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第9話 ちょっと、いいですか?

――この世界の転生者は、おれと麻条先生のふたりだけなのか?


 この疑問は、当然思いつくべきものだった。

 しかし、おれは自分のことだけで精一杯で、そんなことを考える余裕がなかった。

 魔女ミリヤの存在に気づいたのだって唐突な出来事のせいだし、これまで冷静な状態で考えられなかったのだ。

 だが、こうして、おれ以外の転生者に出会ってしまうと、この可能性を無視することはできない。


 麻条先生と話した内容には、魔王の極限魔法についても話題にした。

 おれや麻条先生の命を奪った極限魔法とは何なのか、知っておきたいと思ったのだ。

 おれの問いに対して、麻条先生は申し訳なさそうに「詳しくは知らないから、あいまいな部分は勘弁してね」と断りを入れてから説明を始めた。


 魔王には、いや魔王の血を引く者には特別な魔法が使えるそうだ。

 その魔法を総じて『極限魔法』と呼び、魔族たちの畏怖の対象であった。

 彼らが畏怖したのは、その魔法の正体がまったくわからないからだ。

 実際に『極限魔法』なるものを直接目にした者も、その魔法の正体について説明できなかったという。

 そのことは、その魔法を直接喰らったおれ自身が保証できる。

 たしかに、あれは訳がわからない。

 あれの正体が何なのか結局わからないままだ。


 ただ、魔王の魔法には「この世のことわりを超える力がある」と言われている。

 麻条先生によれば、おれや麻条先生は極限魔法の直撃を受けて、肉体だけが崩壊し、魂は別の次元へ飛ばされたのではないかということだ。

 それが、おれや麻条先生が異世界……つまり、この地球に飛ばされた背景ではないかと思われるのだ。


 この考えをさらに広げて進めれば、あの魔法の巻き添えを喰った者は、かなりの確率で魂だけこの地球に飛ばされた可能性がある。

 そして、おれのように誰かの魂と融合しているかもしれないのだ。


 この考えは、単なる思いつきで終わらない気がした。

 なにせ、おれや麻条先生という確固たる根拠が存在するのだ。

 おれたちふたりだけで終わりと結論を下すのはまだ早いだろう。


……しかし、転生にはルールと言うか、規則性はないのだろうか?……。


 おれはソファの上であぐらを組んで考え込んでいた。

 夕食後のリビングにあるソファである。

 ふだんは家族でテレビを観るために座っているものだ。

 テレビでは何かのバラエティ番組が流れている。

 おれは観るともなしにテレビを眺めながら考えごとをしていたのだ。


 『上から読んでも、下から読んでも、右からも左からも読んでも、鳴海なるみルナでーす!』

 ツインテールの可愛い女の子が画面に向かって満面の笑顔で手を振っている。


 『元気いいねぇ! 今日のゲストはアイドルグループ『まじかる』の鳴海ルナさんにお出でいただきましたぁ!』


 テレビから元気な声が響き渡り、おれは考えを中断して画面に見入った。

 アイドルも司会のタレントも、おれは知らなかった。

 おれと融合する前の勇真比呂もアイドルの知識はうとい。

 そもそも好きなものが存在しなかったのだ。

 そのせいか、この世に執着するものもない。

 だから、融合後はおれの人格のほうが主人格のようになっているのではないか。

 もし、魂の融合に条件があるとしたら、生きる意志の弱いものに融合しやすいとかあるのかもしれない。

 麻条先生と話したとき、ミリヤと融合する前の麻条先生も、どちらかと言えば、教師として熱心な人物でなかったようだ。

 育った環境のおかげで英語が堪能だから、語学を生かせる職業に就いただけで、教育に対する情熱を持っていなかったそうだ。

 彼女にしてみれば、教師は食っていくための手段にすぎなかったわけだ。

 おれの勇真比呂も、ミリヤの麻条先生も、魂あるいは心の奥に隙間が存在していたように思う。

 おれたちは謀らずも、そこに付け入るようにして潜り込み、魂の融合を果たしたのではないか。

 そうであれば、おれたち以外の転生者を探すとすれば、どこか虚無的な人間を探せばいいということか。


 「それってアブない奴を探せってことになるよなぁ……」

 おれは首をひねりながら独りごちた。

 自分で考えておきながら、その条件はいただけない。

 それが正しいのなら、おれや麻条先生もアブない奴だったことになる。


 「転生者を探すのに、何か目印みたいなものでもあればなぁ」

 おれは無いものねだりだと承知でつぶやいた。

 今度の問題も、麻条先生の正体を探るのと同じぐらい難問だ。

 この地球上に本当にいるのかわからない、エクトラントからの転生者を探そうというのだから。


 おれはしばらく考えたが何も浮かばない。

 テレビを消して、風呂につかりながら考えても浮かんでこない。

 とうとうベッドに潜り込んで、天井を睨みながら考えたが、さっぱり思いつかない。


 もともと、おれは頭の冴えが今ひとつだった。

 考えることの専門はアンドリューの役割だ。


 あいつは神学校で多くの学問を修めたエクトラントのインテリだ。

 あいつと一緒だったら、こうした問題も鮮やかに解決してくれたかもしれない……。


 そこまで考えて、ふと、仲間のことが気になった。

 魔王の極限魔法の発動前に、仲間はみんな退避したが、無事逃げおおせたのだろうか?


 おれは、彼らが部屋から姿を消したことで、全員無事だと思い込んでいた。

 しかし、魔王の魔法はケタ違いだった。

 あれが核兵器並みの破壊力だとしたら、部屋から逃げ出した程度では無事ですむまい。

 そうなると、おれたちは全員命を落としていることになる。


……もし、そうであれば、仲間もこの地球で転生しているのかな?


 おれは不謹慎なことを望んでいることに気がついた。

 仲間の無事を願いながらも、彼らもここにいてくれたらと願ってしまったのだ。

 そんな願いがほんの少しであっても、それは自分勝手な願いというものだ。

 弱音に近い願いが心に浮かぶほど、おれは孤独を感じていたのだ。

 もと敵とは言え、麻条先生と巡り会えたのは幸運だった。

 しかし、それでも気の合った仲間のいない寂しさはたとえようもないものなのだ。


 「……早く慣れなきゃ、な……」


 相変わらず天井を睨みながら、おれはぽつりとつぶやいた。

 その後は、つらつらとまとまりのないことを考えているうちに、いつの間にか寝入っていた。


 翌朝、あんまり頭の中がスッキリしないまま、おれは高校への道を歩いていた。

 昨夜は熟睡できたわけでなく、目覚めがあまり良くなかったのだ。

 だらだら歩くおれを数台の自転車が追い越していく。

 いずれも西華高校の制服姿だ。


 西華高校の学区はかなり広いため、おれのような徒歩通学の生徒だけでなく、自転車やバスで通学する者も多い。

 自転車通学は許可制で、高校から直線距離で2キロ以上離れている者でないと認められない。

 徒歩10分圏内のおれは当然認められないが、今日のように歩くのがおっくうなときは、自転車で学校へ行ける者がうらやましい。


……はぁ、帰りてぇ……。


 帰ったところで何かしたいことも無いが、おれの『サボりたい』心は頭の片隅でノックをし続けていた。

 おれが心のドアを開けると、そいつは喜んでおれを家まで連れ帰ってくれるだろう。


 そんなときだった。ふいに背中を軽く叩かれる感触で振り返ると、そこに委員長の笑顔があった。いつもの満面の笑顔だ。


 「おはよう」

 「おはよう、委員長」


 おれの『サボりたい』心は成層圏を突き抜けるまで吹っ飛んでいった。


 「何か眠そうだね」

 委員長はおれに並んで、おれの顔をのぞき込む。

 おれは視線をそらして頬を掻いた。


 「ゆうべ、あまり寝つきが良くなかったんだ。

 眠ったつもりが、あまり眠れていなくって……」


 「勇真君、悩みごと?」

 委員長はなかなか鋭いことを言う。

 しかし、おれは首を横に振った。

 委員長にエクトラントの話をしても仕方がない。

 それに、委員長の笑顔を失笑に変えたくはなかった。


 「おれに悩みごとがあるように思う?」

 「無いのならいいんだけど。でも、悩みって誰にでもあると思うんだけどなぁ」


 おれは委員長の横顔を見つめた。

 「……委員長には、あるの?」


 「乙女に悩みは尽きないのです」

 委員長は冗談めかして答えた。

 さすがに、おれの顔も笑顔になった。

 やや苦笑いではあったけど。


 「委員長は乙女なのか」

 「失礼ね、当たり前でしょ!」

 どんと肩をぶつけると、委員長は声をあげて笑った。

 おれもすっかり笑顔になった。


 楽しい。

 こんな生活が続くのであれば、麻条先生のほかにエクトラントからの転生者が見つからなくたってやっていけそうだ。

 おれは頭の中から「エクトラント」という単語を消す努力をするべきなのかもしれない。


 委員長との楽しい時間は正門まで続いた。正門に着くと、そこにひとりの男子生徒が立っていた。

 ややぽっちゃり体型でメガネをかけている。あたりを見渡す様子は誰か待っているようだった。

 顔の割に小っちゃな目が、メガネ越しにおれの目と合った。


 「何だ?」

 おれは思わず立ち止まった。

 そのメガネ君はおれと目が合うなり、つかつかと近づいてきたのだ。

 ついにメガネ君はおれの前に立った。

 どうやら、おれに用があるらしい。

 委員長が無言で、『知っているひと?』と尋ねるような表情でおれを見ている。

 おれは無言で小さく首を振った。


 「ちょ、ちょっと、いいですか?」

 メガネ君はどもりながらおれに話しかけた。

 そして、おれの腕を取ると、委員長からおれを引き離して引っ張っていく。


 「お、おい、どこに連れて行くんだ?」

 おれは戸惑いながら尋ねた。

 校内で顔を見かけたことはあるかもしれないが、まったく記憶にない生徒だ。

 西華高校は学年ごとにネクタイの色が違うので、彼が同じ2年生であることはわかる。

 しかし、おれは2組だが、1組にも、3組にも、いわゆる普通科のクラスに彼がいないことは確かだ。

 まったく縁が無いと言えば、7組の特進科あたりになる。

 特進科は国立の超難関大学への進学を目指すクラスだ。

 西華高校のエリートが集うところで、西華高校のランクを上げることに貢献している。

 授業のカリキュラムがまったく異なるので、7組の生徒とはこれまで顔を合わす機会がなかった。

 いかにも勉強ばかりしていそうな雰囲気といい、7組あたりの生徒じゃないかと考えた。


 「すぐそこです」

 おれは正門から少し離れた桜の樹のそばまで引っ張られた。

 樹の陰になるあたりで、ようやく彼は足を止めた。


 「いったい何だよ、おれが何かしたか?」

 おれはやや苛立った声をあげた。


 「すみません。ちょっと聞きたいことがあったんです」

 メガネ君は素直に謝った。

 おれに何か文句を言うためではないらしい。

 おれは不機嫌な表情のまま、「何だよ、聞きたいことって」と尋ねた。

 委員長との楽しいひとときを奪われて、おれは本当に不機嫌だった。


 おれの表情に相手は少し怯んだらしい。

 少し視線をそらしてメガネをかけ直した。

 少しもじもじしているようだ。

 おれに用があると言いながら、なかなか話を切り出そうとしない。

 おれはイライラしてきた。


 「おい、用がないなら、おれは行くぞ」


 おれは昇降口に向かって一歩足を踏み出したとき、メガネ君がぼそりとつぶやいた。


 “Chose off wealth `ectollant`?(あなたはエクトラントの人間か?)”


 おれは弾かれたように振り返った。

 エクトラントの言葉を発したメガネ君は、じっとおれを見つめている。

 おれはおそるおそるエクトラントの言葉で尋ね返した。


 “Just ill for well park smell?(君は何者なんだ?)”


 それを聞いたとたん、メガネ君の顔はぱぁっと明るくなった。

 ほっとしたような安堵の笑顔だ。


 「良かった! エクトラントのひとに出会えて。

 あ、ええっと、僕は7組の安藤龍あんどうりゅうと言います。

 エクトラントではアンドリューという名前でした!」


 メガネ君はそう言って自己紹介した。

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