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「やーっと西の大陸だよ。殆ど人間に見えるけど、鑑定してみると本当に違う種族が多いな…猫耳族もいるね、ステータスもスキルも普通だ。」
「えっと…ステラさんが特別なんだと思います。」
「だろうね。あんなのが沢山いたら世界とっくに滅んでるよ。」
「馬車の手続きは済ませてあります。こちらへどうぞ。」
「ありがと、そういえば口調は貴族風にした方がいいかな?」
「ぐれている設定なのでいいです。それに、今更口調を変えられると困ります。」
「困るってなにが?」
「えっと…本物の貴族に見えてしまうので、指摘しにくくなるというか、今更口調変えられても猫被り感が凄くて、見ていて落ち着かないというか…」
「お、言うねー」
「ごめんなさい。」
「ではキトウ、あなたといる時だけレディ風に話して差し上げましょうか?」
「やめてください…」
「あはは!ごめんごめん。違和感凄かった?」
「違和感なくて怖かったです。」
「そう?私は騙すのも演じるのもそれなりに得意からね。キトウも私に騙されない様に気を付けるんだよ?」
「は、はい…」
貴族の服装を着ているだけで周りの人達は道を開けてくれる。
道を開けてくれるのは有難いんだけどかなり注目されているな…貴族らしく振舞うってどうやるんだろう。
「知り合いでもいたんですか?」
「いや、ずっと見ている人がいるから笑い掛けたんだよ。」
「貴族としてそこは無視する場面なんですが…」
「あれ?そうなの?まぁそんなに硬くならないでよ。余裕の笑みっていうのも中々貴族らしい傲慢さがある
と思うよ。」
「あまり笑顔で人を誘惑しないでくださいね。貴族の令嬢は攫われて節操に問題あると判断されたらもう貴族社会では生きていけません、例え侯爵の跡継ぎだとしても大きな問題点になります。」
「誘惑…か、確かに貴族がかよわそうなメイド一人しか連れずに出歩いて、しかも警戒心一切なく笑っているなんて、攫われない方がおかしいよね。でもま、そういう時はキトウがスキルでその人の罪悪感を煽り立ててくれればいいよ。」
「えっと、私が何とかする前提なんですか?」
「そうだよ。キトウの攻撃力は150もあるんだよ?その辺のチンピラなんていちころだよ。」
「150程度でそんな期待しないでください…それに私の素早さ70しかないんですよ?お嬢様が攫われる様な事があったらそもそも交渉する前に走って追いつかない可能性の方が高いです。」
「うん。素早さに関してはキトウより私の方が早いね。追いかけっこなら負けないよ!今からやってみ
る?」
「やめてください…」
「おい、お前。」
「あれ?ナンパ?」
「お嬢様!この人は第三王子ですよ!」
「え?第三王子?いやー、こんな街中で散歩なんて相当暇なんだね…あ、それとも家出?」
「見かけない顔だが、キトウが付いているという事はお前はハイロ卿の跡継ぎか?」
「うん。そうだよ。称えてくれていいよ。あ、君は王子だったね。ごめんごめん、可愛いキトウの顔に免じて不敬罪は許して。」
「辺境伯の教育は厳しい物だと聞いたが、随分ぞんざいな態度だな。」
「そりゃねー、王は貴族を守る約束をしているんでしょ?なのに人が奇襲受けて、助けてないで内戦でドンパチして、結局父さんや領民含めて死にまくって全て終わった後にようやく気付くなんて、約束破りの人達に礼儀について言われてもねー」
そしたら王子の横に立っていた騎士が顔を真っ赤にして前に出た。
「辺境伯、これ以上言うのは本当に不敬罪に問われるぞ?」
「おい、護衛!お前こそ失礼だぞ!貴族相手に対する礼儀もないのか?」
「す、すみません。」
「お嬢様、王子相手に煽らないでください!ごめんなさいミカ王子、今のお嬢様はあまり機嫌がよくなくて…」
キトウがさり気なく第三王子の名前を出した。
資料に書いてあったけど、私が忘れたのかと思ったのかもしれない。
でも本当は相手の素を見たいから煽っただけなんだよな…
「そうそう、機嫌悪いの。あなたの名前がミカだという事はわかっているけど、それでも初対面の人に声を掛けるならまず自分から名乗るのが礼儀でしょ?向こうが知ってるだろうからと名乗らないのはマナー違反だよ。あーあ、印象最悪!早く自己紹介しないと私の心の中の好感度が毎秒5減るよ?」
「えっと…後半何言ってるかよくわからないが、自己紹介する。俺の名前はミカ、第三王子をしている。君の父親を守れなかったのをここで詫びる。本当に済まない。」
そして深々とお辞儀された。
面倒ないざこざを避ける為にやっているのかそれとも本心から謝ってるかわからないが、プライドが高過ぎて交渉事に問題起こす奴ではないらしい。
「謝るなら死んだ領民にも謝って欲しいな。そして謝るよりも行動で示して欲しいよ。」
「行動で…か、何が望みだ?」
「えー?わかんないのー?今領地はほぼ立ち直れない程ダメージ受けてるのに?仕方ないな…選択肢をあげるから考えてみて。お金、人材、食べ物、新しい土地…どれだと思う?」
「…食べ物か?」
「はずれー!最初の方は本当に大変だったけど、周りの貴族の援護があったし、そもそも戦争で領民は殆ど死んだから何とかなったんだ。その後すぐに農地を増やして、放置された死体とかもいい感じに家畜の餌や肥料になったから、今はぜんぜん困ってないのでしたー!いやー!人の血で育った作物とか人の肉を食って育った動物の肉は本当に凄く美味しいんだよ?なんていうか…人の上に立つ食事って感じがして最高なんだよ!ミカも試しに食べてみる?涙が止まらない美味しさだよー!」
「じゃあ…人材か?」
「はい、これもはずれ。人材ならここにキトウがいるじゃん!ミカの目ってもしかして節穴だったりする?ほらほらミカ、キトウがいつも以上に涙目だよ?泣いちゃう前に謝ってよ!」
「お嬢様、さり気なく嘘をつかないでください。」
「えへへ。」
「全部どうしようもなくなったから…新しい土地か?」
「うーん、惜しいね…でも、こんなに広い領地手放したくないなー、でもこれ以上増やしても管理しきれないし…だから却下!」
「…金か?」
「大当たりー!貴族としてお金は当然のステータスだよね!…っと言いたいけどはずれ。最初から選択肢に答えなんてありませんでした!だからミカが自分で考えてみてね!…これでまたはずれたらクーデターでも起こしちゃおっかなー?」
この場にいる全員の顔が真っ蒼になった。
隣に立つキトウが必死に私に考え直すように説得している。
ミカは真剣に何十分も考えたけど、最終的に答えが見つからなかった。
「…教えてくれないか?俺にできる事なら何でもする。」
「ヒントをあげるよ。辺境伯の信用を取り戻す程の事だよ?ミカ一人じゃできない程の事だから、皆にも手伝ってもらう必要があるんだ。」
「頼む!俺も全力を尽くすし出来る限り家族にも手伝ってもらう!だからクーデターは起こさないでくれ!クーデターが起きたらまた沢山の民や貴族…守るべき皆が死ぬ。もう、お前達に起きた悲劇を繰り返したくないんだ!」
「お、正解。」
「……え?何が…」
「だから、一人でも多くの民を守れるように死んだ父さんや皆の分まで頑張って欲しいって言いたかっただけだよ。」
「…済まない。」
「だーかーらー!謝るんじゃなくて行動!」
「そうじゃない。お前の事を悪く思っていた事に謝ってるんだ。心配しなくても全力を尽くして国も民も守る。もう二度と悲劇を繰り返さないとこの剣に誓おう。」
そしてミカは腰に掛けてる剣を掲げた。
いきなり剣を抜かれるのはやっぱり怖いけど、見た感じこれがこの世界の約束の交わし方の一つらしい。一つはっきりしたのはミカの性格は真っ直ぐ過ぎて交渉事に向いてない事だ。
与えられた選択肢を素直に一つずつ当てていき、自分で考えろと言ったら遠回しに聞いて情報を探ったり、護衛に情報の再確認を行わずに黙々と数十分も自分一人で考え、挙句の果てに直接聞いてくる。
一人じゃどうにもならない事だと言ったら、内容も聞かずに何とかすると言い出す。被害者の前で悲劇を繰り返したくないと言い出す。
正義感が強すぎ、思慮も足りない、反省はしても周りがまるで見えていない、理想主義が過ぎる。
なんだか話していて目がチカチカする。こういうキャラは童話で充分だから…ミカが王様になるのならちゃんと捻くれた補佐や大臣がいないと国が亡ぶだろう。
「ふぁあ…」
「なんだ?」
「あ、ごめん、欠伸出ちゃった。」
「まぁ、聞くだけであくびが出ちゃった精神論だけど、ミカみたいにきれい事ばかり言う奴の方がトップに向いているのかもね。精々信用を取り戻せるように頑張れば?私も気が向いたら社交界に出るから。次は何処かのパーティーで会おうね。」
「お、おい…」
「行こっか、キトウ。」
「はい。お嬢様。」
そのまま馬車に乗り込んだ。
後ろから「言い忘れたがキトウ一人に仕事任せ過ぎだ!ちゃんと自分でもやれ!」と聞こえた。
キトウ一人に仕事任せ過ぎなのは同感だが聞き流す事にした、だって仕事するなんてめんどくさいもん。
「ま、ぶっちゃけ状況なんて全然知らないけど、当事者っぽく演じれたかな。」
「はい。なんとなくミカ王子にも悪くない印象を与えたと思います。」
「あ、ちょっと馬車止めてくれる?」
「え?…はい。」
路地裏で子供達に虐められている男の子に走って行った。
ミカ
正義感の強い第三王子。