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「ごめん、そっと開ければよかったね」
「いえいえ、私がボーっとしていたから悪いんです。ごめんなさい」
「もう、悪くないのにすぐ謝る」
「え?」
「おかえり、結!」
ケイは結の頬にキスをし、ハグをする。
結は状況がつかめず放心状態となっている。
「ケ、ケイ君?」
「うん。今日から家族だね、よろしくね、結」
ケイはふにゃふにゃのトロけたような笑顔でさっきより強めにハグをする。
ケイは父と弟がいるが、二人とも多忙でほぼ一人暮らしをしていた。
そのため家族が増えたことが嬉しくて、甘えん坊のワンコのようになっているのである。ご主人お帰りなさい! といわんばかりに結に懐きまくるケイ。
まあ、事情を知らない結からしてみるとこの大歓迎は海外式なのか? というような状況である。
(うわあああ。海外ドラマではキスやハグが挨拶だってよく見るけど実際にされると落ち着かないよ。)
「えっと、ここはケイ君の家なんだね?」
「うーん。今日からは僕たちの家だよ?」
ケイは結の両手を握り、ブンブンと振る。
もし、ケイに尻尾が生えていたら音がなるくらいブンブンと尻尾を振っているのだろう。
ケイは頬にそっと優しいキスをする。
「ウェルカム」
「あの……ケイ君」
「なんだい」
「キス……なんだけど」
(慣れていないからあまりしないでほしいな……なんて言えないよね。)
「そうか! 頬じゃなくココがよかったかな?」
ケイは自分の唇に触れ、OKというようにウインクをし、結の唇に触れるか触れないかくらいの軽いキスをする。
(え? え? えええええ?
私のファーストキス!!!!!!)
結の顔はトマトに負けなくくらいの真っ赤な色になる。
突然の出来事に結の目はまんまる、ぼーっと放心状態となる。そして状況が読めずにパチクリしながらケイの顔をじっと見つめていると、ケイも結をじーっと見つめ返し……。
「ん? どうしたの? もっと? 結は可愛いから特別……ね」
ケイはニコッと笑い、結の両頬を包むように触れ少し長めのキスをする。
(えええ!!!!!)
夜空の春の大三角が二人を見下ろし、二人の出逢いを祝福するかのようにひとすじの流れ星がキラっと通り過ぎて行く。
(はじめしてのはずなのに……なんとなく懐かしい感じがした。
あなたのそのサラサラなキレイな髪もふんわり優しい香水の香りも太陽のような明るく眩しい笑顔もステキすぎて一瞬心が奪われてしまったんだ。
ふぁーすとキスの味は少し甘くてすっぱい感じがした。)
(私はこの時、これからはじまる生活がどんなものか知りもしなかった。
”今までの当たり前”の生活が”別世界レベルの当り前”になるなんて思いもよらなかったんだ。)
人間は8秒見つめあうと……と聞きますが。
まさかまさかの……。
次回に続く。




