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ポスト・ユニバース  作者: 我楽娯兵
砂塵・熱・動乱
19/58

第19話

 休みだ。

 はてさていったい何をすべきなのだろうか。俺はベットの上で目を覚まして、ベット横に置いているスマートグラスを掛けて時計を呼び出すと、アフガニスタン時刻で午後二時を示していて、俺は寝返りをうってベットの気持ち良さにダラダラと過ごしていた。

 休みだと言うのに、無意味にこうして過ごしていくのは何と言うか勿体ない気もしないが、しかしこの快楽だけはどうしようもなかった。

 抗えない。気持ちいんだ、この気持ち良さだけは何にも代えがたい。

 飯を食うのは楽しい、腹が膨れて満腹感で満足する。セックスをすると気持ちい、チンコが爆発してしまいそうなほど全身の力が抜けていくようだ。それと同じように睡眠欲は勝る。流石三大欲求と言うべきか。

 しかしながら未だにこうしてベットの中で燻っているのはどうにかすべきだろう。

 ベットの中で俺は近況を書き記した雑多なメモ群を引っ張り出し、日課と言うか寝起きで覚えている夢の日記を見てボーっと眺め、煙草を咥え火を付けた。

 スーっと紫煙を吐いて夢日記の内容に鼻笑いが漏れる。

 文章としても成り立っていないハチャメチャな内容に面白さが勝り、俺もようやく体を起こし、夢日記を閉じた。

 せっかくの休みだ何も急ぐ必要もないが、せっかくの休みなのだからどこかに行こうか。

 Tシャツにスウェットパンツのゆるゆるスタイルで俺はテントを出ると、相変わらずの赤道直下の日照りに眩暈がしてきそうになる。


「ん、んンー……はァ。今日もいい天気……」


 昨日の酒も抜けている。二日酔いではないがちょっとだけ頭痛もする中で、俺は購買部のトレーラーに立ち寄ってコーヒーを頼み、likeを支払った。


「ハイよコーヒー。砂糖はいるかい」


「たっぷり入れて、甘い汁にして」


 俺はそう言い大匙四杯ほど砂糖を投入されたコーヒーを受け取って、トボトボと歩き回って手頃な日陰を見つけて腰かける。

 相変わらず忙しなく稼働し続ける油田プラットフォームな事あって油臭さは否めないが、そろそろここに来て一ヶ月近く経つ、匂いにもいい加減慣れてきた頃だった。

 熱々のコーヒーの甘汁を啜って一息ついて、周囲を観察すると不思議と働いている人間の人種が分かってくる。

 翻訳機で終ぞ喋る言語が翻訳され、顔つき、肌の色やら衣服のそれでどいつがパキスタン人かアメリカ人かが分かる。

 ホーク・ディードの人間は基本的にラフな服装でサングラスに帽子で、手に電子ナノ表示パピルス、アイパットの究極進化版の電子機器を持って作業員に指示を飛ばしている。

 ドラゴも行き交っていて、どれも安価な第一世代でダンプの代わりに重宝されている。基本的に機械作業で、現場担当の現地人もドラゴを乗って、掘削予定場所に大型の地中掘削ドリルの設営に大忙しだ。

 夜は稼働を停止するが、昼間となればそれはそれは騒音だ。あちこちで轟音が鳴り響き、砂塵が舞い上がり、原油の半精製の為プラント輸送で白い白煙があちこちでこれでもかと立ち上っている。


「ズズズッ……あー。なーにするか……」


 俺もこうして腐っているのはやぶさかではないが、しかしせっかくの休日に何もしないと言うのは勿体なくある。

 休日班には毎日作業員の送迎に使われているバスを利用した街への外出が可能なのだが、そのバスも俺の惰眠で疾うに出て帰ってくるのは夜になってからだ。

 まあ、有り体に言えばやることはない。できる事もない。

 鼻歌でも歌おうか、それとも素っ裸になってダンスでもしてやろうか。それくらいやる事がないのだ。

 どうせ街に繰り出したところで、ホーク・ディード社員はまっすぐ売春宿に直行してしっぽりして終わりだ。女の子とムフフな事をしたとしても俺は残念ながら鬱の影響なのか単純にお独り様のし過ぎでインポになったのか、恥ずかしい事に今迄経験してきた中で女性との関係で最後まで行ったことがなかった。イッた事がなかった。

 重要な事なので二回言っておこう、いやいや二回と言わず三度言おう、イッた事がないのだ。

 何と情けない事か。俺の自慢することは少し大きいとこだけで、フィニッシュが出来ないとは何と情けない。

 やめよう。この考え、考えていて情けなくなってくる。

 やる事も無ければどうすることもない。俺はふらっとドラゴの格納エリアに向かった。

 専用機と言うものは俺達ドラゴ乗りには無いが、乗る頻度の高い機体と言うのは必然的に出てくるもので、愛着のある機体には操縦士、ドラゴン・ライダーがデカール、自らを示す象徴のようなエンブレムを張り付けることが儘ある。

 ホーク・ディード社の中にもそう言った輩はいて班員内でデザインの上手いやつがデカールを作り機体に張り付けると言う行為が横行している。

 俺達、バタフライ・ドリームの中ではそういった事はないが、バーンズ軍曹の所ではデカールでベタベタの機体をよく見かける。

 因みにバーンズ軍曹の機体には『不能』と漢字で書かれたデカールを張っている。何に対して不能なのかはこの際聞くまい。

 柊も班内でのデカールが欲しい欲しいと喚いていたからに俺もちょっと気になってくる。整備部の連中の中にはデカールで生計を立ているヤツもいると聞く、顔を覗かして見るのもいいかもしれない。

 フラフラとあっちに来たりこっちに来たりそんな事をしながら整備部のトレーラーに向かい、そこを見ればドラゴが何十機も着座姿勢で待機している光景は圧巻。

 ちょっとした武器の見本市であり、弾丸の一発一発を数えだせばキリがない。

 俺は色々とドラゴの特徴を見えて面白く、名前を復唱しながら同時にデカールエンブレムの柄を見る。


「DS60.エルサルバドル……ほー、十字架に弾丸デカールカッコいいじゃん。……こっちは97式伏龍、龍が太陽を呑んでいるデカールなのかこれ……」


 製造国もバラバラだ。それもその筈でR.G.I社が仕入れるドラゴは基本的に性能重視でアメリカでも中国でも、性能が良ければそれを仕入れて社員に与える。

 R.G.I社、ライオット・グラディアス・インダストリーは武器商を主だった業務としていて、武器を『作る』のではなく武器を『売る』会社であって、ある種の運送会社だ。だから客のニーズに合わせて武器を売りつける。

 当然、武器商人となればレイダーやら反政府勢力からは引っ張りだこで、それを避けるための、ホーク・ディード社が設立されたのだ。

 それ故に、様々な機体を乗る機会が与えられ、俺達バタフライ・ドリームはG-12グレイが与えられた。

 アメリカ生産レイセオン社の第二種機主力ドラゴである、G-12グレイは機体制御系は軟殻姿勢制御であるが故に扱いやすい機体で、豊富なセンサー類はハッキリ言ってこういった拠点防衛には向かない機体だが、如何せんオプションパーツが豊富で各種環境によってチューニングできるから色々と便利だ。ハードポイントの数も多いい。

 日本産のドラゴで言うのなら三菱の10式昇竜、第一種機ドラゴが有名どころで制御系は軟殻ではないが、ロボット系に強い安川電機を引き込んで柔軟な間接制御卓で一部のマニアには人気の筐体だ。

 だが現在のドラゴの制御の主流は軟殻で、体制御系を兼ねて戦術メッシュデータリンク機能の他に衝撃吸収もあるからなかなかに優秀だ。

 だが、そこが問題で。軟殻はマイクロ回路をシリコンで作っている為に値段が張る。たぶんドラゴで一番値段が高くつくのが『軟殻』であり、その事もあって戦車一台と変えても軟殻は保護しろと整備部は五月蠅い。


「撃ちあってんのに軟殻を守れるかっての……」


 愚痴を言いながら俺は整備部のテントに入る。

 制御卓の前で何やら軟殻の調整に四苦八苦している整備員たち、機械の研磨音が聞こえる所では近接格闘マテュテの研磨に必死な奴らもいるし、別の場所では超長距離狙撃用にアンツィオ20mmドラゴ改良狙撃ライフルのデジタルスコープの調整をしている連中がいる。

 皆、武器に熱心に眼を向けていて、ここにいる連中は人と喋るよりも機械戯れていた方が楽しいと言う連中で、人類と対話することに長けてない連中だ。

 そんな中で浮いている連中がいた。


「あ、倉敷っち。おっすー」


「何してんの柊」


 そこにいたのは柊とドクだった。

 二人揃って機械端末の前で相談しているようで、そのディスプレイに表示されていたのは可愛らしい妖精の画像だった。


「デカール、ドクに頼んでたの」


「おいおい。こんな可愛いの機体に張る気か? 。おりゃあ勘弁だぜ、こんなの」


「ええ? 。いいじゃん可愛いのアタシ好きだよ」


「私もこれは少々緊張感に欠ける気がするんだがな。まあ、比嘉がそういうのならと作ってみたが、どうだ? 。班員のお前の目から見て」


 ドクがそう言い聞いてくるので、手でバツ印。

 当然だ。あんまりにも可愛すぎる。何だろうか、一時期ピンク色のハローキティ仕様のM4ライフルの画像が出回った、そんな雰囲気を感じる場違い感。

 可愛ければいいなんて、ぬいぐるみじゃないんだ。


「妖精ってチョイスだよ、チョイス。ドラゴに不釣り合いだろ?」


「ええ? 。そう? 。ああでもオランダのドラゴ部隊のデカールは妖精がモチーフだよ」


「ファーフナー騎士団だろ? 。あそこは違うだろ、なんて言うか。俺達の乗るグレイにはこの妖精チックなデカールは場違いだ」


「でもさぁ。アタシたちの班名は『バタフライ・ドリーム』じゃん? 。蝶の夢なんてメルヘンなのそうそうないじゃん。蝶って言ったら妖精じゃん?」


「ベルセルクじゃないんだ。一服の清涼剤目指してんならもっとこう、ミリタリー風なのが俺がいいと思うがな」


 ドクはそういう俺の意見にすぐさま反応し、デザインに訂正をしていく。


「てゆうか。ドク、デカールのデザインできたの?」


「ここに来ている班の全てが俺のデザインだ。デカールは班の特徴を表すのに必要な象徴だからな。まあ大体アメコミリスペクトのデカールを注文されるんだがな」


 ああ、そっか。デカールの発注はドクの副業なのだ。

 ドクター・ホーンワームの主業務は俺達の身体検査及びピューパ素子の振る舞いの観測であり、それが終わったのなら暇と言うので、学生時代のデザイン志望で勉強の知恵を生かしデカール作成の副業をしているそうだ。

 デザインで言うならかなりカッコいい。過去に造ったデカール一覧を見て見るとどれもカッコいい、班員の国籍や機体の特徴、名前からとったデカールで判別がしやすい。


「やっぱ竜のデカール多いね」


「『ドラゴン・シェル・スケール』だからな。竜の名前を取った部隊も多い。必然的に竜に寄る。その点で言えばお前たちバタフライ・ドリームはある意味個性の出しやすい名前だ」


「蝶々だし、可愛く仕上げてよードクー」


「あ! 。俺ドクロとかがいいわ」


「ええ?! 。ドクロ? 。おどろおどろしいのチョイスしないでよー、怖いじゃん」


「兵器に可愛らしさ程必要ねえっての。なあドク、ドクロで蝶だったらどんなデザインになる?」


 さささっとドクがデザインを考えディティールをAIの画像生成機能を使って作る。

 んんー、なんかどっかの映画のパッケージで見たような。


「あ、これなんか沈黙の羊たちのデザインに似てる」


「蛾じゃん! 。これ! 。もー、私蝶々のデカールじゃないとやだー」


「作るこっちの身にも慣れ、アイディアだって無尽蔵じゃないんだ」


 ヤダヤダと駄々を捏ねる柊にドクは頭が痛いと言わんばかりにうーんと考えていた。


「班員の特徴取ってさあデザインしたら?」


「ふむ、どんな」


「俺だったら、鬱だし薬? 。錠剤のデザイン取り入れてさ、柊は蝶々がいいってうっさいし、蝶を基準に考えてー」


「うっさい言うな」


「蹴るなよ馬鹿」


 俺が軽くデザインのアイディアを出していく。

 俺は錠剤。柊は蝶。紙白はマリファナ、煙でいいだろう。葛藤さんは日防軍って事でミリタリー、軍事で銃って事で。

 そうデザイン案を出すと、ドクはさらさらとそれを纏めてデカールデザインを作る。

 煙を背負ったカプセル錠剤の胴体を持つ白い蝶が銃口に止まっているデザインだった。羽は歯車の模様を描き出し綺麗だ。


「いいデザインじゃん」


 俺は納得して、柊はあんまり納得していない様子だったが、何とか納得していた。バタフライ・ドリーム班のメッシュネットのオープンチャンネルにこのデザインを送って、班のデカールにしないかと投稿してみると、紙白からは。


『いいんじゃない?』


 と返事が返ってきた。葛藤さんは少し時間が掛かって既読が付き、コメントで。


『好きにすればいい』


 と、返信が返ってきた。

 満場一致でこれでいいと言うのでドクに印刷のゴーザインを出し、プリンタからデカールが四枚出力される。

 俺達のドラゴの所に行き、肩にそれを張り付ける。

 ハードポイントを避けて見える位置に薬漬けのミリタリーバタフライを見せつけるように、出来るだけ見えるように。


「うっし、なかなかじゃね。イメージあるだけで結構カッコいいな」


「でしょう? 。アタシって天才じゃね?」


「天才は天才でもバカの天才だがな」

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