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ある町外れの診療所

町外れの診療所は最近かなり混んでいて、患者はみんな恋愛相談ばかりする

作者: 鞠目


 ここはとある町外れの診療所。白髪眼鏡の初老の医者がどんな症状でも匙を投げることなく処方してくれるが効果は人によると言われている。

 最近ここに来た女性が「恋愛相談したらめっちゃよかった!」とSNSに投稿したところ、何故かバズってしまい恋愛相談にくる患者が増えてきている。だが、医者はまだその事を知らない。




「次の方どうぞー」


「失礼します」


「どうなされましたか?」


「あの、実は結婚したいんですが彼氏にちゃんと考えてもらえなくて、辛くて、しんどくて……。でも今更新しい出会いなんて期待できないから今の彼氏に落ち着きたくて……ああ……」


「なるほど、ちなみに今の彼氏で本当にゴールインでいいんですか?」


「……はい、もう35なんで今の彼氏と結婚して早く落ち着きたいんです」


「わかりました。ではゼ○シィしかないですね。最新号を本日処方させていただきます」


「ゼ○シィですか?」


「はい、ゼ○シィです。ありきたりと思われるかもしれませんがソレが一番有効です。因みに彼氏さんとは同棲中ですか?」


「はい、もうかれこれ3年ほど同棲してます」


「なら、手っ取り早い。帰ったらリビングのテーブルにでも置いておいてください。因みに結婚式はどのエリアでしたいとかご希望はありますか?」


「私と彼の実家が大阪なので大阪でできたらなと思っているんですが、まだあまり具体的なことは考えられていません……ごめんなさい」


「なるほど、では関西エリアのゼ○シィをお渡ししますね。具体的なことが決まってなくても大丈夫ですよ。式場に行けばほいほい決まっていきます。あ、でも最終見積もりが最初に渡された見積もりの2倍になってたなんてこともよくあるのでお気をつけください。まあそれはおいおいの話ですが」


「……あの、ゼ○シィを置いておくだけで大丈夫なんでしょうか?他には何かやることはありませんか?」


「そうですね、もしリビングに置いてても無視されたら軽くゼ○シィで頭を叩いてやればいいと思いますよ」


「え、そんなことしちゃって大丈夫でしょうか?」


「問題ございません。ショック療法です。3年同棲して何も言ってこないということは恐らくあなたの彼氏様は決断ができないタイプかと。もうこうなれば強行突破です」


「なるほど……そうですね……私やってみます」


「はい、頑張ってください。あ、くれぐれも頭を叩く時は力加減に注意してください。地方ならともかく関西のゼ○シィは鈍器になるぐらい分厚く重いので」


「え、エリアによって分厚さが違うんですか?」


「はい、エリアによって式場の数が異なるため広告ページのページ数が変わるんです。それでエリアによって厚みが変わるんだとか」


「そうなんですね。わかりました手加減するようにします」


「はい、くれぐれも角で殴らないようにお気をつけください。殺人事件になりかねないので」






「次の方どうぞー」


「先生、僕はどうすればあずあずと結婚できますか?」


「唐突ですね。あずあずさんの同意が得られれば問題ないと思いますよ」


「でも僕とあずあずとの間には次元という、ディスプレイという壁があるんです」


「壁ですか、恋愛において壁があるほど燃えると聞きます。よかったですね」


「よくないんですよ先生。ディスプレイですよ?最近は二次元キャラとの結婚って話も聞きますが私はもっとあずあずと深く関わりたいのに二次元への世界には入れない……どうしたらいいんですか僕は!」


「そうですね、とりあえず落ち着きましょうか。確認になりますがあずあずさんは二次元にお住まいなんですね?」


「だからそう言ってるでしょう!彼女は二次元、僕は三次元、これは結ばれぬ禁断の愛なんです。でも僕はあずあずと結ばれたいんです!!」


「わかりました。大丈夫です。安心してください。必ずお二人を結んでみせます」


「本当ですか!?僕はあずあずと結ばれるならなんだってしますよ!」


「そうですか、では、VR機材一式を処方しますね。こちらでお好きな世界を楽しんで頂けるはずです」


「え……」


「本日必要機材と合わせてソフトもお渡ししますので是非ご活用ください」


「いや、その、そんなの僕には扱えないですよ!?」


「扱えます」


「え……」


「大丈夫です。あなたならできる」


「いや……」


「あなたに成功の秘訣をお伝えしましょう」


「な、なんですか……?」


「努力です」


「……え?」


「努力です」


「……自分でやるしか……ない……ですよね?」


「努力です」


「……わかりました。頑張ってみます……はい」






「次の方どうぞー」


「失礼します」


「どうなされましたか?」


「今、私ショッピングモールの雑貨屋さんで働いているんですが出会いがないんです。合コンに行ってもいい物件がないし、もうすぐ30だし焦ってるんです」


「なるほど、出会いがないんですね」


「はい、マッチングアプリもしてみたんですがなかなか上手くいかなくて、もう結婚を諦めて独身を謳歌しようかと思うんですが決断できなくて」


「なるほど、結婚が諦め切れないんですね」


「そう、そうなんですよ」


「じゃあ諦める事を諦めましょう」


「え!?」


「無理に諦めたところで辛いだけです。それに今出会いがなくても明日出会うかもしれません。ラブストーリーは突然始まるそうですよ」


「でも、出会えないかもしれませんよ?」


「確かに出会えないかもしれません。でもそれは誰にもわかりません。だから焦る気持ちもわかりますがもっと心に余裕を持たれる方がいいですよ」


「余裕持ちたいんですけど、なかなか持てなくて……」


「焦ってしまうとせっかくの綺麗な顔が台無しですよ。それに……」


「それに?」


「あなたが働いている雑貨屋さんの隣にスーツ屋さんがありませんか?」


「あー、はい、ありますあります」


「そこに最近新しいスタッフさんが増えたのはご存知ですか?」


「あ、はいはい!最近ちょっとかっこいい若い男の子がスタッフで入ったはず」


「そうですそうです。で、こちらがその男性の連絡先です」


「は?」


「先日、お見えになられて、隣の雑貨屋さんで働く女性に声がかけたくてもかけられないというご相談でした。話を聞いているとどうもあなたのことのようだったので連絡先を預かっておりました」


「え、ちょっと、これって……」


「話した感じですととても好青年でしたよ。一度ご連絡とってみてはどうですか?」


「あ、はい!そうします!え、どうしよう、ありがとうございました!」





 診察時間が終わり、医者が入り口の鍵を閉めていると1人のお婆さんがやってきた。


「先生、最近なんだか忙しそうね」


「はい、お陰様で。皆さん見た目は元気そうなんですが色々悩まれているようです」


「ストレス社会だからねえ。ん?先生どうしたんだい、いきなり自撮りなんかしようとして。あーあー下手くそ、見てらんないよ。貸してごらん写真撮ってあげるから」


「すみません、お手を煩わせて」



 カシャッ

 夕暮れの診療所の前で静かにシャッター音が静かに響く。



「あら、なんか雰囲気のあるピン写が撮れたよ。でもどうしたんだい急に自分の写真なんか」


「それが最近恋愛相談が多いんですが、如何せん私、恋愛経験が皆無でして。今まで人を好きになったこともなければお付き合いしたこともないんです。なので今後も恋愛相談を受けるかもしれないので一度くらいは恋愛というものを経験しておこうと思って」


「経験って先生何か始めるのかい?」


「はい、マッチングアプリを」


「こら驚いたよ、先生は真面目だねえ」


「仕方がないじゃないですか、恋愛相談が本当に増えているんですから」


「恋愛相談?そういやさっきもそんなこと言ってたね」


「はい、結婚とか出会いとか、恋愛についての相談が増えてまして」


「ん?あーそりゃ先生、バズったからだ」


「バズった?」


「そう、こないだ私が向かいのじいさんをどう口説くか相談したろ?その事をSNSで呟いたらさ1日で2万いいねがついちまった。今じゃSNS上ではここは最高の恋愛相談所って言われてるよ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] たたみ込んでいく先生の勢いが良すぎて、すでにゼ◯シィの時点で声出して笑ってしまった(*>ω<)=3 それに関西圏のゼ◯シィは確かに凄い分厚さですよねw 二次元の恋愛に努力とVRの処方がい…
[一言] コメディタッチなのがいいですね!2次元の恋がまさかそんな形でハッピーエンドを迎えるとは!!
[一言] ゼクシィを見てびびるような男なら、本を鈍器として使うのもやむなしですね! 次いきましょ、次! しかしまさか最初の呟きが彼女だったとは。侮れませんね。きっと昔はナウでヤングな女性だったに違い…
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