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ヒロシゲ・ブルー (2018作)  作者: 南雲 一凛
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☆★☆絶対色覚の僕とパンデミックと僕らの未来との諸事情★☆★

ヒロシゲの浮世絵に描かれる海や空、富士山などに使われている青色。


みずみずしさと深みを備えたあの紺碧は、ヒロシゲ・ブルーと呼ばれている。


日本からヨーロッパへの輸出が始まると、陶器をくるむ紙の中に、一部紛れ込んだ浮世絵は、

それ自体が珍重されるようになり、ゴッホやモネにも影響を与えた。


その浮世絵師の一人が、江戸末期の浮世絵師、喜多川広重。

本名を安藤重左衛門(あんどうじゅうざえもん)という。


そして、彼は僕のご先祖様にあたる。

僕の名前は、安藤広亜(あんどうひろあ)


それは、家系的なものなのか?

自分では意識しないできたものの、なぜか僕には、繊細な色彩感覚が備わっているらしい。


そんな僕の身に起きた、納得のいかない、多くの出来事についてここに記す。




第1話

林檎(りんご)のファーストキスからはじまる

僕の物語




「どなた様ですか?」


言いながら見たインターホンの画面には、林檎が映っていた。


まっすぐに切り揃えられた前髪、薄茶色の少し波打ったロングヘア。

オフホワイトのパーカーには大きくNYと濃紺の刺繍がある。

赤と緑とグレーとが交差するチェックのひだスカート。

チャコールグレーのロングソックス。


林檎は、その大きな目で

まるで、こちら側をのぞきこむように立っている。


「開けるから、待ってて。」

僕は、何となく急ぎ足で向かった。


林檎とは幼稚園も一緒だった。

母親同士が仲がよかったので、その頃は毎日一緒にいたような記憶がある。

小学校に入ってからは、二年の時に一度に同じクラスになっただけで、だいぶ疎遠になっていた。


そんな訳で、林檎の突然の訪問には驚いたし

妙な緊張が走った。


僕が玄関のドアを開けると、まだドアが開けきらないうちに、まるで逃げ込むように入って来た。


僕の手がドアから離れる前に、林檎は今脱いだ白いスニーカーをそろえた。


「おじゃまします。」

そう言うのと同時に、奥に向かって歩き出した。

林檎の挨拶に返される返事はない。

「母さん、買い物に出てる。」

つい15分くらい前、母さんは出掛けて行った。


林檎の後ろ姿を追う僕は、スカートから伸びる長い脚がまっすぐで、以前にまして

細く長くなったように思えた。


林檎は、僕の部屋の前で止まった。

「えっ。僕に用だったの?」

「そうだけど。いい?」

林檎は僕の部屋のドアノブに手をかけた。

「ちょっと待って!散らかってるから。」

「気にしないけど。」

焦った僕は、自分の部屋のドアと林檎の間に滑り込んだ。

「少し片付けるから、リビングで待ってて。」

林檎は、僕の困った様子を見て

面倒くさそうに、リビングに向かって歩きだした。


僕は、とりあえず

ベッドに脱ぎ捨てていた上着をクロゼットに放りこんで、机の上のに重なった雑誌を引き出しにしまってみた。

部屋全体を見渡して、見られたくない物がないか、チェックしていた。


「ねえ。もういいでしょ?」

林檎は言いながら、すでにドアを開けていた。

つかつかと部屋に入ると、くるりと見渡した。


僕は自分には気づけない、この部屋の何かおかしな所を見つけられはしないか、内心ドキドキしていた。


林檎は、後ろに手を伸ばすと

僕の勉強机のイスを引き、イスの背を回転させて音もなく座った。


「あのね。私、

今度日曜日の夜にやるドラマに、

チョイ役だけど出られることになったんだ。」

膝の上で両手を握り合わせながら

話し出した。

その表情は、なぜか嬉しそうに見えない。


「おめでとう!」

林檎が、小さい頃から芸能人に憧れていたのは知っていた。

去年の夏ごろ、有名な事務所に入ったと

噂になってもいた。


「すごいよ。

事務所に入ったらしいっていうのは

祐太からも聞いてたんだ。」

僕は、少し離れたベッドに向き合うように座った。


「それがさ…。

主人公が吸血鬼で、私は中学生役なんだけど

キスシーンがあるんだよね…。」


「キスッ!?」


「そう。」


「小5にキスシーンやらせるの?」

僕には、驚きしかない。


「チョイ役だし、誰でもいいんだと思うの。」

ただ、驚いている僕に、林檎は続けた。


「誰だかわからない程度の役ってことでしょ。でも、問題なのは

その主人公があのプレイボーイで有名な

井倉賢だってことなの!」


「井倉賢!かっこいいよね?」


「かっこいいかな?そうじゃなくて。

キスシーンは、キスしてるように見えるアングルで撮るだけで、本当はキスしなくていいんだけど、奴の場合は、本当にしかねないと思うの!」


「演技だから、仕方ないのかな?」

林檎が、素直に喜べない理由がわかった。


「仕方ないで終われないよ。

もしそうなったら、私のファーストキスが仕事で消費されるわけだし、お金にかわるわけだし。」


「そっか。それは、確かに嫌かも。」


「でしょう。それに…。

現場でいかにもキス初めてです的なのも

恥ずかしいし

もし、万が一本当にキスされたら

さすがに私も傷付いて、泣いちゃったりするかも…。

そうなると、現場の雰囲気を悪くするというか、チョイ役なのにうざいかなって思うの。」


僕は、林檎がそこまで考えていることに、

感心するほかなかった。


「確かに、そうかも。」


この時点では

僕は、林檎が何のためにここに来たのか

それに気づけないでいた。

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