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先生は大きく手をパンっと叩き、教卓に寄りかかる。
冷めたような目で一度大きな溜め息とついて、ダルそうに喋り出す。
「みんな落ち着いて。ケイ君、向こうでは普通のことかもしれないけど、ここは日本だから。もう少し考えて行動してちょうだい。みんなこういうことに慣れていないから」
先生は目を細くし、ケイをじっと見つめる。空気を読めと言うように目力で訴える。
唯一冷静な先生の一声でザワザワしていたクラスが、静かになっていく。
結の担任の先生の名前は田中未来。
ネコ目で黒上のストレートロング、パンツスーツをビシッと着こなす彼女は、親から真直ぐなよゐこに育ってほしいと込められた左右対称の名前を持つ。
まあ親の都合よく育つはずもなく……真逆のひん曲がった、しかし思ったことや言いたいことは真直ぐに伝えるという性格になってしまったのだ。
「そうですね、気を付けます。君もごめんね」
ケイは眉を八の字にして小さくペロっと舌を出す。
そして、ごめんねと言うように結の頭をポンポンと撫で、スッと立ち上がる。
ケイはキリっと表情を変え、先ほどのフワッとした喋り方ではなく、元気よく大きな声で話しはじめる。
「えっと、あらためまして。僕はケイ・テイラーです。先日、ハワイから引っ越してきました。えっと、転校生ってことです。みなさま、仲良くしてくださいね! それでは、どうぞよろしくお願いします」
ケイは足を揃え真直ぐに立ち、美しい最敬礼をする。
その瞬間、窓から大量の桜の花びらが入り込み、廊下側のドアに向かって花びらのカーテンが広がる。桜の花びらは、まるでケイの登場を盛り上げるかのように背を通り抜けていく。
びゅうと風が通り過ぎ、ケイがつけていた花のような柔らかい香水の匂いが教室中を包み込む。
クラスメートたちは、ケイの最敬礼の美しさに、キラキラした笑顔に魅了されてしまう。
クラス中がほわっとケイに心を奪われているところに
「そんなことで、みんなよろしく。席は、窓側の一番後ろね」と相変わらず唯一の冷静キャラの田中先生が気怠そうに出席簿で席の場所を指す。
「はい」
ケイは一礼をし、颯爽と席に座る。
「それじゃあ、ホームルームはじめるよ」