第三十九話:九条真琴という魔術師1
※少し長めです。
兄貴の死に関する真実を知った私と琥珀は、再び兄貴が亡くなったあの山に足を運んでいた。聞き込み調査をするためだ。
「九条家のアジト……?」
聞き込みをしている中で、私達は有益な情報を得ることができた。狐の妖が神妙な面持ちで頷く。
「この辺りでは昔から、九条家が魔術師としての地位と能力を高めるために山奥のアジトで夜な夜な良からぬ実験を行っているという噂が絶えないのじゃ。凶悪な化け物をこの目で見たという者もいる。中には、山の深部に入ったっきり戻って来なかった者もいるくらいじゃ」
話を聞きながら私と琥珀はやはりそうか、と互いに視線を合わせて小さく頷いた。兄貴の死に九条家が絡んでいることはほぼ間違いない。
「故に多くの妖は九条家の魔術師には近づかないよう細心の注意を払っている。山の深部に向かう命知らずもおらん。実験を行っているのは九条家の前当主らしいが、現当主もかなりの悪徳魔術師と聞くし、一族そのものが腐りきっておるようじゃから、一族全員が関わっている可能性も高いじゃろうな」
「前当主?」
「現当主の兄のことじゃ。詳しい理由は分からんが、なんでも、ある魔術師の恨みを買い、罠に嵌って禁忌を犯したことで一族を追放されたそうじゃぞ」
この妖の話によると、九条真琴には兄がいた。その兄が、他の魔術師が企てた罠に嵌められたことで一族を追放され、当主の座が兄から弟に移った。その後、兄の行方は分からなくなっているとう。
「まぁ、九条家は元々、悪い噂の耐えない一族じゃったからのぅ。その話自体、本当かどうか怪しいところじゃが」
話を内容からするに、行方をくらませたという九条家の前当主が実験に関わっている可能性は高いだろう。誰もが知る悪どい一族なら、その次期当主が本当に禁忌を犯していたとしてもなんら不思議な話ではない。問題は、九条一族がそのことにどれだけ関与しているかだ。
森の中の草原で、私は仰向けに寝転び青い空を見つめる。ヨツバさん、ミツバさんと出会ったあの場所だ。
九条家の実態を知った今、御三家の人間としてどう動けばいいのかまるで分からない。
琥珀と一緒にごろりと寝転んで考えこんでいると、突然、琥珀が変化を解いて唸り声をあげた。
その理由は私にも分かった。琥珀が睨みをきかせるその先に、かの人物が立っていたからだ。
「こんな山奥まで一体なんの用?」
琥珀の隣に立って私は目の前に立つ人物ーー九条真琴を睨みつけた。
「お前達がこそこそ九条家について嗅ぎ回っていると聞いてな」
「嗅ぎ回られちゃ困ることでもやってる訳?」
思わず語調が強くなる。気持ちで負けたら終わりだと、そういう緊張感が漂っているからかもしれない。
「お前は確か……あの水無瀬暁人の妹だったか」
不意に九条が纏う空気が変わった。ピリっと緊張感が溢れ、殺気を含んでいるように感じる。
「兄を知ってるの?」
「知っている……?」
私の問いに、九条は渇いた笑いを漏らした。
「知っているさ。お前の兄のせいで俺の兄貴は一族から追放されたんだからな……!!」
その鋭い視線には今度こそ間違いなく、強い殺気が込められていた。
だが、言ってる意味はまるで分からない。兄貴が原因で九条家の前当主が一族から追放された?
「あれだけのことをしておいてよくいうわね。あなたのお兄さんに私の兄は殺されたのよ」
「殺す……?デタラメをいうな!お前の兄が俺の兄から魔術師人生を奪ったんだ!」
目の前にいる九条の様子から、彼が本気で私の兄が九条家の前当主を一族から追放したとそう信じているようだった。
私は違和感を覚えた。なにかがおかしい。なにかが決定的に噛み合っていない。そんな気がしてならない。
「俺の目的を潰し、九条家の衰退を狙い、九条家の魔術師としての発展を阻害するお前は邪魔でしかない」
九条が周囲に火の玉を展開する。本気でやる気なのだとそう伝わってくる。
「やる気ってわけね。受けて立つわ」
私と琥珀は瞬時に臨戦態勢を取る。
「お前にはここで消えてもらう」
ーーこうして唐突に。戦いの火蓋は突如切って落とされたのである。
※第五章突入しました。次回更新は明日の予定です。
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