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結が家に帰ると引越し業者がアパートの階段を行き来していた。
(ちょっと邪魔だな。どこかの家が引っ越すのかな?
二階へ上がっていくと……あれは……。うち?????)
結は大慌てで階段を駆け上がり
「お、お母さん? 引っ越すの? ま、まさか追い出されたの?」と母の肩を掴みユサユサと揺らす。
「あらあら。おかえりなさい! あのね。ずっと言いそびれちゃってたんだけど……。実はね。お母さん、再婚したの」
母はポワ~と初恋が実りました! かのように言い、頬をピンク色にして両手で頬を包みモジモジとしている。
(こんな恋する少女みたいな母ははじめましてだよ……)
「って! えええ!!!!!」
「というわけで、今日からその人の家に住むことになりました。うふふ」
結母は顔を真っ赤に染め、両手で顔を隠す。
(お母さんのなんか可愛すぎだよ! じゃなくて、何その展開はあああ!)
「なにそれ、聞いてないよ!!」
「まあまあ、とりあえず早速ここの住所にいってちょうだい」
結はIDカードのようなものを渡される。
「これは?」
「これがないと家に入れないから、なくさずに大事にしてね」
「って? え? 急に言われても……」
「数時間後にはここには住めないのよ。これをもって、先に新居に行って手伝ってきて! 結、お願い」
母は両手を合わせ、頭を少し傾けウインクをしてみせる。
(母よ……さっきから可愛いのはいいんだけど、このドタバタはなんでしょう?)
「うーん。わかった」
結は仕方がなくスマホを片手に住所が書かれた場所へと向かう。