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第三十六話:飲み比べ

※続きです。

花咲神社は、勝負の神を祀っているごく小さな神社である。入口にそびえ立つ赤い鳥居をくぐって境内に足を踏み入れる。神社特有の厳かな空気が私達を包み込んだ。

「た、たのもーう……」

「決闘でも申し込むつもりか。お前は」

「だって、なんて声をかければいいか分からなくて……」

私と琥珀がそんなやり取りをしていると突如ドシン、と地鳴りがした。驚いて視線を向けると、いつからそこにいたのか、賽銭箱の前に身体の大きな赤鬼が立っていた。紺色の着物を着て、草履を履いている。その首にはネックレスのように小ぶりの水晶を身につけていた。がたいがよく丸々とした身体つきだからか、威圧感が尋常ではない。私は思わず背筋をピンと伸ばす。

「お前達……何者だ?」

「私は水無瀬千暁。こちらは相棒の琥珀。魔術師です」

「魔術師がなんの用だ」

「訳あってあなたが所有している水晶を貸して頂きたく、交渉に来ました」

「これは邪を払う神聖な水晶。この力を使い、私はこの神社を守っている。他の者に易々と触れさせる訳にはいかん」

「無理なお願いをしていることは重々承知です。でも、どうしてもその水晶が必要なんです」

「……そこまで言うなら、貸してやらんこともない」

「本当ですか!!」

「ただし。条件がある」

「条件?」

ちょっと待っていろ。と言い残し、赤鬼は本殿の奥に姿を消す。しばらくして戻って来るとその右肩には大きな樽がかつがれており、左手には三つの盃を持っている。これはもしや。

「我が名はセンリュウ。このセンリュウに飲み比べで勝つことができたなら鏡を貸してやる」

やっぱり。という言葉は口には出さなかった。私と琥珀は自然と互いの顔を見合わせる。そして、ニヤリと笑った。なぜならこの勝負、勝ったも同然だからだ。

「なぜだ……人間のくせになぜ酔わない?」

赤鬼が赤ら顔でそう呟いた。もう長い時間飲み比べをしている。ついに酔いが回ってしまったようだ。

「千暁はザルだからな」

私の隣で顔を真っ赤にした琥珀が盃を持ち上げながら愉快そうに答える。琥珀まで酔ってどうする。私の護衛はどうした。

「もう……無理、だ……」

それだけいって、盃を投げた赤鬼はドスンと仰向けに倒れ込んだ。限界を迎えたのだろう。

「お前の勝ちだ……水晶は貸してやる。ただし……貸すのは明日の一日だけだ。明日の日没までに帰しに来い……それから、水晶を使う時には呪文が必要になる……呪文は、悪しき力よ、光に還れ。だ……」

赤鬼が鏡を差し出す。私はそれを受け取り、お礼をいう。

「ありがとうございます!!」

私に水晶を渡すとそれっきり、赤鬼は喋らなくなった。代わりに耳をつんざくようないびきが聞こえてくる。本格的に眠りに落ちてしまったようだ。

とにもかくにも、水晶を借りるという任務は達成した。私は胸元でギュッと小さな水晶を握りしめた。

※もう少し続きます。

次回更新は明日の予定です。

Copyright(C)2023-音愛

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