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ケイはそっと近づき、結の背中からハグをする。
「お兄様、朝からセクハラ禁止です」
「これはセクハラではなくポカハラです」
「ポカハラ?」
「うん、ポカポカにお腹をあっためるって意味」
ケイは結のお腹に優しく触れ、お腹を温めている。
(確かに! ホッカイロのようにポカポカするかも!
なんだ、誤解しちゃった。)
結は小さくため息をつく。誤解してごめんねとありがとうという意味を込めてケイの胸に体重を乗せながら頭をトンっとぶつける。
ケイは上を向いた結のおでこに優しくキスをする。
「こらぁ~」
ケイはどさくさに紛れて、結をギュッと抱きしめる。
「結がおでこを全開にしているなんて珍しいし、その服可愛すぎでしょ。それにそんな恰好で外に出るなんて、僕が許しません」
結は顔を洗うためにフワフワのヘアバンドで前髪を全開に上げており、キャミソールにフワフワのパーカーを羽織りフワフワの短パン姿を着用している。
結のおでこには大きな傷跡がある。それを隠すように前髪を長く作っているので、おでこ全開の姿は滅多にみることが出来なかったりする。
「僕がこうしていれば、変な虫さんがみていても察していなくなるかとね。正当防衛だよ」
「ふ~ん。なんか正当防衛の使い方が違う気がするんだけど……。それにビーチはものすごーく向こうにあるし誰も見ていないと思いますよ?」
「まあまあ、細かいことはおいといて! 結、さっきみたいに両手を横に伸ばして」
「え? なんで?」
「いいから、いいから」
「わかった……」
(こうやっていつもケイさんは自分のペースにもっていく。流される私も悪いけどね。)
「はい! タイタニックごっこ!」
「え?!」
ここでいうタイタニックごっことは。
その名の通りタイタニックという映画の話の中で、主人公がヒロインの腰に手をやりヒロインが横に手を広げ船の先端で『私、飛んでるわ』というシーンのことである。
「あれ? 不朽の名作なんだけど、知らない?」
「お母さんに勧められて観たことはあるけど……って誤魔化さないで! まさか、ごっこならいいとでも?」
「ダメなの?」
「ダメです」
結はくるっと回転し、ケイと向き合う。ケイの両手首を持ち、また抱きしめられないようにと両手を万歳させる。
「え~兄妹の親交を深めるスキンシップでも?」
「ダメなものはダメ」
「結のいけず~」
なんだかんだでバカップルのようにじゃれ合う二人。
ドンっ。
ケイは誰かに背中を押され、結を押し倒してしまう。




