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キーンコーンカーンコーン。
結はチャイムの音と同時に席を立ち大きく背伸びをする。
「さて! 今日はバイトの日! 頑張るぞ!」
「うふふ。結! 今日はじゃなくて、今日もでしょ!」と日和が結に声をかける。
「あはは、そうかもしれない」
「お家が裕福になったのにまだバイトを続けるの?」
「まあ、自分のお小遣いくらいは稼ぎたいからね。お金はないよりはあった方が的な、ね」
「結は偉いね」
「いや、これが……義姉は社会人だけど、ケイくんも義弟も自分で稼いでいるみたいだから、私もせめてお小遣いだけはってね」
「え? そうなの? 立派な家族だね」
「そうなの。自立しているというか、私も頑張らないとってなるのよ」
「結はそんなこと気にしていたの? 結はもっと青春したほうがいいよ! バイト減らしてもっと今という時間を楽しもうよ! お金がもし足りなくなったら僕がお小遣いをあげるよ、だってお兄ちゃんなんだもん!」とケイ。
「ケイさんもアルバイトをしているの?」
「僕はアルバイトというのかわからないけど、不定期の仕事をしているんだ」
「へぇ、そうなんだね。うーん。私もバイトしようかな」
「日和は日和のウチの家庭の事情があるんだから今のままでいいんじゃない」と結。
「うーん」
「ちなみにどんなバイトがしたいの?」
「こだわりはないから結と同じパンケーキ屋とかでバイトしたいかも」
「日和と同じバイトとかめっちゃ楽しそう」
「一緒にバイト、絶対楽しいよね。もう今すぐバイトしてみたくなっちゃった! 結のとこバイト募集とかしてないかな?」
「どうだろう? 店長に聞いてみるね!」
「結! ありがとう!」と日和は結に抱きつく。
「私ね、マモより仕事ができる自信があるから、なんなら彼の代わりにでもいいわ」
「日和がいたらすっごくお店がまわりそう」
結と日和はバイト話で盛り上がる。
そんな結と日和の会話を教室のドアから顔を半分だけ出しながら聞いている不審者のような守。そんな守にケイはそっと近づき声をかける。
「ところで。マモはここで何をしているの?」
「今日、結とバイトのシフトが同じだから一緒にバイトに行こうと声をかけようと思って来たんだけど」と守は小声で話し出す。
「なんか変質者みたいだよ」とケイも小声で返す。
「だって、日和様がいらっしゃるから。日和にチョキチョキされるから警戒をしているんですよ」とピースをしてハサミで切る動作をする。
守はドアにぴたりとくっつき顔を出したり引っ込めたりを繰り返している。




