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「姉さんが押したからこうなったんだろう。ごめんね、結。大丈夫だった?」
「あ、うん。大丈夫」
ケイは結の手を取り、立ち上がらせる。
(さ、さすがにあの状況はドキドキでした。
まだ心臓がバクバクする。落ち着け、落ち着け。)
エマは目をウルウルとさせ「結ちゃん、ごめんなさいね、ちょっとだけ脅かすつもりだったんだけど」と言って両手を合わせる。
(さっきと言っていることが違うような? まあいいか。)
「えっと……」
「あ、紹介するね、彼女はエマ。僕らの姉だよ」
ケイは困惑している結に優しく微笑む。
「そうだったんですね、はじめまして! 結です。よろしくお願いします」
結はニコッと笑って会釈をする。
(エマさん、とっても大人の女性って感じだな。しなやかな身のこなしで色気が漂っていて、フェロモンを大放出している! 本当に絵にかいたような美人さんだなあ)
なんというか結の語彙力がなさ過ぎて悲しくなってきます。しくしく。
「よろしくね、結ちゃん。姉ってことなんだけど、結ちゃんのお母様の前の再婚相手が私の母親ってことね。だからケイとは血がつながっていない義理姉弟なのよ」
エマはニコッと笑ってからケイに抱き着きキスをするが、ケイは今までの笑顔が嘘かのように顔を歪め、エマを強く払いのける。
「姉さん、僕はそういうのは嫌いだ。知っているだろう!」
ケイはエマを睨みつけながら声を荒げる。
(え? ケイさんはキス魔じゃないの?)
「なによ。ただの挨拶じゃない」
「挨拶は頬にキスだろう。唇にじゃない!」
「私とケイの仲なのに?」
「……」
ケイの表情がドンドン険しくなっていく。
(なんか意味深な……。そもそもここにいていいのかしら……すっごく気まずいよ。)
「なによ! 頬も唇も変わらないじゃない!」
「僕は大好きな人にしか唇に触れてほしくないし、する気はないから!」
ケイは大きな声で怒鳴ったと思うと目を細くし、エマに軽蔑の眼差しを向けながら口をゴシゴシとふく。
エマは「失礼な奴ね。もう、ケイなんか大嫌いよ」といって大粒の涙を流す。




