12-7
「ゆ、結? 近くない?」
「あれ? 日和の距離感で座ってしまった! こういうのって隣ではなく真正面に乗るものかな?」
「そういわれるとどうなんだろう?」
「よし! お見合い座りにしよっと」
結はそう言ってアタシの真正面に座る。
スタートの合図でコーヒーカップが動き出す。アタシは遊園地自体がはじめてでどうしたらいいかわからずキョロキョロしていると「ちょっと回してみちゃいます?」と結が真ん中の丸い円盤をガッチリ掴み、こちらの様子を窺っていた。よくわからないから「よろしくお願いします!」と大きな声で返すと、結は円盤を力いっぱい回しはじめる。
すると景色が流線のような映像に変わり、目を回してしまう。フラフラするから何か掴まないと! と思い円盤を握ると円盤を回転させている結の手がアタシの手を握るカタチとなってしまう。あ、恥ずかしい! と思い手を放すと壁にゴンっと頭をぶつけてしまう。
「あー星。ごめん」と結がアタシの両手をグイっと引っ張り円盤を握らせる。
「星、回しすぎちゃった! ホントごめん! ここをしっかり掴んでいてね」と言った結だが、結も目が回っていたらしく手を放し、壁にゴンゴンゴンと何度も頭をぶつけている。
「結、大丈夫?」
「おうよ! 星は手を放しちゃダメよ! あ~グルグルごんごん~」
結はそう言ってまた何度も頭をぶつけている。
結と一緒にいると面白くて笑ってしまう。今は笑うところではないんだけど、やっぱ結の言動と行動がちぐはぐ過ぎて楽しすぎる。ってそうじゃなくて結を助けなくちゃ! そう思ったアタシは結の片手を掴み円盤と一緒にギュッと強く握り、もう片手で結の腕を思いきり引っ張る。その反動で結の頭は内側に戻ってくる。そのまま結の手と腕を握ったまま、コーヒーカップが停止するのを待つ。
やっと停止し降りようとしたら、目をグルグル回した結が転びそうになり、アタシは倒れかけた結をギュッと抱いて支える。さすがに身長差が20センチもあると支え切れない! でも結が転ぶのも嫌だ! とアタシが結を強く抱きしめているとケイくんとルカくんが結の腕を掴み二人で結を抱えてくれる。
そして結の重さで倒れそうになったアタシを助けてくれたのはマモ。マモはアタシの腰に手を回し、アタシが転ばないようにと抱きかかえてくれる。
ホント、アタシの王子さまはいつも……。
「星、大丈夫か?」
「ちょっと! アタシと結がラブラブしてたのに邪魔しないでよ!」
なんで普通にありがとうが言えないんだろう。
「いやいや、今のはさすがに危なかっただろ!」
「なによ! 結が好きだからってヤキモチですか? だっさー」
ああ、なんでこんなことしか言えないんだろ……。
「星はなんでいつも喧嘩腰なんだよ」
「はあ? そっちが喧嘩を売ってくるからでしょ?」
やだな、やだな……本当に自分が大嫌いだ。
「星、なんで泣くんだよ……」
心と言葉がちぐはぐだから、心の方を出してくれるんだね。
涙を止めようと思っても止まらない……。
「星、ごめんね。助けてくれてありがとう」
結がアタシを後ろからそっと抱きしめてくれる。
結のぬくもりを感じて、結のお気に入りの香水の匂いがして、結の優しく静かな鼓動の音が聞こえてくる。まるでゆりかごの中にいるようなそんな感覚になる、安心する心地よさ。ホント大好き。
ずっとずっと触れていたいよ、結。




