表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポスト・ユニバース  作者: 我楽娯兵
砂塵・熱・動乱
15/58

第15話

 僅かな草草がまだらに生え、山々は青茂る、とも言えない。荒涼とした風景に砂と乾燥した風と、埃っぽい風に混じる微かなガソリンの油臭。

 俺は砂色の山々の山面に警戒し周囲を睨みつけていた。チカチカと眩暈を起こしてしまいそうなほど日は照りつけ、そして静かだった。


「セットしました。アンカーボルト、射出」


 地面に轟音を立てて杭を打ち付け、通信ユニットのパラボラアンテナを設置していくアジ・ダハーカ旅団の作業状況はまあまあ順調、少しだけ不手際で作業が押しているが、この作業ペースだと、日が暮れる前には間違いなく終わる。

 設置予定ポイントの算出にも通信ユニットが必要でメッシュネットの並列演算処理能力を必要とする為に、とにかく今は通信手段の確保が急がれている。


「発電ユニットの設置に入ります」


『了解した。バタフライ3、センサーに反応は?』


「今のところはないです。アイ・ドールの地表レーザースキャンの周囲百キロメートル圏内で移動物6個確認。ウサギにヤギ、お、あっちにはヒョウがいる」


「動物園じゃねえんだってんだ……」


 ぼそっと呟くアジ・ダハーカ旅団の一人に俺は気づいていたが口出しはしなかった。

 面倒事は避けて通るべし、避ければ余計な軋轢は産まれない。

 ボルトガンを地面に打ち付け小型ソーラーパネルを太陽方向に向け、光センサーの調整に入るのを監視するように俺は一瞥し、再度ドラゴのセンサーに眼を向けていた。

 退屈だ。だが、ただ退屈なだけでなく異様な緊張感が背筋にビリビリと感じる。何かここら周辺、俺達を中心とした周辺が物々しい雰囲気を醸し出しているのはなぜか、それはここが戦闘地域に区分されているからだ。

 何度も何度も再三注意しているのにアジ・ダハーカ旅団は馬鹿だった。

 出発早々に、一人がブービーのクレイモア地雷を引き当て一機ドラゴがお釈迦になって、ようやく自分たちがどういった所に生身で踏み込んだのかを理解したようで、元々軍人の様子を漸くとばかりに引き出してきた。

 わざわざドラゴがダメになってようやく感じるようでは馬鹿と言うほかない。

 素人の俺達が初めから分かっていながら現地人であるアジ・ダハーカ旅団がこれでは後が思いやられる。


「発電ユニット。設営完了。次のポイントを算出する」


 俺と葛藤さんが軟殻のメッシュデータリンクに設営したばかりの通信ユニットを起動させ地形データやら地熱データやらを油田基地のネットワークと共有し、ノードドメイン化を終了させる。


「残り3つだ。巻いて行くぞ」


 俺達は歩き出し、切り立った山々を踏破し山の頂に5番目の中継機の設営に入る。


「南東50度。なんかいる」


 アイ・ドールのセンサーに引っ掛かったそれに俺はブローニングを構え睨みつける。距離としては有効射程ギリギリで、これでは牽制程度だろうが、葛藤さんが制止した。


『待てバタフライ3。民間人だ』


「え? でもあれどう考えてもドラゴ乗ってますよ」


 俺はセンサーカメラを最大拡大しその姿をばっちりと捉えた。

 特徴的な中東の民族服にアジ・ダハーカ旅団と同じプレーンのドラゴに乗り、操縦士の背中にはしっかりと小銃が、しかもドラグノフ狙撃銃が下げられていた。


『撃つな。民間人かも知れん。敵じゃなかった場合国際条約に抵触する』


 いくら民間軍事会社と言えど見境なしに銃を持ったドラゴ乗りを敵と看做して撃っていたら。今頃戦場はそれこそ死体の山が作られている。それを避けるために、人道的配慮の為にジュネーブ条約が存在する。

 面倒な話、この場面で俺達があのドラゴ乗りを撃つというのは奴がこっちを撃ってこない限り不可能なのだ。


『歯痒いよな。だが専守防衛は俺達の仕事だから』


「日防軍だとそうでしょうよ……」


 俺はブローニングを下ろしてそれを睨みつけるように乗り手の人物にカメラを再度拡大して顔を見た。

 それは少女だった。年端もいかないぐらいラシードと同じくらいか少し上くらいの少女でチャードルという頭巾のようなそれを被るその姿。よくよく見ればドラゴの手には頭陀袋が握られていて僅かに血が滴っていた。


「狩り、か……」


 俺はそれを見て安心し、設営隊の警備に戻る。


「アンカー固定完了。発電ユニットの設営に入ります」


 ソーラーパネルを斜面に設営している最中、アラームが鳴りマップを開いた。

 それは落鉄予報警報であり、規模範囲を確認すると、ついさっき設営した4番中継機と3番が落鉄の範囲に入っていた。

 たしか業務マニュアルにこういった場合はどうすべきか指示があった。


「どうします? 落鉄予報ですって」


『マニュアル通りに行く、ここは範囲に入っていないしこれ設置したら一旦基地に戻ろう。皆、ここを設置し終えたら基地に引き返します。その際に3・4番の中継機を回収して落鉄予想範囲外に撤収します。──急いで』


 そう言いアジ・ダハーカ旅団がソーラーパネルを急いで設置し、撤収準備を開始した。まったく付いていない。

 嫌な予感が悉く的中していく。落鉄の心配してその落鉄がここいら周辺に落ちてくるなんて、このまま敵襲だなんて言わないだろうな……。

 俺達は出来うる限りの最速の速度で足を進めた。まったくこういった状況下でもアジ・ダハーカ旅団は足を引っ張ってくる。

 プレーンのドラゴは基本構造体で筋肉アクチュエータもロードホイールも装備していないから必然的に二足歩行で移動する必要があって、走って通信ユニットを回収していくにしても、重量比とその速度を考えても落鉄予定範囲から抜けられるのはギリギリになりそうだ。最悪通信ユニットを廃棄して逃げるに限る。


「ソーラーパネルは後でいい。通信パラボラユニットの回収を先にしろ」


 俺はアジ・ダハーカ旅団たちに指示を出す。発電ユニットは幾らでも変えが効く、油田基地の発電で送電設備がない為にソーラーパネルで自家発電する為にパネルユニット自体はあまりが出るようライオット・グラディアス・インダストリーが多めに積んできていて余裕がある。しかし通信パラボラユニットだけは百ぽっきりしか積載されていなかったためにそれでやりくりしないといけない。


「くっそ、なかなか抜けないぞ……」


「どいてろ俺が抜く」


 俺は作業中のアジ・ダハーカを退かして岩に打ち込まれたアンカーボルトをドラゴの指で摘まんで引き抜いた。何から何まで足を引っ張ってくる。

 こういった時に力仕事が必要になった時プレーンのドラゴだと出力が足りない。指先で摘まんで杭を引っこ抜くのも筋肉アクチュエータが力を増幅して引き抜くのに。


「ほら、ユニット背負え……このペースだと巻き込まれるな……葛藤さん。ソーラーパネルはこの際諦めましょう。このままじゃ巻き込まれますよ」


『そうだな。装備よりも人員を優先すべきだな』


 俺達は急いで撤収し走ろうとするが、アジ・ダハーカのドラゴの脚が遅いのなんの、堪忍袋が切れた俺がアジ・ダハーカのドラゴを掴んでドラゴで牽引しするなんて本末転倒もいい話じゃないか。

 3番ユニットも回収し終えて俺達は落鉄予想範囲外へと出た。

 落鉄タイマーが後二分と言ったところだ、多少余裕が出たがもっと離れないといけない。

 人工衛星の落下は偏に運動エネルギー体の塊で、アメリカが空軍が開発していた『神の杖』、劣化ウランやタングステンの棒を宇宙空間から地表に向けて打ち込む兵器と同じでその威力は大体戦略爆撃機2機分の威力が1メートル円内に集約する。

 無論そんな威力のある隕石爆撃にも似たそれがこの山岳地帯に落ちたのなら落石の危険もあるし、周囲に飛び散った破片は周囲5キロ圏内に降り注ぐことになる。

 そうなった時に落石でアジ・ダハーカが被害を被った時に損害賠償の補償対象ホーク・ディードの契約内容にあるのだ。まったく安請け合いのし過ぎだ。


『もうすぐ落鉄が来る。衝撃に備えろ!』


 葛藤さんがそう言い対ショック姿勢を俺達は取った。

 俺のドラゴのセンサーカメラは確かに空の端から、降ってくる鉄の塊があった。流れ星、隕石、言い方ならいくらでもある。だが、それは自然物ではなく人工物。大気成層圏からの空気摩擦抵抗加工を施され熱で融解しないように作られた人工衛星。

 光を放ちそれが瞬間には地表に落下していた。

 ──爆音。──轟音。──地鳴り。──振動。

 ドデカイきのこ雲が立ち上って、空に残骸が飛散している。

 モバイル衛星、固定衛星サービス、偵察衛星、通信衛星用途は様々だが、こうなってしまうとただの等しく鉄くずだ。


『初めて見るが……凄まじいな……』


 確かにこれは凄まじいし、見ているこっちが爽快に感じる。これが自分の頭の上に落ちてくるッと考えると……想像するだけでも嫌だ。

 粉々になるどころじゃないだろう。アイ・ドールは何とか爆風に持ち堪えて飛翔していて落下地点を観測すると、地面のガラス化も確認できるほどだった。


「ああいやだいやだ。死ぬのだけは勘弁だ。死ぬにしても五体満足でしにたいな……」


『同感だ』


 対ショック姿勢を解いて俺達は立ち上がって、通信エリア再算出をしようとした時だった。


『こちらコマンドポスト。全ホーク・ディード社員に通達。30班がレイダーの強襲を受けた。支援に迎える班はいるか』


 俺は葛藤さんがを見ると、データリンクを開くようにジェスチャーしていた。

 メッシュネットを開いて、30班の事前作戦行動範囲を地図上にマッピングする。不味い、ここから近いぞ。


『こちらバタフライ・ドリーム。半班でしたら急行できます』


『コマンドポスト。支援要請が来ている。お守は程々でいい。実効安全地域内ならばすぐに向かってくれ』


『了解です』


 俺はブローニングのコッキングレバーの動作を確認し息を整えた。

 ヤバいヤバいマジか。実戦となると初めてだ。心の準備がまだまだだ。整理が追い付かない。


『バタフライ3。30班現場に行くぞ。──皆さん、基地からの通信でこの周辺は安全地帯と認定されました。帰還はご自分たちで願います』


 喚き始めたアジ・ダハーカ旅団だが、その非難の声を聴いている暇わ無いようで、葛藤さんはロードホイールを回転させすでに行動を開始していた。

 俺も一人でこいつらのお守も嫌だし、何より一人になるのが嫌だった。こんな中だと尚の事なおさらに。


「ああクッソ……ファック……」


 俺もロードホイールを回転させ、葛藤さんの後ろに付いて行った。

 山々の起伏の激しい中をトリック・ギアをフルに発揮して奔り抜いて行く。落鉄で聴覚がおかしくなっていたのが徐々に正常に戻り出すと、聞こえてくる──銃声が。

 間違いないブローニングが火を噴いている。頭の中に駆け巡る銃撃戦に全身から熱いのに冷や汗が流れ出てくる。

 心臓が異常に脈動し、息が荒くなってくる。ヤバいヤバい──語呂が少なくなってくるぐらい精神的にヤバい。いっその事死んでしまえたらいいのにと考えてしまうほどヤバい。

 それでも現実は目の前にあるし、その現実は差し迫ってきている。


『銃声が、止んだ』


 葛藤さんがそういうので耳をそばだて、アイ・ドールの観測を行ってそこに見えたのは──。

 山を登りきって山稜から俺と葛藤さんが見下ろしたのは、惨憺たる惨状だった。

 ホーク・ディードのドラゴが、散乱している。激しい戦闘があったのだろう。その中で30班が、30班の班員全員が──バラバラになっていた。


『どうなってる……レイダーは何処だ』


 葛藤さんは周辺を警戒するようにその中に踏み入っていた。

 俺はもう足腰が震えて震えて仕方なかった。レイダーの警戒もそうだが、これを見て冷静でいられるのか? 。

 そこに転がっているのは30班が、ドラゴごと両断されていた。

 あまりにも鋭利になのか、断面が白熱しているそれが縦方向、横方向に向かって班員を両断して。


「うっ……おえ──」


 思わず嘔吐いてしまう。

 両断されたドラゴ、その装甲殻、軟殻の中に班員の死体が詰まっている。綺麗に炭化したその中身が見えて、吐きそうだ。


『おかしいぞ。弾痕がどこにもない』


 葛藤さんがそういう。


「……空砲だったとか?」


『そんな訳ないだろう。空砲撃ってレイダー強襲の情報を入れるほど彼らは馬鹿じゃないだろう』


 何だっていい。気分が悪い。

 この人は死体見慣れているのか──4人班が数えて4人以上パーツがある(・・)、本当にバラバラにされて、血の一滴も流れ出ていないが。この焦げ臭い匂いは焼き切られている? 。どうだっていいが、見ていて気分がいいモノではない。


『こちらバタフライ・ドリーム。敵レイダー消失、遅かった……30班は、……全滅だ』


『……了解した。遺体回収が可能か?』


『可能です』


『ならば回収を頼む。警戒を厳としろ』


 葛藤さんが班員に向かって手を合わし南無阿弥陀仏と言っている。こいつ等仏教徒か? 。何だっていいが。これを、回収しないといけないのか。

 俺は恐る恐る手を伸ばしてそれを抱えた時、ドロリとそれがまろび出て地面にぶちまけて、遂に俺の我慢の限界が来た。


「オエロロロロロロロロㇿㇿ──……」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ