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「今日もお仕事お疲れ様でした」と結は笑顔でそっと俺を突き放す。
だいたいの女性の場合、バックハグをされたらキャッとか照れくさそうにするのが多いんだけど、結の場合はそれがない。華麗にスルーをする。別に拒絶されている感じもないけど少し違和感がある。ついでに言うのであれば、姫にはもう少し可愛らしい反応をしてほしいというのが本音である。
「まあ、立っているのもあれだし座ろうか」
「うん」
俺と結はお互いの間に一人分のスペースを開け、ベンチに座る。
「今週もバイトお疲れさまでした! 二人とも珍しく土日が休みだね。たまにはゆっくり過ごすのもいいね」
「土日のシフトが多かったからね。たまにはいいね、一日中のんびりするのも」
二人で両手を上げて大きく背伸びをする。
「そういえば、結はもうバイトしなくていいんじゃないの?」
「まあそうなんだけど。バイトは趣味みたいなものだし、弟のルカくんも仕事しているし、ケイくんも仕事しているみたいなんだよね。なんかそれぞれが自立しているというか、そんな感じなのもあって親の脛を齧るみたいなことはちょっとね、気が引けるというか。そういうマモだって裕福なのになんでバイトしているの?」
「裕福って言っても、姫や星ほどではないけどね。兄貴がさ、まあ長男だからってのもあるんだろうけど勉強と習い事ばっかで窮屈そうでさ。俺は自分らしく生きたいから学費と自分の生活分は自分で稼ごうと思ってるからね。さすがに自分で稼ぐと親も何も言えないというか言ってこないんだよね。とはいえ家には住まわせてもらっているわけですが」
そう。俺の家は所謂、裕福な家庭と呼ばれる家柄だったりする。結の家のように大きな庭もあるし、室内プールもある。車は高級車っていうのだし、父には運転手がついてたりする。父が家に帰って来るのはほぼ夜中で話すことも一切ない。母の職業は主婦だが家のことをやっているのなんてみたことはない。家事をするのはお手伝いさん。じゃあ母は何をしているかって。美容系のお店に通ってランチ行ってお茶して買い物してディナーして帰宅する。そんな母とも話すことなんか滅多にない。
みんな裕福ってだけで幸せそうでいいなって言うけれど、俺はこの家があっても家族がいても幸せなんて思ったことはない。




