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逆転生! 勇者でもこの世界では中二病? -勇者? 比呂編-  作者: 恵良陸引


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第19話 何か隠していませんか?

 その日の放課後に、安藤や麻条先生と顔を合わせるのは、正直な話、気が進まなかった。


 真央のことは確信を持って言える話ではない。

 状況的におれが勝手に推測しているだけなのだ。

 とてもふたりに報告なぞできない。

 しかし、そうなると、おれが校内で捜索活動をサボっていることを糾弾される恐れがある。

 まぁ、事実だからしょうがないのだが。


 おれが暗い表情で座っている様子を、安藤はおれの捜索が不首尾なのだと解釈したようだった。

 「あまり思い詰めないで下さい」と、逆に慰められてしまった。

 おかげで、おれの気分はますます重くなった。


 「転生者探しはあなたが言い出したのよ。ちゃんとしているの?」

 一方、麻条先生は容赦がない。

 魔王軍の魔導部隊司令だっただけに、かなり圧力を感じる。

 かつての部下たちは、さぞ緊張しながら従っていたことだろう。


 「やみくもにエクトラント語で話しかけるのは難しいよ。

 見知らぬ生徒に日本語で話しかけるのだって大変なんだ。

 下手すりゃ、ただ変な奴にしか見られないし、そうなるとまともに取り合ってもらえない」


 「1年5組の矢蓑台真央さんには話しかけていましたが」

 安藤が余計なことを言う。麻条先生はおれの顔を見つめた。


 「1年生の女子になら話しかけられるってこと?」

 「……校内でひとりぼっちでいたからです。ナンパとか、邪な考えじゃありませんよ」

 おれはぶすっとして答えた。

 真央のことで不真面目に取られるのは心外だった。

 それに、真央の件はこれ以上触れて欲しくなかった。

 しかし、このタイミングであれば、真央のことについて情報を得られるかもしれない。

 おれは不自然でないよう気をつけながら、安藤に話しかけた。


 「今日も校内捜索中にひとりでいるところを見かけた。彼女はいつもひとりなのか?」

 「僕が知るかぎりでは。独特の雰囲気と見た目ですからね。クラスでも浮いてしまうのでしょう。いじめられているという話までは聞いていませんが、クラスのひとたちと仲良くできていないと思いますよ」


 「たしかに、話し方は朴訥ぼくとつだし、会話が噛み合いにくい感じだった。でも、かなり素直な性格だと思う。嫌われるより、好かれる人柄だと思うけどな」


 「あなたは、他人を悪意で見ないひとですよね。素直なひとであれば無条件に好かれるわけではありませんよ。そんな素直さが鼻につく人だっているんです。真央さんがいくら素直な性格でも、それだけでクラスのひとたちと折り合いよくつき合うのは難しいでしょうね」


 安藤はおれの考えを簡単に否定した。

 おれは反論したかったが、それよりも安藤の言い方が気になった。


 「お前はさっき、彼女がいじめられている話は聞いていないと言っていたが……?」

 「あくまで聞いていない、という話です。女子同士のことは男子にはわかりにくいです。男子の目ではわからない形で、いじめが行われるのは珍しくありませんから」


 「じゃあ、お前は彼女の何を知って、そんな疑いを持っているんだ? 男子ではわかりにくいから疑いがあるって話か?」


 「図鑑を作成していたころ、彼女に関する情報を集めていたのですが、あまり評判が芳しくなかったんです」


 「どういうことだ?」


 「いつ話しかけても無視されるだとか、何かの話し合いの輪に加わらず、いつの間にか姿を消している、とか。

 ただ、とっつきにくいだけでなく、『お高くとまっている』と見られているんです。

 彼女は日本語で問題なく会話できますからね。

 言葉が通じないというわけではない。

 それでは彼女に対して良い印象を持たないひとが出てくるのもうなずけるでしょう」


 「でも、お前によれば、美少女ランク1年生の部、第5位に入るわけだ」


 「美少女にコミュ力は必須じゃありませんからね。

 僕の中でのランキングに影響無かっただけです。

 ただ、コミュ力が高い子のほうがランキング上位に入りやすいのは事実です」


 麻条先生は顔をしかめた。「あなたたちはいったい、何の話をしているの?」


 「女の子の話です。年頃の男子の話題としては自然でしょ?」おれはさりげない風を装って答えた。


 「……その割には、図鑑だの、ランクだの、不自然な単語が混ざっていたように思うけど」

 「単なる言い回しの問題です。先生が気になさるところではありませんよ」

 安藤がさりげなく疑惑を打ち消した。


 「ところで、麻条先生は1年生の英語は担当していないんですか?」

 大きく話題を反らすと不審に思われる。

 おれは間接的な話題を振ることで、少しでも美少女図鑑の件から遠ざけようと試みた。


 「1年生の授業も担当はしているが、1組から3組までで、5組は担当していないわ。話題に出た女子のことは知らないけど、その子はいじめに遭っているようなの?」

 おれは首を振った。


 「現場を目撃したわけでないし、彼女が泣いているところを目撃したわけでもない。ただ、いつもひとりぼっちでいることが気になっただけだ」


 麻条先生はため息をついた。

 「あなたは気になることには首を突っ込むタイプなのね」


 「エクトラントでは、彼のこういうところで苦労させられました」

 安藤がまた余計な合いの手を入れる。


 「五分のこともそうだけど、あなたは他人のことを気にし過ぎね。

 転生者の件は他人事でないから協力しようと思うけど、それ以外のことに、私はあまり関わらないつもりよ。

 他人に親切であるのは悪いことじゃないけど、あなたの場合は親切というよりお節介だわ。

 親切はひとを助けるけど、お節介はひとを傷つけやすいのよ」


――お節介。麻条先生の言葉はぐさりと来た。


 「安藤君から、これまでのあなたのことを聞いたけど、あなたは他人に対して邪念を持っていたり、不誠実であったりはなかったようね。

 でも、一方で独善的なきらいがある。

 自分の考えに信念を持つのは立派だけど、あまり過信しないほうがいいわ。

 他人への優しさは、時として残酷な一面を見せることも知るべきね」


 「……麻条先生は、本当に教師みたいっすね」

 「……本職の教師よ」

 「まぁ、おれもこれまでのことで自分なりに反省しているところはありますから、もう少し慎重に行動しようと思います」


 真央に対する行動も慎重でなければならない。

 おれが抱いているのは確信ではない。

 真央が闇の大魔王ではないかという疑念だ。

 おれはこれまで、その確認方法で2度失敗している。

 麻条先生のとき、そして、五分倫太郎のとき。

 いいかげん、おれはこれらの失敗を教訓にするべきだ。

 それに、真央が闇の大魔王の転生であるなら、先に確認すべき問題がある。


 「麻条先生。少し、聞いておきたいことがあるんだけど」

 「何かしら」

 「魔王の極限魔法ってさ。使用者への影響はあるのかな?

 おれたちが一網打尽にされるほどの威力だったけど、魔王自身もその攻撃の至近距離にいたわけだし……」

 麻条先生はぎゅっと両目をつむった。

 口もきつく締められている。

 麻条先生にとって、触れて欲しくない話題だったようだ。


 「……実は、私がずっと心配している問題なの、それ。

 魔王陛下の極限魔法には困った問題があったの。

 それは、魔王陛下ご自身でも、あまりコントロールできないってことなの」


 「コントロールできない?」


 麻条先生はうなずいた。

 「私たちが魔法を行使するとき、使いたいとき、使いたい威力で使えなきゃ役に立たないわよね?

 あの極限魔法は、魔王陛下の意志とは関係なく、勝手に発動してしまう危険なものなの。

 怒りであるとか、ストレスであるとか、大きな哀しみであるとか、とにかく自制できないほどの感情に支配されると、『あれ』が発動してしまうの。

 もし、あれが自分の意志で制御できるのであれば、私たちのような雑兵に戦わせずに、陛下御自身で戦場に出向き、決着をおつけになっていたわ。

 あの力に対抗できるものなんて存在しえないもの。

 私は魔王陛下が、あの極限魔法でご自身もまたお命を落とされてはいまいかと気にかけているわ」


 『あれ』が発動していたとき、魔女ミリヤは必死で魔王の心を鎮めようとしていた。

 あのとき、魔王は自分で制御できない魔法を発動させていたということか。

 そうであれば、自身の極限魔法で命を落とした可能性はあるということだ。

 そして、おれたちと同じようにこの世界で転生するということも……。


 「でも、どうして急にそんなことを聞く気になったの?」

 おれは首を横に振った。

 麻条先生には悪いが、現時点でおれの考えを口にすることはできなかった。

 真央のことは、あくまでおれ個人が勝手に疑っているだけだから。


 「魔王の極限魔法について、おれには理解できないところがあったんだ。

 あの攻撃でおれたちだけでなく、麻条先生や五分倫太郎までもが命を落としていたってことだ。

 魔王がいくらブチ切れていたからって、大勢の味方を巻き添えに極限魔法を放つだろうかってね。

 そこまで残忍っていうか、冷酷な判断ができる者だったのかって。

 麻条先生からは断片的にしか魔王について聞いていないけど、そこまでの人物には思えなかったんだ。

 それで、そんな疑問がふと浮かんできたんだ」


 それは、真央に対する疑問にもつながる。

 あんなに大人しそうな少女が、もし、闇の大魔王の転生であるなら、彼女が味方まで虐殺するようなことをするだろうか?

 麻条先生の証言をそのまま信用するなら、魔王はあの魔法をまったく制御できなかったのだ。

 味方もろとも攻撃しようなどと、魔王は考えていなかった可能性が高まった。


 つまり、真央が魔王の転生である可能性も高まったのだ。


 「その話だと、闇の大魔王自身もまた、極限魔法によって命を落とし、この世界に転生した可能性があるのですね?

 もし、あなたが転生した魔王を見つけたらどうします?

 これまでの転生者と違い、僕たちの命を奪い、この世界に転生させた張本人です。

 さすがのあなたも平静ではいられないのでは?」


 「わかんねぇよ」

 おれは天井を見上げた。

 真央が魔王の転生かもと考えたとき、たしかに平静ではいられなかった。

 しかし、湧いてくるのは困惑ばかりで、怒りだの憎しみだのといった感情は不思議と湧いてこなかった。

 それは、これまで真央と接してきて、不思議な一面はあるが、それ以外はいたって普通の女の子であることを知ってしまったからだろう。


 「わかっているのは、おれがいきなり襲いかかることはないだろうってことだな。

 お前は不思議に思うかもしれないが、おれの中に怒りの感情は湧いてこないんだ」


 「もし、あなたたちが転生した魔王陛下を見つけ、傷つけるようなことをすれば、あの協定は破棄して、私はあなたたちを殺すわ。わかってるわね?」

 麻条先生は全身に殺気をみなぎらせていた。当然だろう。


 「難しいかもしれないが、おれたちはそんなことをしないと信じて欲しい。

 おれがこの世界で願うのは互いが争わないことだ。

 戦いの決着をつけたいとは思えないんだ」


 「僕は平和で過ごせるのであれば、勇者と同じ考えです。

 もともと、僕が勇者とともに戦っていたのは、僕たちの平和がおびやかされていたからです。

 転生した魔王が、この世界で平和に暮らしているのであれば、その平和を壊そうなどとは思いません。

 誓って言えますよ」


 安藤も深くうなずいて、おれに続いた。

 麻条先生の目に不審の色が消えたわけではないが、「わかったわ。私も協定を守るよう努めるわ」と言ってくれた。

 とりあえず、おれたちの言うことを信用してくれたようだ。


 おれの発言で、おれたちの間に奇妙な空気が流れてしまった。

 『転生者捜索会議』は、何となく終了という感じになり、麻条先生は部屋を出て行った。


 おれたちだけで残っていても仕方がない。

 おれたちも生徒指導室を出ると、安藤がしかめ面して話しかけた。


 「あなたは何か隠していませんか?

 魔王も転生しているかもって、何か根拠がないと考えない気がしますが」


 おれは肩をすくめた。

 「言ったろ? あの極限魔法のことが気になったんだ。

 おれは間近で『あれ』を見ている。

 あのデタラメな魔法が、魔王だけを避けて攻撃できたのか疑問に思っちまったんだ。

 『あれ』は思っていた以上に、規模も威力もケタ違いだ。

 味方も巻き添えにする魔法なんだぜ。

 魔王もろともって考えても不思議じゃないだろ?」


 「あなたが隠していると僕が考えるのは、『怒りの感情が湧いてこない』と言ったからです。

 それは、あなたの頭の中には想定している誰かが存在して、その誰かに対し怒りや憎しみの感情が抱けないからではないのですか?」


 相変わらずカンのいい男だ。

 しかし、さすがに今の段階で話すことはできない。


 「お前の考えすぎだ。

 おれは転生前だって、怒りや憎しみだけで戦っていたわけじゃない。

 お前と同じように平和のためでもあったんだ。

 前にも話したけど、この世界にエクトラントの縛りは無い。

 だから、この世界でエクトラントの恨みなどは持ち込まない。

 それは、たとえ相手が魔王であっても考えは変わらない」


 「僕は逆に心配しています。

 あなたがいくらその考えでいても、魔王自身はそう考えないかもしれません。

 僕たちにとって、魔王はこの世界へ転生させた張本人ですが、極限魔法を使わせた原因として魔王のほうが僕たちに敵意を向ける恐れがあります」


 それは考えてもみなかった。

 しかし、真央の性格では、それはありえないと思えた。


 「それも考えすぎだよ」おれは安心させるように、安藤の肩に手を置いて言った。


 そのとき、おれは急に後ろを振り返った。

 かすかだが、誰かの立ち去る足音が聞こえた気がしたのだ。

 おれは足音を立てないように素早く歩いて、足音の聞こえた廊下の角をのぞきこんだ。


 おれがのぞき込んだ先は階段だった。首を伸ばして下を見ると、亜麻色の髪が視界から消えるところだった。

 少し前に部屋を出たはずの麻条先生の髪だ。麻条先生はさっきまで、この壁の陰からおれたちの会話を聞いていたのだろうか?

 あのやり取りで、何かまずい部分はあっただろうか。

 おれは記憶をたぐってみたが、何か問題があったか思いつかなかった。

 そうであるなら、麻条先生の後を追って、立ち聞きしたかどうかを問い詰めるのは意味のないことだ。


 おれは、ぼんやりとそのまま立ち尽くしていた。


 安藤がおれの隣に立って、「どうかしましたか」と尋ねたが、おれはすぐに答えることができなかった。

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