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逆転生! 勇者でもこの世界では中二病? -勇者? 比呂編-  作者: 恵良陸引


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第15話 何を教訓にすればいいのだろう?

 壁を背にした戦い方が存在すると言ったが、それはウソではない。


 特に両側が狭いところにあれば、こちらだけが不利とは言えなくなる。

 思った通り、男のパンチは力の無いものだった。

 それを左腕で防ぐと、おれは右の拳で殴りつけた。

 相手は思わぬ反撃に遭ったようで、上体を反らしてのけぞった。


 壁を背にした相手を殴るのは、実際のところ勇気がいる。

 渾身の一撃を相手にかわされたら、硬い壁に自分の拳をぶつけることになるのだ。

 強打であれば、自分で自分の拳を砕きかねない。

 両脇が狭いとフック系のパンチも使えない。

 両側の壁に拳をぶつけてしまうからだ。

 この状況では、単調な直線的なパンチしか使えないのだ。


 それはキックも同様だ。

 広い場所で壁際に追い詰めたのであれば、攻撃側は圧倒的に有利な条件でキックをお見舞いすることができる。

 しかし、狭い場所だと、回し蹴りが使えない分、こちらも直線的な攻撃しか使えない。

 この場合、どちらも武道をたしなんでいないと効果的な攻撃はできないのだ。

 武道はむしろ直線的な攻撃を鍛えているので、狭い場所でも十分に脅威だ。

 しかし、男はケンカ慣れしているようだが、武道の心得はなさそうだった。

 そこで、戦う以外に道なしとなれば、どう戦うか頭の中でシミュレーションしていたのだ。


 おれは壁から身体を離さずにファイティングポーズをとる。

 そこで、ようやく相手もおれがどう戦うつもりか悟ったようだった。


 「お前、戦場慣れしてやがるな。お前、あのとき玉座の間に踏み込んだ人間どもだな」

 元ゴブリン男も構えを取り直してつぶやいた。


 「お察しの通りだ。おれはあんたを蹴飛ばして玉座の間に押し入った者さ」


 おれの答えに、元ゴブリン男は憤怒の表情になった。

 「あのときのお前かぁ!」

 ほら、言った。思った通りに言った。

 誰かそばにいたら、「ほらね」って言いたいところだ。


 元ゴブリン男は足を持ち上げて蹴りを入れようとした。

 身体の前で折りたたんだ脚を伸ばすキックだ。

 この狭い場所では、そういうキックしかできまい。

 そして、それがおれの待っていた攻撃だった。

 直線的なキックはどこに向かってくるか丸わかりだ。

 おれはその蹴りをすばやくつかむと、ぐいっと上に持ち上げた。


 「お、お、おお!」


 元ゴブリン男は片足でのバランスを失い、よろめきながら後ろざまに倒れた。

 受け身の取り方も知らなかったようで、後頭部を思いきり地面にぶつけてしまった。

 ゴツンという景気のいい音が狭い脇道に響き渡った。

 男は後頭部を押さえながら地面をのたうち回った。

 男の口からは「うおおおおおお……」と呻き声ともわめき声ともつかない声が漏れている。


 その隙におれは男を飛び越えて、脇道の出口へと向かった。

 相手が立ち直る時間がどれほどかわからない。

 しかし、おれは今のうちに伝えたいことだけは伝えておこうと思った。


 「たしかに、おれはエクトラントの人間だ。

 でも、本当はお前と戦うつもりでここに来たんじゃない。

 お前が商店街の前で苦しそうに叫んでいるのを見て、本心から助けたいと思ったからだ。

 エクトラントからの転生者はみんな孤独だ。

 でも、ほかにも同じ転生者がいるとわかれば、その苦しみや孤独だって和らぐんだ。

 おれはこの世界で魔女ミリヤと出会っている。

 彼女もこの世界の人間として転生して、その孤独感に苦しんでいた。

 だから、おれはミリヤとは戦わない協定を結んでいる。

 さっき話したミリヤとの件は本当だ。

 あっちの世界で人間と魔族とに分かれて戦っていたが、この世界では同じ人間なんだ。

 エクトラントでのわだかまりは解けなくても、手を取り合って生きていけるとおれは考えている。

 別に仲良くなんてしなくてもいい。

 ただ、あんたは独りじゃない。

 この世界にはあんたと同じような転生者がまだいるんだ。

 それだけは心に留めてくれ」


 おれは口早に話すと、その場を後にした。

 去り際にちらりと見えた元ゴブリン男は後頭部を押さえたままだったが、のたうつのを止めて静かに横たわっていた。

 意識を失っているわけではないようだ。

 おれの話が聞こえていたのかどうかはわからなかったが、おれの最低限の目的は果たしたと思った。

 この行動の結果がどうなるかわからないが、元ゴブリン男が商店街で見せた涙の原因が取り除かれるよう、おれは祈った。


 おれは振り返ることなく、国道への道を急いだ。

 道すがら、携帯で安藤に連絡を取る。


 『どうでしたか?』


 安藤から感情のない声が聞こえてきた。

 おれの行動に賛成ではないと言った気持ちがよく伝わる。


 「男と会うことはできた。

 でも、うまく話し合うことができずに争いごとになっちまった。

 今、隙を見て逃げ出したところさ」


 安藤は予想していたようで、『そうですか』と淡々とした反応だった。


 「ひとまず、こちらは戦う意志がないこと。

 ほかにも転生者がいるから、あんたは孤独じゃないってことだけは伝えた。

 まぁ、それで相手の気が鎮まるのならいいんだけどね」


 『あなたは制服姿のまま会いに行きました。

 相手がもし、あなたをつけ狙うようになれば、居場所は割れてしまいますよ。

 これから、その危険を背負うのだということは自覚してください』


 辛らつだが、安藤の言う通りだ。


 「すまない。この件でお前に迷惑が及ばないよう気をつけるよ」

 『もうこうむっています。階段掃除でね』

 「本当に悪い。今度、お前の当番のときに代わるよ」

 『それはいいです。校内美少女図鑑、2年生の部、ナンバー5の魚住さんとご一緒できましたから』


 魚住が美少女?

 メガネ系の美少女ってやつか?

 ……となると……。


 「お前の図鑑に、『城代祐実』は入っているのか?」

 おれは委員長の名前を出してみた。


 『もちろんです。2年生の部、ナンバー1です』

 まぁ、委員長はおれも認める美少女だが、なんとなく嫌な気分になる。


 「その図鑑、破棄してくれないか?

 お前がそういうことをやっているのって、何か気持ち悪い」


 『気持ち悪いって何ですか。

 この図鑑は7組の男子には好評なんです。

 7組は女子が少ないので、こういうアイテムに飢えているんですよ。

 あなたは7組男子全員を敵に回すつもりですか?』


 勘弁してくれ。

 元ゴブリンと派手にもめたばかりなのに、校内でもトラブルはごめんだ。


 「わかった。でも、くれぐれも校内の女子に気づかれないようにな。

 そういうのって社会的な問題になったりしてるんだぞ」


 『心得てますよ』


 おれは安藤との通信を切った。

 何か、元ゴブリン男との戦いよりも疲れた気分になった。


 それでも、戻りは交通費を浮かすべく、高架沿いを歩いて帰った。

 家や高校のある上原台までは2駅だ。急ぐつもりが無ければ、高校生の足で歩けない距離ではない。


 おれは歩きながら考えた。


 やっぱり、自分の行動は間違っていたのかと。


 結果を見れば、正しかったとは言えない。


 ただ、あのまま元ゴブリン男を放って置くのも間違いだと、今も思うのだ。

 おれは今回のことで、何を教訓にすればいいのだろう?

 あんな結果になってしまったが、おれは元ゴブリン男を救ってやりたい気持ちが、今も失われていないのを感じていた。

 そう考えてしまうことさえ、間違いだというのだろうか?

 商店街の前でむなしくエクトラントの言葉で叫んでいる姿は、転生間もないおれの姿と重なって見えた。

 あの辛さを取り除いてやるのは、敵味方の区別をつけてするものではない。

 そうすることで、今後起こりうるトラブルを減らせるのなら、むしろそうするべきなのだ。


 そうなると、手段が問題になるのか?

 おれは相手を追跡するような行動をした。

 それが警察官から逃れていた元ゴブリン男の警戒心に触れてしまったのだ。

 後を追うにしても、賞金稼ぎのような行動をするべきでないということだ。

 ただ、これを治すのは時間がかかりそうだ。

 おれは20年もの間、敵を追跡するスキルばかり磨いていたのだから。

 これからのおれは、もっと社交的なスキルを身につけなければならないのだ。


 たとえば……、

 たとえば……、

 たとえば……、思いつかん。


 おれは歩きながら深いため息をついた。

 この調子じゃ、問題解決までにどれほどの時間がかかるのやら、だ。


 家に着くまでに、ある程度考えをまとめるつもりだったが、おれは結局まとめることができなかった。

 家の前に到着すると、おれは改めてため息をついてしまった。


 家に入ると、夕飯の支度ができていた。歩ける距離と言いながらも、けっこう時間がかかったのだ。

 季節は夏至に向かっているせいで、陽はなかなか落ちない。

 おれが家に着いたのは、普段の夕食時間を過ぎたころだったのだ。


 夕食を終えて、何となくテレビを観ていると、鎌中商店街での騒ぎがニュースになっていた。

 意味不明の言葉を叫んでいた男が、商店街の何かを壊して逃げたというのだ。

 男は現場近くで警察官に取り押さえられたそうだ。

 映像が流れていたが、男は見覚えのある作業服姿だった。

 間違いなく、あの元ゴブリン男だ。

 ニュースは、その元ゴブリン男こと、五分倫太郎ごぶりんたろうを器物損壊罪の容疑で逮捕したことを告げた。

 警察はさらに五分が薬物に手を出していないか検査を行ない、商店街前で騒いだ詳細について調べる方針だという。

 おれはテレビを見つめながら、思わずつぶやいた。


 「あいつ、五分倫太郎って名前だったんだ……」

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