第三十五話:更なる依頼5
※前回からの続きです。
「琥珀、どういうこと?」
「こやつらは恐らく、月詠の郷と呼ばれる幻の郷の住人だ」
「月詠の郷?」
「人には見えぬ別次元、別空間と呼ばれる場所に存在する幻の郷だ」
「……よく分かりましたね」
「月詠の郷の住人は皆、小人のように小さく、三日月の紋様が入った衣を身にまとっていると聞く」
確かに、ヨツバさんの着ている羽織の胸元には、金色の糸で刺繍された三日月が施されていた。
「なるほど……物知りなお方だ」
ヨツバさんは弱々しい笑みを浮かべる。個人的な話だからか、あまり知られたくない話だったようだ。しかし、意を決したようにその続きを話してくれた。
「仰る通り、私達は月詠の郷の住人です。私共の郷では、魔力が一定量ある者は誰でも人間界に続く扉を開けることができるため、自由に人間界に行くことが許されておりました。私達兄妹は好奇心から人間界に頻繁にやって来ていたのですが、いつものように人間界に滞在している間にあの悲劇に見舞われてしまった。妹のミツバは魔力が弱り、とてもじゃないが郷へと続く扉を開けることができなくなってしまった。一定量の魔力がなければ扉が開かないのには、それなりの魔力がなければ人間界へ出たところで危険に見舞われる可能性が高くなるという理由があるからです。よって、ある程度自分で身を守れる者でなければ扉は開けられないのです。もちろん、通ること自体ができない。それは等しく月詠の里側からも。人間界側からも。故に私が扉を開けたとしても、ミツバは通れない。弾き出されてしまう。けれど私は妹を置いては行けない。情けない話です。本当に」
ヨツバさんはその時のことを本当に後悔しているのだろう。人間界に行こうなどと考えなければ、ミツバさんは呪いをかけられずにすんだ。だからこそ、話すのが辛かった。できるだけ口にしたくない内容だったのだろう。
それだけヨツバさんの声音には深い絶望が滲んでいる。
それに、とヨツバさんが続ける。
「仮にミツバの魔力が回復してもこの呪いが解けない限りは私達は郷には戻れない……」
「というと?」
「郷には魔力のほとんどない赤ん坊や小さな子どもも沢山います。呪いを受けたミツバが郷に帰れば、その強い力に当てられて魔力の弱い者達は呪いをその身に受けてしまいます」
つまりは、伝染してしまうということだろう。事態は思っていたよりも深刻だった。
「琥珀。なにか方法はない?呪いを解く方法」
しばらく考えた後、琥珀はあっ、と声を上げた。
「そういえば、この近くの花咲神社に住まう妖が邪を払う神聖な水晶を持っていると聞いたことがある。その水晶を使えば、呪いを祓えるかもしれん」
それを聞いた瞬間、私の心はすぐに決まった。
「行こう。琥珀」
※次回更新は明日の予定です。
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