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ある日ステラに地下室に案内された。
「この辺の本は全部読んでいいぞ。」
「…ここなんて図書館?」
「図書館ではない。確かに多いが全部私が書いた本だ。」
「ステラってもしかして物凄いニート?」
「いや、途轍もないニートだ。」
「ニートである事は否定しないんだね。」
「偶に狩に出るけど、基本家に籠っている。私が手当たり次第好奇心を満たす為に動くと大変な事になる自覚はあるからね。」
「そうだね。やっぱりステラはニートでいいと思う。」
「君も本気で動くと碌な事にならないだろうね。でも、君は優しいし、分を弁えるから何だかんだ言って大丈夫だろう。だから心配はしてないよ。」
「何か決め付けてない?」
「私は人を見る目に自信がある。そして自分を信じている。それだけだ。」
「はぁ…」
「どうした?」
「異世界に転生して最初に会う人族がこんなにキャラが濃いなんて、先が思いやられるな…」
「私はこんな特徴的な客が来て、これから何か一波乱ありそうでワクワクしているよ。」
「私知ってる。一波乱ありそうでワクワクする奴にまともな奴はいないんだ。」
「でも君もそのまともじゃない奴の枠に入るんじゃないか?」
「そんな事ないよー!ステラと比べたらまともな常識人だって......あれ?この本なんかさっき見たのと違くない?」
「それは自分の姿を変える本だ。飽きっぽい性格でな、しょっちゅう自分のカバーや厚みを変えている。」
「ステラが書いた本なんだよね?意思があるの?」
「まぁね。」
「…とりあえずおすすめの本だけ見せてくれない?」
魔法の本質、世界の歴史、ダンジョンの歴史、星の観測データ、スキルと魂の関係…他にも沢山積み重ねて来たけどこのまま読み続けていたら二度とここから出れない気がするからやめておいた。
「今日は色々あって疲れたな…たぶんいつもより深く眠りにつくと思う。ユキも修行で疲れただろう?私は先に寝るから、静かに行動してね。」
「…はーい。」
ステラは自分がいつもより深く眠りにつくと言って静かに行動しろと言って来た。
更に寝間着のボタンを幾つか外して寝た…これって私が吸血鬼だと知っていて、しかも吸血本能が耐えられないのを知ったからだよな…
えっと、襲えって事?いいの?ステラがベッドに着いた後私はユウリとラファエルを相互に見た。
「…ユウリ、一応目を閉じておいてくれる?」
「……わかった。」
起きない程ってどれくらいだろう…普通首筋噛まれたら誰でも起きるよね?
とりあえずステラの寝間着を半分脱がせた後、邪魔な下着をずらして首筋を噛んだ。
「…」
ステラは間違いなく起きている。
呼吸のリズムのズレでわかる。
それでも抵抗せずに吸わせてくれるならこのまま吸わせてもらおう。
「…美味しい。」
味は薄いけど美味しい。
前世で人の血を口にした覚えがあるけど間違ってもこんな味じゃなかった。
思い出補正とかじゃない、全然違う物だ。
そりゃ人間じゃないから違うだろうけど、ひょっとしたら別の要素が原因で味が変わるのかもしれない。
翌日メイドが船を乗ってやって来た。ステラと挨拶しているから知り合いなんだろう。
「アルラウネのキトウだ。彼女が君を西の大陸まで送ってくれるよ。」
「キトウです、よろしくお願いします。」
「私はユキだよ。よろしくねキトウ。アルラウネって事は君は植物なの?」
「はい…えっと、ちなみに私はステラさんに作られた訳じゃなくて、助けてくれた恩人です。」
名称:キトウ
種族:アウラウネ
職業:メイド
年齢:5歳
状態異常:なし
HP:120/120
MP:150/150
攻撃力:150
魔力:200
防御力:100
素早さ:70
魔法:土属性、光属性
スキル:感情伝播、植物急速成長
称号:親殺し、同族殺し
「ふーん、通りでステータスがぱっとしない訳だね。一つ気になるけど、同族殺した事あるの?」
「…はい。」
「キトウのスキルに植物急速成長っていうのがあるだろ?キトウが生まれたばかりの頃スキルをコントロール出来ずに周りの同族を皆老死させたんだ。そのせいですぐに故郷から捨てられて、色々あって私の所に来て知り合いになった。」
「気が合うね、私も前世では親を殺した事あるんだ。」
「え?」
「お、私もだぞ。」
「あれ?ステラも転生者なの?」
「あぁ、そうだ。」
「ふーん…まぁ、そういう訳で、同族殺しとか親殺しとかキトウが思っていた程珍しくもないし、そんなに引き摺らないで、楽しく生きよ?ね?」
「はい。ありがとうございます。」
「で、もう一つ気になるんだけど、キトウはここに住んでないよね?誰のメイドしてんの?」
「それはこれから説明するよ。な、キトウ。」
「は…はい。あの、一週間でいいので私の主人になってくれますか?」
「誰が?」
「えっと…その…ユキさんが」
「なぜ?」
「私、今迄メイドの身分を偽って王国の貴族社会から色んな情報を集めていたんです。でも最近点検ついでのパーティーみたいな物があって…自分の主人も同行しなければならないんです。」
「仕えている者達がお互いの使用人の質の良さを周りに見せる競技みたいなものだね。使用人が優れていたら王城に雇われる場合もある。いい使用人を残す為にわざと仕事を失敗させたり、王城にスパイとして使用人を入れようとする貴族もいるな。」
「今迄はどうやって誤魔化していたの?」
「いや、キトウにとっては今回が初めてらしいぞ?」
「ハイロ辺境伯に仕えるメイドとして暮らしていました。」
「じゃあ私はその辺境伯の一人娘とでも言っておけばいいのかな?」
「はい。」
「そのハイロ辺境伯って本当にいた人?」
「はい。数年前国が内戦を起こしていた時に帝国から奇襲され、ほぼ壊滅状態まで追いやられた時にヒトグイが帝国軍王国軍関係なく全員食いつくした領土の領主です。」
「で、王国はその人が死んだとは知らない状態だと?」
「いえ、知っています。ただ、私はそのハイロの娘の面倒を見ていると伝えているんです。」
「もしかして、引き受けたら領土とか丸々私の物?」
「えっと…ずっと主人として振舞ってくれるのならそれでもいいけど…」
「領民とかいるの?」
「帝国の奇襲でほぼ半壊の状態にされてかなり危ない環境だと思われているから、領民よりも軍隊が多い感じです…それに、今は領民というより…」
「元いた領民は全員ヒトグイに食われたからな。殆どの人が行き場の無くした荒くれ者や無職で家を追い出された奴ばかりで、正式な領民は一人もいない。」
「無法地帯って感じ?」
「そうだな。」
「すみません…」
「他にお手伝いさんいないの?」
「私だけです。」
「なんでこんなややこしい事してんの?ヒトグイで敵味方関係なく全員食い尽くすなり王国を騙してまでメイドに拘る必要があるの?」
「王国が私の正体を突き止めようとしているんだよ。だからそれの妨害をキトウに頼んでいるんだ。」
「それこそ辺境伯の一人娘を名乗ればいいじゃん。なぜにメイド?」
「ハイロは人間だぞ?娘がアルラウネの訳ないじゃないか。」
「…それもそうだね。でも見た目は何処からどう見ても人間じゃん。精々耳元や手足にホオズキが巻きついているくらい。」
「鑑定されたらすぐばれるだろ?」
「それもそうだね。」
「自分を雇ってくれる貴族を探すのは?」
「駄目だ。影響力が小さすぎる。情報収集だけじゃなく情報操作もしなければならない。権限だってある程度ないといざという時の無理出しもできない。」
「つまり私は傀儡としてそこにいてくれと?」
「傀儡じゃないよ。友達としての手助けを求めているんだ。それに、一週間誤魔化す手伝いをしてくれるか、領土や権力を引き換えに口裏合わせてくれるか…言う程酷くもないだろ?」
「そもそもステラの魔法でなんとかならないの?」
「私は極力自分から直接世界に干渉したくないんだよ。私も一度何かに取り組むとブレーキが効かないタイプだという自覚があるからね。自分でも自分が何を仕出かすかわからないんだ。だから何かあったら基本周りに頼る事にしている。」
「何かやばい事でもしたの?」
「数千年前に行き過ぎた正当防衛で大陸を二つ程沈めて、結果世界樹を枯らしかけた。今は反省期間だ。」
「うん。もうステラはニートのままでいいよ。ついでにその反省期間も終わらなくていいから。」
「じゃあ引き受けてくれるか?」
「辺境伯の跡継ぎの事?必要な時に顔を出せばいいんだよね?」
「あぁ、普段は冒険者として過ごしても問題ない。書類仕事、重要性の低い外交、家事、管理含めてキトウが何とかしてくれる。」
「見える…見えるぞ…キトウが過労死する未来が見えるぞ。」
「そんなに見くびらないでやれ、キトウはかなり有能だ。」
「本当に大丈夫なの?」
「えっと…本当に仕事がかなり大変だけど、皆が優しくしてくれるから何とかなってます。」
「キトウは感情伝播の使い手だ。自分の感情をコントロールする事で他人の感情や思考もコントロールできる。皆がキトウに優しくしているのは八割がこのスキルのお陰だ。」
「残りの二割は?」
「本心から心配してるんじゃないか?かよわい見た目とこの困り顔は正義感が強い人達を味方に付けるし。実際に状況が状況で大変な事に間違いはないからな。」
「私に貴族の真似事なんてできるかな…」
「全力でフォローします!」
「お、気合入ってるね!じゃあ引き受けるよ。屋敷までお願いね、キトウ。」
「はい。」
キトウ
自身のスキルが原因で故郷を追い出されたアウラウネ。ステラに助けられた。