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(アロハシャツを着たジョンとムームーを着たジェリーが青い空と海ではしゃいでいるポスター。
その前でジョンとジェリーがCMをしている香水をひとふり。
聴こえてくる音はぎこちないウクレレの音。
そう……ここは。
私の部屋。
バイトに行く前に大好きなジョンとジェリーに癒されようと思ったら、どこかの部屋からムードを壊すような音が聴こえてくる。もう! 朝からなんなのよ!)
結は音が気になり、音がする部屋をノックする。
コンコン。
「はい? どうぞ」
部屋の主から許可が出たので結は部屋に入っていく。
「おはよう! 結」
「おはよう。ルカくん」
そう。ぎこちないウクレレを弾いていたのはルカ。ルカはコードを見ながらゆっくりと音を奏でているのだが正確なキレイな音が出せないでいる。
「朝一で結に会えるなんて嬉し!」
ルカはウクレレを置き、結にハグをしてから頬にキスをする。
これがケイだったら避けるのだが、ルカは年下、弟ということでルカと女性であるエマだけにはハグと頬にキスまでは許容しているのだ。
「朝からウクレレなんてどうしたの?」
「ああ、兄さんもウクレレとピアノをやってるからなんとなく始めたんだけど、時間があまりなくて上達できないんだよね。朝から煩かったよね? ごめんね」
ルカは結にごめんねと意味を込めてギュッと強く抱きしめる。
結は背伸びをしてルカの頭を優しく撫でる。
(そうだよね。毎日のようにテレビで見かけるってことは休みなしで働いているってことだもんね。そんな子にウクレレを止めてなんて言えるわけがないよ。)
「結~ルカ~」
ケイはドアから顔半分を出し、ジトーっと二人をみている。
「おはよう、兄さん」
「ケイくん、おはよう」
「ルカ! 結から離れなさい!」
「結が嫌がってないし、別にいいでしょ?」
結は真顔でルカの腰に手を回し、ギュッと抱きしめる。
ルカもニヤッと意地悪気な笑みを浮かべ、結をギュッと抱きしめ結の頭にキスをする。
結はケイを揶揄うことを覚えたのだ。
案の定、ケイは目が飛び出し顎が外れた表情をしている。
ケイの百面相が楽しいと思うようになった結は、ケイの反応が面白そうと思った際にはこうやってワザとケイがツッコミをいれるような行動をするようになった。
「あ~僕の前でいちゃつくな~。僕もまぜて~」
ケイは二人の間に頭を突っ込み、間に入ろうとする。
ルカと結は入らせないようにとケイの頭を押し返す。
三人は笑いながらじゃれ合う。
(私は今まで兄弟とかいなかったから、これが兄弟っていう形なのかはよくわからないけど。毎日、笑いが絶えないこんな生活が本当に楽しくて、嬉しいって思う。こんな日々がいつまでも続きますように。そんな風に思う。)




