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俺が入院している間、ずっと兄さんが手を握って「ごめんね、ごめんね」と言っていた。兄さんが俺にずっと構っていたのは気遣いでも俺の心配でもなく……そういうことだったんだと気が付いた。俺が退院して家に帰ると、この間までいたお手伝いさんが別の男性に代わっていた。まあ今まで女性のお手伝いさんだったけど長く続いたことはなかったし、また変わったんだ。そのくらいで思っていた。その時は何も知らなかったんだ。
「ルカ、痛いところはない?」
兄さんはあの事件があってからこの言葉を毎日のように口に出すようになった。この”痛い”は体のことも心のことも含まれている。
「元気だよ!」
俺は決まってこう返す。
俺と兄さんの距離がなんとなく遠くなっていくのがわかった、そんな時……。
「ルカ、僕はね。ルカがとっても大事で大好きなんだよ」と兄さんは泣きながらもキラキラした笑顔でそう言った。
「兄さん、俺も兄さんが大好きで大事な人だよ」と俺は返した。
「だからね、僕の前では元気なフリはしなくていいんだよ」
そう。兄さんは気が付いていたんだ。俺が元気なフリをしていることに。
あの事件があってから大人が信じられなくて。ダドゥ以外の大人が近くに来ると気持ちが悪くなっていた。でも心配かけちゃダメだと思って、平気なフリをしていたんだ。今まで通りに誰とでも話して、嫌われないように様子を窺って、相手に合わせる。頑張ってた……つもりなんだけど、兄さんにはバレバレだったみたいで。
「僕ね。弟が出来て嬉しかったんだ! だってずっと家族ってことでしょ! 寂しくなってもルカがいる。家に帰れば、おかえりって言ってくれる家族がいるんだよ! それがすっごく嬉しいんだ!」
俺はウンウンと頷くことしか出来なかった。だって言葉が出せないくらいに涙が溢れていたから。そんな俺を兄さんは優しく抱きしめてくれた。
「それにね、僕はどんなことがあってもルカの味方だから! あとね、僕はルカのヒーローになりたいんだ! だから何かあったらすぐ言うんだよ、僕がやっつけてやるから!」
兄さんが俺を大事にしてくれているのが本当に嬉しくて、俺は兄さんが大好きになった。




