3‐5
「きゃっ」
「うわっ」
結に覆いかぶさるケイ。
二人とも突然の出来事でこの状態になってしまったので、顔を真っ赤にし、お互いの顔を見ることが出来ないでいる。
(うわあああ。し、心臓の音がきこえちゃうよ……。)
ケイの髪が結の頬に触れる。
(香水と……シャンプーの匂い。なんだか優しい香りがする……。ってそうじゃなくって!)
「ケ、ケイさん……」
「えっ! あ、うん。ごめん、結」
ケイは起き上がるどころかドンドン結に近づいていく。
(ケイさん……顔……近すぎだよ……。)
ケイとの距離がゼロ距離になりそうになり、結はキスされる? と思い目をギュッと瞑る。
「ちょっとー! 二人で雰囲気ださないでくれる?」と低めの女性の声が聞こえてくる。
結は驚き目を開けると、ケイの顔が結の顔の横に落ちてくる。
(え? え? 何が起きているの?)
「ねぇさん、いたひ……」
(え? なんのこと??)
ケイと結を跨ぎ、ケイの頭をグイグイと押しているエマが立っていた。
「ホント、あんたって子供っていうか。奥手よね。わざわざお姉さまが良い雰囲気を演出したのに二人して顔真っ赤にしちゃってさ、なんなの? おこちゃまなの?」
「いい雰囲気? それより手を放してもらえるかい」
エマはケイの頭から手を放し、両手を腰にあてる。
「いちゃつくカップルがやることといったら一つしかないでしょ? だから押し倒してあげたのに」
(いい雰囲気とはなんだろう?)
子供の頃から初恋の人を一途に思っている結にとっては雰囲気とか言われてもわからないのである。一途の弊害というのだろうか、結の中のカップルの定義は10歳以下の子供レベルのまま成長していないのだ。結の中では手を繋いでルンルンがデートであって、キスは結婚をする前提というなんとも可愛らしいメルヘンの世界で成り立っていたりする。
「ね、姉さん! 僕たちは兄妹だよ?」
「でも、実の兄妹ではないでしょ。ならあり得る話でしょ?」
「だから、僕はあくまで妹が可愛いであって、そういうことには興味なんてないから」
「挨拶とかいいながらキスやハグばっかするのに? だたの発情期でしょ?」
ケイはボンっと恥ずかしさが爆発し、顔を真っ赤にする。
「もう! 姉さんいいかげんにしてよ。僕はそんなんじゃないってば」
「はいはい、わかったから。それより、はやくどいてあげなさいよ」
そう。ケイはまだ結に覆いかぶさったままなのだ。




