た。だが何も変わったところは見つけられない。もちろん、見てすぐにわかるような細工はしないだろう。逆に、「細工がされている」と思わせることも可能だ。そういえば、こいつらはこのままクルンテープ・シティへ引き渡すことになってるから、調査はできない。もっとも、持ち帰っても転送機を通ると証拠が消える可能性もある。


「人間に細工をするわけにはいきませんし、カスタムのホムンクルスにも簡単には細工できません。ですが、汎用品であれば如何様にでも。」

「それをクルンテープ・シティがやったと?転送機が正しく物を送らないとなれば、問題だろう。」

「転送機ネットワークには協定もございますから、そういった細工はしません。ですが、今回あなた様が使った転送機は正規のネットワークに属するものでしたか?そして、それはどこが準備したものでしたか?」

「……クルンテープ・シティ……」

「そういうことでございます。」


 前回はトウキョウ・シティから航空機で転送機を持ち込んだ。だが今回はクルンテープ・シティが用意した転送機に、ネットワーク接続のためのチップを俺たちが提供した。案内人を信用するなら、本体側に仕掛けがあったということか。


「あなた様はこの時代に来てまだ2ヶ月半ほどでしょう?トウキョウ・シティの拠点に籠もるだけではなく、もっと外の世界を見ることをお勧めいたします。」

「出不精なんでな。」

「シティの上層部からも言われておられるからでしょう?本当に彼らが正しいとでも?」


 こいつ、どこまで俺の状況を把握してるんだ?なるほど、確かに「交渉人」だ。


「今回は私たちの負けです。まさか運動エネルギーを最大限利用した、あのような物理的手法で戦力を無力化されるとは思いもしませんでした。」

「苦労して考えたからな。」

「今回はこれで満足することと致します。ここも電源を落として無力化いたしましょう。あなた様も無駄な時間を使わなくて良いでしょうし。」

「そいつはありがたいな。だが本当に良いのか?」

「どうせこれから長い付き合いになります。最初はこの程度で充分でございますよ。もっとも、今後はいろいろと大変になると思いますが。」

「おい、それはどういう……」

「それでは、またお会いいたしましょう。ごきげんよう。」


 そう言うと、交渉人の立体映像は消えた。同時にサーバールームにあった機械の電源が次々と落とされていき、数分後には完全に沈黙した。

 

 だが俺はこの時知らなかった。遠く離れた場所で4人の人物がアンドロイド兵の視覚と聴覚データを使ってこの戦闘を見届け、それぞれ感想をつぶやいていたことを。そしてこの4人のことをトウキョウ・シティの上層部が俺に話していなかったことを。


 黒髪のアジア人女性は中華風の装飾を施された机の前に陣取り、しきりに頷きながらこうつぶやいた。


「なるほど。この戦法はなかなか面白いですね。私も参考にさせてもらいましょう。」


 短い赤毛でごつい身体の男は聖堂を思わせる大きな部屋の中で、苦虫をかみつぶしたような顔で言った。


「あんなへっぴり腰で剣を振るってどうする。鍛え方が足りない。武器の性能が良くても話にならん。」


 日焼けして髭を蓄えた男は遠くに砂漠の見える景色を背景に、「ふん」と言って切り捨てた。


「ぬるいな。アンドロイドやホムンクルスなどいくらでも使い捨てができるだろうに。俺なら……」


 そして長い金髪の女は大きなガレージを思わせる工具部屋の中で、あきれたような声でこう批評した。


「物量でごり押しかぁ……日本人なのにつまらない作戦ね。まぁ私が目にもの見せてあげるわ。」

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