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やっぱり「物理」が最強!  作者: 和紗泰信
召還されたら無双したい
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交渉は重要だけどさ

 転送機を詰め込んだミサイルを打ち込んでも良いかどうかは中田氏に持ち帰ってもらった。これは俺がどうこうと言うよりも、トウキョウ・シティとクルンテープ・シティの上層部で交渉するべき内容だからな。

 一方、この作戦にOKが出た場合、どこに撃ち込むのか、そこからどうやって敵拠点内に突入するのかについて検討するのは俺たちの仕事だ。というわけで、中田氏を見送った後、俺はメンバー全員を集めて作戦会議を始めた。場所は例の輪卓を置いてある会議室だ。


「というわけで、撃ち込んでも良いかどうかは上で交渉してもらっている。俺たちが考えるべきは、撃ち込む場所とその数、そしてそこからの侵攻ルートだ。」

「なるほど……ハバロフスクの時みたいに建物だけを守ってるんじゃなくて、外部にも防衛部隊を展開して徹底して防御してますなぁ。見事なほどだ。」


 目の前に広げられた目標地点の立体地図と、クルンテープ・シティの警備隊が敵と交戦したときの戦闘経過映像を観て、シロウが唸る。人工知能が自動でまとめた映像を要所だけかいつまんで観ていたが、なかなかに攻めにくい。クルンテープ・シティの警備隊はよくやったと言うべきだろう。

 シロウは録画映像を立体地図上で再現するよう指示を出した。すると、立体地図の上で、部隊がどう動き、どこからの攻撃で破壊されたのかを追いかけられるようになった。実際の戦闘をミニチュア上で観ている感じだな。


「ハバロフスクの時は、外部に出ていた防衛部隊をシティの警備隊が排除したんだっけ?」

「いえ、そもそも外には出て来なかったらしいです。建物自体が歴史的価値の高いものだったらしくて、建物を破壊するような攻撃はないだろうから籠城戦をしても大丈夫だとふんでいたようです。」

「じゃあ、外観をぶっ壊したのはまずかったか。」

「終わったことを気にしても始まりません。その辺は上同士の交渉に任せましょうや。」


 ハバロフスク・シティの時は鉄道がまだ走っていた時代の駅舎だったからな。線路の跡地に強行着陸をかまして、そこから押し入ったんだけど、結構外壁を壊したからなぁ……そりゃ壊したら文句も言われるし、その可能性があるから先方も俺たちの突入を認めなかったわけだよ。でもまぁ終わったことだから仕方がない。補修費用をどこが出すか決めてもらえば良い。俺の知ったことじゃないし。


 で、今回だが……そういう歴史のある建築物ではなさそうだ。だからなのか、通りや橋にまで部隊を展開して守りを固めている。これは厄介だなぁ。


「ミサイルを撃ち込んで破壊するという手もありますが、おそらく敵もそういう攻撃があり得ることは理解していると思われます。建物の屋上に大出力レーザー砲台がありますから、これがミサイル迎撃用のものでしょう。」


 ミナが目標の建物屋上を拡大する。確かに4基ほどの砲台が設置されているのがわかる。十字に配置されているということは、一応全方向をカバーしているんだろう。


「すると、建物の上方から撃ち込むのは無理ですね。」

「砲台は俯角を取れなさそうに見えるけど、隣接している建物が邪魔になるから、下からの接近も無理か。」

「建物を避けてラマ3世通り沿いで飛ばすと、屋上の砲台は避けられても、外に展開している連中が確実に迎撃してくるだろうな。」

「チャオプラヤー川の上だと、ラマ9世橋からの迎撃を受ける、と。」


 ミクが上空からの接近を諦め、ロイとロックが陸地側からの低空侵入を諦める。最後に川からの攻撃はシロウが難しいと判断した。結構キビシイ状況だな、これ。俺と参謀チーム、近接戦闘組が腕組みをして唸り出す。なんか良いアイデアは無いものか。

 するとミサイル突入案を出していた弟くん、もといニックが「何を悩む必要があるんだ?」とばかりに案を出してきた。


「外に展開している部隊は突入カプセルで弾き飛ばして排除すれば良いのでは?エアバッグだと穴が開けられるとマズイですけど、クラッシャブル構造体で衝撃を吸収するようにしておけば、減速の際に進路上のものを破壊してくれますよ。」

「それだ!映像を観る限り、簡単なバリケードとガン・ドロイド、あとはアンドロイドだけだから、衝撃も地面の上を転がりながら減速するのと大して変わらねぇはずだ。」


 えぇぇ……ボウリングのボールがピンをなぎ倒すシーンしか浮かばないんだが。だが、ニックのこの意見をきっかけに、シロウが反応するなど議論が進み始めたのも事実だ。


「そうすると、ラマ3世通りに展開している敵部隊に向けて、転送機を積んだ突入カプセルを突っ込ませる感じですかい?」

「転送機以外にもガン・ドロイドも突入カプセルに積んで放り込めば、転送機で送るのは俺たちとアンドロイド達だけで済むな。」

「とはいえ、屋上のレーザー砲台は脅威っすよ。」

「レーザー砲台かぁ……これ、どの程度の射程だと思う?」

「まぁせいぜい1000mというところでしょう。空気の分子との衝突でかなりのエネルギーが失われますから、それ以上の射程にするには、あのサイズでは難しいかと。」

「すると、逆噴射のガスで突入カプセルの前面に膜を作ればレーザーの威力をさらに下げられるな。これくらいの量を毎秒噴射できるとレーザー撹乱膜になるんだが。」

「いえ、むしろ接地の速度はもう少し速い方が敵の排除には好都合なのでは?あと10%上げれば衝突時のエネルギーを2割増やせます。」

「それ、目標地点で止まってくれるか?通り過ぎると面倒だぞ。」

「敵が展開しているのですから、何も置いていない道路よりも抵抗が大きくなりますよ。減速量は……そうですねこの程度でも大丈夫かと。」

「じゃあー、突入カプセルにつけるーパラシュートはー、このサイズのードラッグシュートレベルでー、大丈夫ですかねー。」

 

 おおう……ゴメン、だんだん何言ってるのかわからなくなってきた。っていうか、なんで作戦会議で数式が飛び交うのかな?数値シミュレーションがこの場で始まるのっておかしくないか?


「マスター?」


 ほら、ミサが「大丈夫ですか?」って顔でこっちを見てるじゃないか。いや、大丈夫じゃないんだけどな。俺の様子がおかしいことに他の連中も気が付いたようだ。いいや、気が付かれてしまったと言うべきか。


「もしかして計算の前提に間違いがありましたか?」

「いや……その……みんなの議論について行けてない……」

「どのあたりからでしょう?」

「……あー……数式が出始めたあたりから、かな。」

「マスターの時代ですと、高校で学ぶ内容ですが……」

「俺、高校で物理取ってなかったんだよ……」


 つい、目をそらせてしまった。だってさ、理系でも物理なんか取らないんだぜ!文系の俺が取ってるわけないじゃん?!

 き、気まずい……24の瞳が哀れむような、いや「これがわからないんだー残念な感じだなー」みたいな感じでこっちを見ている。やめろ、そんな目で俺を見るな!だから前にも言ったけど、ガラスのマイハートが砕け散ってしまうだろ!


「だから教育機で必要な情報を脳内に直接書き込みましょうって言いましたのに。」

「ナノマシンもー、体内への注入をー拒んでますしねー。」

「後でお姉さんが『よしよし』ってしてあげますから。」


 ミク、ミイ、ミサの言葉が胸に刺さる。ってか、ミイですら話について行けてるってのがキツイ。しかし、俺は彼らのマスターだ。マスターというのは、自分では出来ない事でも部下を上手く使って達成するところに意味がある。いやあるはずだ!そう思おう。こうなったら開き直ったもん勝ちだ。でもミサにはあとで「よしよし」ってしてもらおう。これは譲れない。


「その辺の細かい部分は皆に任せるよ。」

「まぁ、マスターがそう言うなら……」

「で、ラマ3世通りに突入カプセルで強行突入するという事で良いのか?」

「それなんだがなぁ……ラマ9世橋の部隊がそのまま放置になるってのが厄介かもしれん。退却の時に攻撃を受ける可能性が高い。」

「あと、屋上のレーザー砲塔も完全に無視して良いのかというのもあります。」


 ふむ。撤退戦がしんどくなるのは避けたいな。ハバロフスク・シティの時は建物の中の敵をほとんど排除できなかったために、追撃戦がメチャクチャシビアになったからなぁ。できれば潰せるものは潰しておきたい。


「だったら、ラマ9世橋にも突入カプセルを送るか。」

「ちょっとでもコースが変われば川に落ちますよ?」

「この橋は吊り橋だからな。着地さえできれば、コースアウトは吊り橋を支えるロープがガイド役になってくれるだろうさ。」

「でも、この橋を制圧しても、建物に突入するには距離があってしんどいんじゃないか?」

「ですからヤヒチさんを送って、屋上のレーザー砲台を遠距離射撃で破壊してもらいましょう。結構高い橋ですから、射角は充分取れると思いますし。」

「まぁ、この位置からだったら、射撃は可能だな。」


 指名されたヤヒチも問題無さそうに返答をしている。


「だが、射撃中は無防備になるから、敵から守ってもらう必要がある。」

「それなら、クミさんとクウヤさんにお願いしましょう。」

「いや、ヤヒチだけだったらなんとかできるが、敵がそれなりの数残ってると俺たちだけじゃ難しい。」

「じゃあ、ガン・ドロイドだけで接近する敵を排除できないようだったら、ロックのチームを付けるとしよう。それなら何とかなるだろう?」

「まー、何とかなるんじゃないかな~。」


 うん、これでラマ9世橋とレーザー砲台はどうにかなるだろう。あとは拠点に突入する部隊の方だな。こちらはラマ3世通りからの突入で良さそうだ。


「では同じ方法で、ラマ3世通りに弾頭を突入させ、バリケードや敵勢力を物理的に跳ね飛ばして排除。あとは拠点内への突入はマスターとミナ、そして私。周辺の制圧はシロウとロイのチームで行うというのが基本方針で良いですか?」

「異議なし!」

 

 ミクが拠点の制圧方法をざっくりと確認したのに対し、他のメンバーが同意する。詳細はまだまだ詰める必要があるが、俺としてはこの程度がわかっていれば真田氏や中田氏と交渉できるからな。充分だ。よし、じゃあ交渉方針の確認だけはやろう。


「そうしたら俺は、ラマ9世橋とラマ3世通りの表面を削ることになるからよろしくね、っていう感じで交渉すれば良いよな?」

「そうですね、それで問題は無いかと。」


 細かい作戦内容を詰めるミク達を会議室に残し、俺は応接室へ移動して中田氏を呼び出す。決まったことはキチンと説明しないとダメだからな。中田氏の立体映像が現れ、ソファに座るのを見て、説明を始める。


「基本的な方向性としては、ラマ3世通りから敵拠点へ突入する形となる。ただしその前に屋上のレーザー砲台とラマ9世橋に展開している敵戦力も排除することにした。」

「部隊を2つに分けるのはキビシイのでは?」

「いや、敵戦力自体の排除は物理的に物体を衝突させることで弾き飛ばす。具体的にはミサイルの弾頭というかロケットのペイロードというか、ガン・ドロイドを積んだものと転送機を積んだものを複数用意し、それを道路に沿って滑らせていくことで減速しながら、展開している敵戦力を弾き飛ばして無力化する。まともに敵の相手はしない。」

「それはまた……思い切りましたな。」


 中田氏の顔が一瞬引きつったように見えたが、まぁこれくらいは想定内だ。


「ああ。まずはラマ9世橋側の敵を排除し、積み込んだガン・ドロイドが周辺から集まってくる増援部隊を足止めしている間に、橋の上から拠点の屋上に接地されたレーザー砲台を狙撃して破壊する。」

「なるほど。」

「レーザー砲台が無力化できたらこのチームは撤収する。そのタイミングで、今度はラマ3世通りに沿って同じことを行い、ガン・ドロイドが増援を抑えている間に、俺たちが敵拠点に突入してサーバールームを破壊する。ガン・ドロイドは使い捨てる。」

「その辺は構いません。すると、橋と通りの舗装がぐちゃぐちゃになるのをクルンテープ・シティ側が許容できるか、ですかね。」

「まぁ、それもペイロードの側で工夫すればなんとかなるかもしれない。その辺はまだ検討中だから、決まったら連絡するよ。」

「わかりました。では私の方でクルンテープ・シティとの打ち合わせを始めます。」

「ああ、任せる。ただ、作戦内容が漏れないようにだけ注意してくれ。」

「そこは抜かりありません。」


 さて、基本方針は決まった。あとは詳細を決めて実行するだけだ。あとでミサに頭をなでなでしてもらおう。

次回からミッション2がスタートです。

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