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ステラとヒトグイに見送られた後、キトウが説明を始めた。
「これは連絡用の端末です。」
「ケータイ?この世界でもあるんだ…」
「ここ数年間、王室の研究部門の転生者が作った物です。無属性の魔力で動いている魔道具なんだけど…開発されたばかりで王族と一部の貴族でしか使われていない物です。だからあまり周りに見せびらかさないでください。そして、これ…」
「ん?あぁ、貴族やハイロに関する資料ね。貴族社会は思っているのと同じ感じか…へぇ、家って結構軍が集まってるんだね。辺境伯だとしてもこの人数は凄いよ。」
「はい、王国が今帝国が臨戦態勢を取っていると聞いて、守備を固めているんです。だから約7割の戦力を領地に集中させています。」
「七割?冗談でしょ?内乱とかどうすんの?それに私達が反旗上げたらほぼ確実に壊滅するじゃん。」
「それ程帝国の動きが怖いそうです…」
「それで?そんなにうちらに力入っているのに誰も爵位を受け継いだハイロの子供に会おうとしないの?」
「父親が死んで癇癪気味になって、その状態の子を変に刺激して内戦を起こさないようにしようとしているみたい。内戦が起きている間に帝国の奇襲に会って国が滅びなかったのはハイロ様のお陰だし、その時皆内戦で誰も助ける余裕がなかったのも事実だし、罪悪感含めて大変な時期だけど仕事はちゃんとこなしているし、落ち着くまでそっとしておいてあげようっていうのが皆の考えです。」
「触らぬ神に祟りなしって事ね…で、流石に今回の件は参加しないとまずいと?」
「はい…ハイロ様が生きている間に参加すると公言していたみたいで…流石にお嬢様が行く気ないから無理とは言えません。」
「帝国に動きがあるから無理とか言えないの?」
「ここ最近これといった動きがないので、突然そんな事を言ったら絶対に調べられます。下手したら反乱の準備をしていると勘繰られるかも…それに、皆も流石にこれ以上一回も顔を見せない人を信用するのも難しくなってきました。」
「確かにそれだけで押し通すのは時間の問題だよね…顔を出すのは明日だよね?私も適当に嘘をつくから、フォローよろしく。」
「あの…出来れば先に打ち合わせしませんか?」
「勿論一部は先に言っておくけど、いざという時に嘘つくから、その時はちゃんと合わせてね。」
「はい。」
「じゃあまず、帝国の奇襲で家族と領民を失った私は人間不信になったけど、王国の皆が私の事を考えてそっとしておいてくれて、キトウが毎日仕事の合間にニートして不貞腐れる私を慰めてくれて、そろそろニートにも飽きた私は立ち直る気になったから、来ちゃいました貴族パーティー!…って感じでいい?」
「はい。そして、貴族作法について、ある程度ミスしてもここ一年あまり他人と交流した事ないからって言えばいいです。奇襲が始まる前でも顔を出さなかった理由は父親が跡継ぎとしてしっかり鍛えていたから、殆ど家から出してもらえなかったと伝えています。」
「生まれながらにニート設定ね。嫌いじゃないよ。」
「えっと…すみません。」
「ピアノとダンスならできるし、書類に書いてあった作法も全部暗記したから問題ないよ。それに貴族がテイマーやっている事はそれなりにあるみたいだし、これならユウリとラファエルもパーティーに参加しても問題ないみたいだね。」
「えっと…出来れば魔物を会場に連れて行くのは場がざわつくからやめて欲しいです…」
「そう?じゃあユウリとラファエルは家で留守番でいい?」
「わかったよ。」
「わかりました。」
「点検は十日後になります。それまでに船着き場に着くのに三日間、船着き場から馬車で屋敷に着くのに二日間、屋敷から王城の会場に着くのに三日間掛かります。」
「そして終わったら冒険者ギルドに行けると?」
「そういえばお嬢様は冒険者になるんですよね、そもそも貴族はあまり冒険者にならないというか…」
「あまりならないって事は冒険者になる人もいるの?」
「はい。基本欲しい物は人から買ったり、行きたい場所があったら人を雇ったり、使用人を連れて行ったりするから、危険を顧みずに冒険者になろうとしている人はほぼいません。ですが例外として、自分の腕っ節に自信があったり、プライドがあって守られるのが嫌な貴族が一人で冒険者になったりします。その場合でもちゃんとした武器や防具、護身用の魔道具を持っていたりします。」
「うん、まぁそうだろうね。でも屋敷の物に頼り切るなんて嫌だし、自分の物は自分で作るよ。」
「貴族の身分は隠して行くんですか?」
「隠しはしないよ。わざわざ言い出す事もないけどね。」
「…とりあえず着替えを探します。船にピアノがおいてありますので、着替えの用意をしている間にピアノの練習をしていてくれますか?」
「うん。任せてよ。」
「できれば点検前に貴族のふりをしていてくれますか?そしたら当日にはぎこちない動きも少なくなると思います。」
「キトウは心配性だねー」
気楽に引き受けたけどこの後が大変だった。
これでもかという程一日何回も着せ替えられて、着心地の悪い服を着せられて、作法やダンスに僅か数ミリの動きのミスがあったら指摘され、何事も完璧を要求された。
「お嬢様は本当に貴族よりも貴族らしい動きをしますね。見ていて惚れぼれする程完璧で自然な動きです。」
「十秒毎に指摘して来るのによく言うよ。」
「ピアノを弾いている時なんて指摘する所がなくて困ります。」
「キトウは他人を指摘しないと困る性格してるんだ。いい趣味してるね。」
「えっと…ごめんなさい。でも、何かしら指摘しないといる意味ない様な気がして…」
「どうせ世間知らずの設定なんだから別にこんなに厳しくならなくてもいいんじゃないの?」
「外に出さずに屋敷の中でずっと訓練してきた設定なんだから、これくらい完璧な作法の方が疑われません。」
「…あーあ、めんどくさ」
「笑顔で文句言わないでください。」
「はいはい。」
そしてこのまま大陸に着いた。