10-9
「結はケガしてない?」とケイが心配そうに尋ねると「私は大丈夫」と目に涙をためた結がそっけなく答える。
「壁にぶつかっていたし、念のため保健室に行こう」
「大丈夫だから」と大きなお世話と言わんばかりに大きな声をあげる結。
「う~ん。でもちょっとだけみてもらおう? ね?」
「だから……大丈夫だってば」
ケイは無理やり連れて行こうと結を抱きかかえる。
「やめて!」と結は叫ぶように声をあげる。
「ケイくん、結は大丈夫っていってるから、ね」
星はケイの腕を引っ張り、結を下ろすようにと促す。ケイはそっと結を下ろす。
「結……」とケイが声を掛けるが結は顔を合わせずに背中を向ける。
「結も早く着替えよう、ね」
結は頷く。
結と星は更衣室へと歩いて行き、ケイは二人の姿をそっと見守り続ける。
「まあ、自分の好きな人があんな行動をしたら気分も悪くなるよな」
「俺は気分が悪くなるより、自分の不甲斐なさにイライラしているけどな」
「姫のあの様子だと、気が付いているんだろうな」
「陽がヒナを好きなのは誰がみてもわかるからな。ヒナも陽に対する態度はあんなだし」
「ヒナは姫が好きなんだと思ってた」
「ヒナの一番好きはどっちかわからないな。周りからしたら、俺とヒナが恋人同士にみえてるようだけど、実際は全くなんですよね~」
「なのに君は片思いをずっと続けるおつもりで?」
「恋人にはなれなくても親友として隣にいられるのも悪くはないよ。って言えたらいいのにな。どうして好きって気持ちは簡単に切れないんだろうな」
「そうだね。どうして想いは伝わらないんだろうな」
「マモもいつまでその状態を続けるの?」
「いつまでだろうな」
守と光優はくしゃくしゃの笑顔でグーパンチをする。
「ところで金髪のお兄さん」と光優はケイに声を掛ける。
ケイは大粒の涙を流しながら振り向く。
「なんで泣いてるの」
「だって、結にすっごく嫌がられて怒らせちゃったから」
「ケイの行動は悪くなかったよ。けどタイミングがね、今回は悪かった」
光優はケイの頭を優しく撫でる。
「まあ、そういう時もあるよ。ケセラセラだよ」と守が言うと。
ケイはドリス・デイのケ・セラ・セラを涙をポロポロと流しながら陽気に歌いだす。
「なんか顔と合ってないけど……。その感じ、いいね!」
「ケイのそういうところ好きだぜ」
ケイ、光優、守は三人でハイタッチをする。




