ミッション2開始
ミッションの準備はハバロフスク・シティの時よりも早く進んだ。やはり今回はクルンテープ・シティ側の協力が大きかった。なんとありがたいことに、ミサイルというかロケット自体をクルンテープ・シティ側が準備してくれることとなった。それだけでなく、ペイロードとして搭載する転送機やガン・ドロイドも向こうが用意してくれるらしい。もっとも、転送機に関してはコアパーツ――スマホのSIMみたいなもの――だけはロックのかかっていないものが必要なため、外部から持ち込む必要があったが。それもトウキョウ・シティと転送機ネットワークの繋がっているタイペイ・シティから持ち込むことができたらしいので、かなりの時間短縮になった。おかげでたったの10日間で準備が終わった。
そして作戦会議から10日後。準備のできた俺たちはブリーフィングを行い、拠点1階のミッションルームに集合していた。見送りのために中田氏も立体映像で参加している。
「わざわざ見送りに来てくれなくても良かったのに。」
「いえ、さすがにそれもどうかと思いまして……」
「そうは言うけど、なんか忙しそうな雰囲気があるぞ。さっきからちょくちょく周囲に指示を出しているみたいだし。」
「はい、実は明日トウキョウ・シティで大きなイベントがありまして、その最終準備に追われているのです。」
「イベント?」
「はい、『トウキョウ・マラソン』というイベントでして。」
ほぉ。俺のいた時代にも東京マラソンはあったが、まだ続いているんだ。でも12月だっけ?
「俺の時代にもあったけど、こんな時期だっけ?」
「いえ、大昔は3月頃だったかと思いますが、何しろ温暖化の影響がまだ残っておりまして、この時期でないと暑いのですよ。それに年明けは予算審議などで忙しくなりますし。」
「なるほどね。まぁ参加者には頑張ってくれと伝えてくれ。っていうか、マラソンには参加するのに、俺たちの作戦には参加してくれないんだな、シティ民の皆さんは。」
「ま、まぁ、そのぉ……何と言いましょうか……」
さすがにちょっとイヤミを言いたくなったので、あえて言ってやった。500万人もいるくせに、本当にどうしようもない連中だな。まぁ良いんだけどさ。
中田氏の立体映像は汗を拭きながら周りを気にしている。感じからして、周りの連中にもイヤミが聞こえたらしい。向こうはさぞ微妙な空気になっているだろうさ。
「まぁ半分は冗談だ。そのうち安全が確保できるとわかったら、参加者を募っても良いかも知れんぞ。」
「は、はい。その際には必ずそうさせていただきます。」
ふふん。ちょっとだけ気が晴れた。「半分かよ」って言われているかもしれんが、その程度の文句ならかわいいもんだろう?
さて、ではミッション2を開始するかね。俺は隣に立っているミクに対して頷く。ミクもその合図を待っていたようだ。そこにいる全員に対して傾注するよう促し、俺の号令を促してくる。
「さて、これからミッション2を開始する。目標はクルンテープ・シティ内にある敵のサーバールームだ。前回よりも拠点外に多くの防衛部隊が展開しているらしいが、それはクルンテープ・シティ側の用意してくれた例のモノで排除されるはずだ。」
うん、全員その辺は理解しているな。準備段階から協力が得られているので前回よりも余裕が感じられる。
「だが気を抜くな。絶対はない。だから無理をせず、安全に作戦を進めよう。そのための手は打ったんだからな。」
「イエス・サー!」
「では、1400時をもって作戦を開始する。全員、所定の配置に付け!」
まずはニーナとニックがクルンテープ・シティとの通信環境を確保し、現地の様子のモニタリングを開始する。ミッションコントロールブース周辺には空中に映像がどんどん投影されていく。また、現地の立体地図上でどの部隊がどこに展開しているのかが表示され、さらに各部隊の上に準備がどこまで進んでいるのかなどが進捗バーも同時に表示される。1400時までにすべての進捗が100%になれば、無事にミッションを開始できる。
進捗は順調に伸びていき、1356時にすべてが100%に到達。ミッションの開始をすべてのメンバーで待った。
そして60秒前からのカウントダウンをはじめ、1400時。ピーンという音と同時にミッションの開始だ。カウントダウンはカウントアップに変わった。
まずはラマ9世橋の着弾予定地点から南西3km離れた場所に展開していた部隊が、5基のロケットをかなり低い弾道で発射する。初速度を上げるためにレールキャノンまで用意しているので、一気に音速レベル、マッハ1にまで加速する。直径3mほどのロケットは初速度を保ったまま、5秒でペイロードを分離。その2秒後に着弾地点へ到達し、道路面と接地する。その直前、側面のカバーが外れて内部から密度の低い発泡剤が展開、道路面との摩擦で削られながら速度を落とす。だがマッハ1まで加速されていたペイロードはなかなか停止せず、橋の上に展開していた部隊や、川からの接近を阻止していた砲台群をなぎ倒していく。この橋は吊り橋であるため、橋からチャオプラヤー川にはみ出しそうな場合は橋を支えるケーブルによって跳ね返されて橋の上に戻される。そしてほぼ川の上に架かっていた部分を渡りきり、展開していた部隊をなぎ倒し終えたあたりでやっと止まった。
先行していた2基が止まった後、3基目が先行する2基に衝突する形で止まり、残る4基目、5基目もそれに続く形で止まった。切り離された1段目のロケットブースターはペイロードの分離後、敵拠点へとわずかに進路を変え、突き進む。もし当たればラッキーだったが、さすがに屋上に設置されたレーザー砲台の内、川の方を向いていた2基によって迎撃され、破壊された。だが、これは陽動でもある。
「よし、狙撃隊、突入!」
俺の号令と共に、ペイロードの発泡剤がパージされ、真ん中の1機からは転送機が現れる。発泡剤は減速のための抵抗であると同時に、内部の転送機を衝撃から保護するためのものでもあったわけだ。そして残りの4基、先頭の2基と後方の2基からは転送機の代わりにガン・ドロイドが8機ずつ出現する。合計32機が転送機を防衛する形で周囲に展開した。
それを映像で確認して、狙撃隊を構成するヤヒチ、クミ、クウヤは巨大な荷物を背負って転送機に入っていく。この部屋には5機の転送機が設置されていて、突入するそれぞれの転送機と繋げている。彼らが突入するのは4号機だ。
「俺から行くわ。」
クウヤが先頭を切って突入する。背負っているのはヤヒチが使用する狙撃用レールガンの台座になるパーツだ。突入したのは1403時なので、作戦開始から3分が経過している。クウヤは突入した先の様子を確認した上でヤヒチを呼ぶ手はずになっている。だがそれはクミも同じだ。クウヤが突入した10秒後にクミも突入する。こちらは砲身に当たるパーツを持っていった。
2人が周辺の環境をチェックし、クミが突入した30秒後にヤヒチに対してGOサインを出す。それを受けてヤヒチも転送機に入った。
現地の映像が映し出されている空中投影式の映像モニターでは、ヤヒチがレールガンを組み上げ、屋上のレーザー砲塔を狙っている。もうセッティングが終わっているのか、早いな。ヤヒチは風向きのチェックをしているようだ。これはレールガンの発射した弾への影響を調べているのではなく、破壊されたレーザー砲塔から出た煙などが視界を防がないかどうかをチェックして狙撃順番を決める手順だ。
そして狙撃が始まった。まずはヤヒチから一番奥、ラマ3世通りの右側を担当している砲塔だ。その後、チャオプラヤー川上流側、そして下流側を破壊し、最後にラマ3世通りの左側を担当していた砲塔を破壊した。現時点で1409時なので、作戦開始から10分経たずして、ラマ9世橋と敵拠点屋上の砲台を制圧した形となる。作戦は予定よりも少し早く進行しているな。
「さて、それじゃあそろそろ俺たちの出番だな。ロイ、お前の分隊もこっちに参加してくれ。」
「了解です。クウヤとクミだけで事足りたのはありがたいですね。先に向こうへ行って、橋側から制圧にかかります。」
「頼む。」
シロウの指示を元に、ロイの率いるアンドロイド部隊の第2分隊が転送機を使ってラマ9世橋に出現する。彼らはここから敵拠点の制圧サポートを行う。入れ替わるようにヤヒチ、クミ、クウヤの順で第4転送機を使ってミッションルームに戻ってくる。
「お疲れ様。サポートが必要になったらまた頼む。」
「了解です、マスター。」
そうこうしているうちに、今度はラマ3世通りに南東側からロケットが接近している。基本的にはラマ9世橋と同じだ。通りに展開していた敵部隊はバリケードごと吹き飛ばされている。こちらは転送機も3基投入しているので、全部で7基のロケットが撃ち込まれている。ペイロードはやはり通りの左右にある建物で通りへ戻される形になっていたため、周辺の建物にもそれなりに被害は出ているが、そこはクルンテープ・シティ側も了承していることだから気にしない。まぁ切り離された第1段目も周辺に落下して被害を出しているので、誉められた話ではないかもしれないが、おかげで敵の増援がやって来られないというのは良いことだろう。
先頭の2基と後方の2基からガン・ドロイドがやはり合計32機出現し、周囲を固める。これで転送機3機を使って俺たちが突入できる。
「じゃあ、先行します。」
ロックが第3分隊を率いて第3転送機から向こうに移動する。それに続くのがシロウの第1分隊だ。
「ロイの第2分隊が敵拠点の北西側から攻撃を行っています。ロックの第3分隊が正面から攻撃を行いながら北東側に移動しています。俺の分隊が敵拠点の南東側に展開し終えたら、マスター達も出撃をお願いします。」
「ああ、わかっている。手はず通りだからな。上手く敵を釣りだしてくれ。」
「イエス・サー。よし、行くぞ!」
シロウ率いる第1分隊が第2転送機に入る。それを確認して、俺、ミク、ミナ、そして俺の指揮下に入るアンドロイド兵士達が第1転送機前に集合する。予備の第5転送機は使わなくても何とかなりそうだ。
そうこうしているうちに、シロウの第1分隊もクルンテープ・シティに出現し、予定通り敵拠点の南東側から突入するべく交戦しながら移動している。これで敵拠点正面にいた防衛用アンドロイドの数がかなり減った。この数なら俺たちだけで、突入して充分蹴散らすことができる。
「よし、行こう。」
周囲を見渡し、ミクとミナ、そして他のアンドロイド兵に声をかける。全員が頷くのを見て、俺たちは第1転送機の扉を開ける。
「では手はず通り、まずは私と数名のアンドロイドで先行します。その後にミナとその配下が、そして最後にマスターと残るアンドロイド兵で突入をお願いします。」
「わかった。では予定通りの手順で問題ないだろう。」
「では行ってきます。」
武装したミクとそのは以下が入っていく。今回もミクの近接戦闘用武装は左の腰に差した2刀だ。女性侍みたいでかっこいいが、都市迷彩服だからなぁ。
続いて、ミナとその配下が突入する。ミナの近接戦闘用武装は連結式の薙刀だ。これも袴だと映えるんだろうが、迷彩服だからなぁ……。
「マスター、私たちが展開し終えたら、30秒後に突入して下さい。」
「わかった。」
ミナ達が転送機内に消えていく。さて、俺たちの番だな。転送機の方に向かって歩き出すと、背中からドンと勢いよく抱きつかれた。あー、これはミサだな。ミサは俺の背中に顔をうずめたまま話しかけてくる。
「ちゃんと帰ってくるんですよ。」
「もちろんだ。今日はポニーテールか。似合ってるぞ。」
「じゃあ、これからずっとポニーテールにするね。」
うん、やる気が出る一言だな。こういうのは俺的に燃える、いや萌えるシチュエーションだわ。ミサの額に軽くキスをして彼女の想いに応える。
「わかった。じゃあ、速攻で片付けて戻ってくるよ。」
「ミサさんだけーずるいですー。ミイもー。」
「いや、時間がないからまた今度な。」
「ずるい」と騒ぐミイを放置して転送機に向けて歩き出す。折角ミサからもらった気力が抜けてしまった……だからお前は残念な感じなんだよ、ミイ。
そんなことを考えながら、クルンテープ・シティに繋がる転送機へと足を踏み入れた。
あまり離れた所から打ち込むと迎撃を受ける可能性があるので、短距離にしておいて、かつ速度もそんなに上がらないだろうし、逆に上げすぎると今度は必要な場所で止まらない、または制動距離が長くなりすぎるので、色々考えた結果、この距離と速度で放り込むという形にしました。
ちゃんと計算してないけど、摩擦係数とかを適当な数値にすれば収まるはず。
ちなみに、これで2023年内の投稿は終了です。




