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(青空と夕方の空のグラデーション。群青色とオレンジの境界線。
制服を着た青春の時間が終わる瞬間のよう。鳥や虫、子供たちの声が聞こえる木々がある住宅街から車の音だけが聞こえる四角いコンクリートの箱だらけの場所へと向かう。
学校内ではワイワイとしていても一歩外に出ると別人に変わる。どんな時もキャラが変わらない人もいるけれど、私はオンとオフがある。学校では明るいキャラでいたい。最近少し寝不足気味だけど……心配されるキャラなんか私らしくない! さあ笑顔で頑張るぞ!)
「姫!」とバイト先に向かう結に追いつく守。
「あ、マモ。おつかれ!」
「先に行くことはないだろう」
「だって、目立ちたくないもの」
「俺だって目立ちたくて目立っていたわけでは……」
「ごめん。そうそう! 私ね、最近のマモが好きだよ」
「マジで? ん? 最近?」
「うん。最近! なんか表情が豊かになった。これはマモだけじゃなくて、皆もかも。なんとなく仲良しなのに距離感があった感じがしていて。ケイくんが来てから皆の表情とか感情もわかりやすくなった。もちろん皆のことは好きだったけど、今はもっと好き度があがったかな。まあ陽くんは変わらずだけどね」
「そういわれると、ケイが来てから賑やかになったなと思っていたけれど、そういうことなのかもな」
「今までマモがイジられるなんてなかったから、ちょっと面白い! っていっていいのかわからないけど私は楽しいよ」
「姫が楽しいなら俺も楽しいし、嬉しいよ。俺、こんな見た目だし態度悪いからイジられるとかワイワイするとか無縁だったから、これはこれでいいかもな」
「ね、毎日楽しいね! ザ青春というやつだね。あ、でも目立つのは極力ね」
「青春か! そんなの出来るとは思ってなかったから青臭いとか陽キャのやることだろう。なんて思っていたけど、いざ青春のど真ん中にいると最高! ってコトバしかでてこないな」
「守からそんなコトバを聞けるのも笑顔がみられるのも最高! だぞ」
「折角いい話をしてくれていい雰囲気だけど、俺から一言」
「お? なんでしょう?」
「姫、無理すんな」
「え?」
「誰も言わないと思うから俺が言う。顔が疲れているぞ。無理して笑うな。無理して付き合うな。一人になりたい時はオレんちに来いよ。特別部屋を貸してやる」
「あら、マモったら大胆~」
「あのなー俺は真面目にだな」
結は守の前に立ち、じっと見つめてから軽くハグをする。
「うん。ありがとう。ずっと一人だった。家に帰っても誰もいなかった。それが当たり前だと思っていたし、寂しいと思っていた。けど家族が増えて毎日楽しいけど、私には当たり前だった一人の時間も静かな場所もないと駄目だって気がついた。ワガママだけど、私が私らしくいられる時間が必要なんだって気がついた。その時は遊びに行かせてね」
「いつでもお越しください、お姫様。そうだ! 言ってなかったんだけど、春休みに中免取ったんだよね。だからバイクデートとかも行けますよ、姫」
「うーん。その距離感はちょっと……」
「え? 俺臭い? 匂う? マジで?」と守はくるくる回りながら自分の匂いを確かめる。
「あはは。マモおもしろーい」
「光優は何も言わないけど、気を遣ってくれている?」
「光優とバイクデートとか本当に仲良しだね」
「え? どこが臭い? え? え?」と守は自分の匂いをまだ確認している。
(私は本当にステキな人達に守られている気がする。恩返ししないとね。自分ができることを頑張る!
なんだかモヤモヤしていたものが少し晴れた気がした。マモの優しさに感謝だね。)




