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「あの様子だと、結は知らないの?」
「結ちゃんは子供の時の記憶が一部欠けているんだ」
「それって……あの事件のせいってこと?」
「ああ、そうだ」
「それじゃあ、ケイはあの時のトラウマと一緒にいるってこと? なにそれ……。しかも肝心な王子様の方は記憶がないとか、ケイが可哀想なだけじゃない」
「それでもケイは彼女に恩返しがしたいと望んだんだ」
「それで再婚したわけ?」
「それとこれとは別の話だ」
「ならいいんだけど……。ケイの態度や様子を見て、好意があるのかと思ったけれど……そうじゃないのね。私ったら余計なことばかりしちゃったわ……」
「そこはケイ自身にしかわからないよ。だから温かく見守ってやってほしい」
「わかったわ。日本にトラウマがあるケイがなんで日本で暮らしたいといったかやっと理解できたわ」
エマをギュッと抱きしめるピーター。
パジャマ姿のルカは欠伸をしながら「なあに? 煩いんだけど?」と言いながらゆっくりと部屋から出てくる。
「タイミングが良いのか悪いのか……あんたのマイペースが羨ましいわ」
エマは大きくため息をつく。
「ルカ、おはよう。久しぶりだな、元気にしてたか」
「あ、ダドゥ!」
ルカはパチッと目を覚まし目をクリクリと大きく開き、ピーターにジャンプハグをする。
なんだかんだ言ってもルカもまだ子供なので父に会えたことが本当に嬉しいのだ。
「あれ? ケイや結はまだ寝ているの?」
「二人はさっき海に出かけて行ったよ」
「え? なんで俺を置いてくの? ってかそこにプールあるのにそれじゃダメなわけ?」
「ケイは結とお手てを繋いで行ったわよ」と二人は仲良く出て行ったかのように言う、エマ。
「はぁ、なにそれ。俺も結と手を繋ぎたい!」と言って部屋を出て行こうとするルカにエマは「その髪色じゃバレるから黒くしていきなさい」とルカの髪をカラースプレーで真っ黒に染めあげる。
「ありがとう、エマ姉! いってくる」
ルカは変装をして部屋を出ていく。
ルカは結とケイを見つけると大きな声で二人の名前を呼ぶ。
それに気が付いたケイはルカをからかうかのように結の手首を掴み、走っていく。
浜辺にはピンクの四本のハイビスカスがユラユラと揺れている。
(まさか三日連続でキスをするなんてね。
エマさんは顔は美しくって手も足もスラーって長くって、甘い香水の香りがした。
女性からのキスは想像していたより少し強引だったけれど……
さーどキスはとろけるように甘くて少し苦い感じがした。)
さて。
結とケイの関係とは。
過去の出来事と記憶とは。
ケイは何故、結を特別扱いするのか。
ルカは何故、結を構いたがるのか。
この話の続きはまたいつか。




