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逆転生! 勇者でもこの世界では中二病? -勇者? 比呂編-  作者: 恵良陸引


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第11話 いいアイデアはない?

 しまったと思ったが、すでに遅しだ。


 こいつの記憶力の良さは転生前と変わっていなかった。

 時宜をみて話そうと思っていたのに、おれのうかつさで台無しだ。

 おれには頭の良い立ち回りは、やっぱり難しい。


 「いいか、落ち着いて聞いてほしいんだ……」


 おれは一応前置きしてから、魔女ミリヤと出会ってからすべてのことを説明した。

 ミリヤとは戦ったが、最後は終戦協定を結んだことまで隠さず話したのだ。


 安藤は大人しく聞いていたが、終戦協定の話を聞くと顔色を変えた。


 「何を考えているんですか? お互い仇敵同士でしょうに!」


 「お前ならわかるだろ?

 おれたちがここで争うことに意味なんて無いんだってことに。

 この世界でどっちが勝ったとしても、それがエクトラントの問題に何の解決ももたらさないんだ。

 不毛以外の何ものでもないじゃないか」


 「あなたにしては、ずいぶんと冷静な考えですね?

 あなたはこれまでずっと言っていたじゃないですか。『あいつらは親のカタキだ』って」

 おれはうなずいた。

 「言ったさ。そして、その考えに今も変わりはない。

 でも、それはあくまでエクトラントでの話だ。

 この世界でのおれたちとは分けて考えるべきなんだよ」


 「理屈ではそうです。ですが、僕たち人間は感情の生き物ですよ。

 そんな簡単に割り切れるものなんですか?」


――『簡単』。


 魔女ミリヤからも「簡単に言うわね」と言われたっけ。


 「そうだな……。

 ちょっと説明が足りなかったか。

 おれが魔女ミリヤを追い詰めたとき、観念したミリヤは自分を殺せと言った。

 人間に転生したのは魔王を守れなかった自分の罰だと。

 そして、それを終わらせてほしいと。

 そのとき、おれはミリヤの中に、おれと同じ人間性を……、いや、人間らしい弱さと言ったほうがいいかな。それを見た気がしたんだ。

 おれたちは魔族たちを、人間性のかけらもない、ただ残虐なだけだと信じて戦っていた。

 そうやって、やつらを何人も倒してきた。

 でも、あいつらにだって、人間のような感情があって、誰かを思いやったりする気持ちも持っているんだ。

 それがわかった瞬間、おれの中から殺意が消えちまった。

 おれと同じ感情を持っている相手を、おれは敵だと思えなくなったんだ。

 もちろん、心の奥底にある憎しみが消えたわけじゃない。

 でも、それをむき出しにできるほど憎み切れなくなったのも事実さ。

 それと、おれはエクトラントの人間であるのと同時に日本人だ。

 日本人のおれは、広島や長崎に原爆を落として何の罪もない人びとを虐殺したアメリカを憎いと思っても、アメリカ人を殺したいとまでは思っていない。

 でも、それって割り切ったわけでないと思うんだ。

 憎いと思いながらも、心を通わせることはできるんじゃないか?

 少なくともおれはそう考えたんだ。

 おれが考えていることを素直に話したら、魔女ミリヤも憎しみは消えないが、おれの考えには賛成すると言ってくれた。

 そりゃあ、お前たちと話し合いを持たずに決めたのは悪いと思うが、相談できる状況じゃなかったのはわかるだろ?

 おれは口頭だけだが、魔女ミリヤと終戦協定を結ぶことにしたんだ」


 おれの話が終わると、安藤は「はぁあああ」と大きなため息をついた。

 やがて、おれに視線を向けると、苦笑いの表情になった。


 「あなたは、本当にあなたのままなんですね。

 その短絡的なほど簡単に決断してしまうところとか……。

 あなたの決断力は僕らには無いものです。

 だからこそ、僕たちはあなたに従ったし、その危なっかしさをそばで見守ろうと思ったんです。

 あなたは時として独りで突っ走りかねないひとでしたから。

 ですから、あなたがしたことは考えられないことではないし、あなたの考えは理解できます。

 でも、僕たちと話し合ってから決めて欲しかった、というのが本音です」


 「……すまない。まさか、仲間までもが転生しているなんて思いもしなかったから……」


 「まぁ、状況が状況ですから仕方がないことです。

 それに、あなたの言うことは正しい。

 転生前のことは何であれ、今の僕たちは地球人であり、日本人ですからね。

 エクトラントのことをこの世界に持ち込むのは、いささか筋が違うというものでしょう。

 僕はあなたの判断を支持します」


 「ありがとう。そっちだって、わだかまりはあるだろうが、麻条先生とはうまく接してくれ」


 おれが頭を下げると、安藤は手をひらひらさせて首を振った。


 「頭を下げなくたっていいんですよ。

 僕はあなたと違い、エクトラントの両親は健在でしたからね。

 誰かのカタキなんて感情はもともと持っていません。

 ただ、エクトラントの平和のためにという思いから、あなたとともに戦ったんです。

 恨み、憎しみの感情が無い分、僕のほうが割り切っていけるでしょう。

 それに、僕のクラスの英語担当は麻条先生ではありません。

 直接会う機会もあまりありませんから、衝突する危険は低いと思いますよ」


 安藤はアンドリューだったころと同じように冷静な答えを返した。

 あいつらしい答えだと思った。


 「そう言ってもらえると助かる。

 麻条先生には、お前に話すことはおれの判断に任せると言われていたんだ。

 おれが下手な話をして、お前が麻条先生に襲いかかる事態になれば、本当に申し訳ないところだった」


 「……僕が麻条先生に襲いかかるって……。

 そこだけ切り取られたら、僕はめちゃくちゃ変態ですね……」

 安藤は苦い表情を見せた。


 「それに、僕はこの世界でも、それほど激する性格じゃありません。そんな心配は無用ですよ」


 「わかった。それじゃ、お互い普通の生活を送っていけるようにしよう。それが正しい選択なんだよ、きっと」


 「普通の生活って、勇者は……、あなたは、今後はどうしていくのですか?」

 安藤は途中で言い直しながら尋ねた。


 「さっき言った通りさ。普通の生活。

 学校に行って、勉強して、おそらく進学して就職する。

 いつか結婚して家庭を築いて、そして年くって死んでいく。そういうやつ」


 「……そんな50字程度で語り切れる人生を送るつもりですか?」


 「考えてみろよ。

 エクトラントで戦っていたとき、おれたちは50字程度の人生さえ考えていなかったじゃないか。

 戦って、いつか勝つ。それ以外に何か考えていたか?

 おれはこの世界に来て、人生について5倍は考えるようになったってことだろ?」


 安藤は再び苦笑いした。


 「言われてみりゃそうです。

 僕だって、戦い以外のことで人生について考えたことがありませんでした。

 どうやら、安藤龍の魂と融合したせいで、僕の人生観は大きく変わったみたいです」


 おれは首をかしげた。


 「おれの場合、勇真比呂におれの人生観を変えるほどの思想は無かったように思う。

 単純に心の余裕が生まれたおかげだと思うんだがな」


 「それもあるかもしれませんね」

 安藤はうなずいて認めた。


 「その一方でさ、アイデンティティってやつか。

 それがどうなっているのか、おれにわかりかねるところがあるんだ。

 おれの中ではエクトラントのおれと勇真比呂としてのおれは両立している。

 どちらも本当のおれなんだ。

 ただ、同じクラスの連中にすれば、おれはひとが変わったように映るらしい。

 以前とは違うようなことを、ちょっと言われるんだ」


 「言われるのは学校だけですか?」


 「両親とは、あまり顔を合わせていないし、会話もしないから、何も気づいていないように思うな。言われるのは学校だけだ。今のところ」


 安藤は自分のあごに手をかけて考え込んだ。


 「そうですねぇ。

 『転生した先の別の魂と融合した』は、あくまで推論、いえ、想像でしかありません。

 僕たちはこの現象について、明確な答えを持っていません。

 もし、僕たちの想像通りであれば、これまでの勇真比呂は、あなたの魂で上書きされて消滅した可能性だってあるわけです。

 記憶だけを継承した、ということです。

 それを踏まえれば、僕の場合は、アンドリューと安藤龍の性格や性質が近かったので、違和感なく上書きされたと解釈されるわけです」


 「結果的に他人の人格を乗っ取ったということになるのかな」


 おれは気が重くなった。

 そうだとすれば、おれは勇真比呂を殺したことになる。

 おれの暗い反応を見て、おれが何を考えているのか察したらしい。

 安藤は慌てて口を開いた。


 「さっき、上書きって言いましたが、違うと思います。

 追加された、というほうが正確ではないかと。

 そうでないと、今の僕は趣味のない人間になっていますから」


 「趣味? 今のお前に趣味なんてあるのか?」


 意外な話が出て、おれは驚いた。

 神官だったアンドリューは真面目一辺倒な男で、遊びを知らない男でもあった。

 おれたちが酒を飲みながらカード遊びをしていても、その輪に入ろうとしなかったし、女遊びもしなかった。

 まぁ、そこは神官だから当然か。

 エクトラントであれば、ほかに絵を描くことか、楽器を奏でることが趣味になるのだろうが、そうした類のものに、アンドリューはいっさい手を出さなかった。

 何が書いてあるのかわからない難しそうな本を読んでいるぐらいで、しかも、それは勉強のためだと答えていたぐらいなのだ。

 そんなアンドリューに趣味だって?


 「ええ。まぁ、今の僕は、いえ、安藤はアイドルのおっかけが趣味みたいなものですね。

 今、僕のイチ押しは『まじかる』なんですよ」


 おれは「へぇー」ぐらいしか反応できなかった。

 おれにはまったく興味のない話だからだ。


 おれの薄い反応に安藤は気づいたようだ。


 「つまり、アンドリューの人格が安藤の人格を上書き消去してしまったら、安藤が関心を持っていたことに対する感情も上書きで消えてしまうんです。

 今話したように、僕には趣味がありますから、安藤の人格を乗っ取ったわけでも、上書き消去をしたわけでもないと思います」


 安藤は趣味の話題を広げずに意見をまとめた。

 また、気を遣わせてしまった。


 「そう考えるのが一番理屈に合うのかな。

 理屈って言っても、科学的思考とは違うファンタジー思考だがな」


 「仕方ありません。転生のことを科学的思考で検証するなんて、キリストの存在を宇宙理論で証明するようなものです」


 「そうだな。こんなくよくよした考えはやめるよ。前向きなことを考えなくちゃな」


 「そうですね。それでこそのあなたです」


 理論的な面では、やっぱり安藤は頼りになる。


 普通の人生を送ることに罪悪感を抱き始めたおれを理論的に助けてくれた。

 それがファンタジー思考であったとしてもだ。

 ただ、せっかく救われたのだが、おれは「普通の生活」については再考することにした。

 もともとの勇真比呂が生きているのか、死んでいるのかはわからないが、何食わぬ顔して勇真比呂として生きるのは何か違うのではと思い始めたのだ。

 こうして、転生者として生きることについて、それなりの生き方を志向するべきだと思うようになったのだ。

 とは言うものの、今考え始めたところなので、具体的な考えがあるわけではないのだが。


 「あ、でも、そうだ」

 おれはあることに思いついた。


 「どうかしましたか?」

 安藤は不思議そうに尋ねた。

 暗い顔をしていたおれが、急に明るくなって唐突に話題を変えたからだ。


 「おれは念のため、ほかの仲間探しを始めようと思う。

 おれとアンドリューがこの世界に転生していたんだ。

 ほかの3人も転生している可能性はある。

 もし、そうだとしたら、彼らも心細い思いをしているかもしれない。

 高校生のおれじゃ、たいしたことはできないかもしれないが、それでも何か力になれるなら、そうしたいんだ」


 安藤は再びうなずいた。

 「そうですね。それは僕も同じ考えです。

 僕はこの世界に転生したとき、あまりの孤独感で押しつぶされそうでした。

 もし、ほかの3人も魔王の魔法で転生してしまっているのなら、彼らも心細い思いをしているでしょう。

 彼らに勇者や僕がいることを知らせてあげられたら、きっと心強いことだと思います」


 「手伝ってくれるか?」


 安藤は力強くうなずいた。「もちろんです」


 「……じゃあ、さっそくだけど……」

 安藤は目をぱちくりとさせた。「何です?」


 「彼らを探す、いいアイデアはない?」

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