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雷に当たったのは事実だけど、孤島に落ちたとかいっそ噓であって欲しかった。
それでも海の真ん中にある孤島、それもまともな植物の上に着陸できたのは不幸中の幸いというよりもスキルの超幸運が関係しているのかもしれない。
「リンゴ剝いたぞ、食べるかい?」
「…なんでウサギの形してんの?」
「可愛いだろ?趣味なんだ。」
「ステラの趣味って碌なもんないと思ってたけど、こういう普通の趣味もあるんだね。感動的だよ。」
「人の趣味で感動するなんて変わった感性を持っているね。」
食人花やら奇声目玉を育ててるステラにだけは言われたくないな…
「ところで、これからどうするんだ?この孤島から出ていく前に本でも読んでいくかい?」
「普通ここは食費とか賠償金とか先払わなきゃいけないんじゃないの?」
「孤島で金を使う機会はないよ。それにここ数百年客人なんて数える程しか来なかったから、逆に君みたいな客人は新鮮なんだ。私にとっては面白い出来事の一環に過ぎないからね、気にしなくていいよ。」
「客人が来なかったというより、植物に食われたんじゃないの?」
「察しがいいね。嫌いじゃないよ。」
「もう嫌だこの人怖い。」
「私も人とは少し変わっている自覚がある。でも大丈夫だよ、私は君に敵意を抱いていない。実験体にしようかは少し悩んだが…悩んだ時はやめる事にしてるんだ。」
ステラは静かに微笑んだ。
超幸運があって本当によかった。
なかったらたぶんもう目覚める事はないと思う。
「カーバンクルとスライムの女王を眷属にしている子なんて珍しいにも程があるからね。何処に行くか決まるまでここに居てもいいよ。」
「…うん。ありがと。」
ぶっちゃけ今すぐ逃げ出したいけどまた雷に当たったら今度はちゃんと着陸できるか不安だから我慢する。
夜寝る前に外のヒトグイが元気よく奇声を上げていても我慢する。
そして翌日、魔力の流れに違和感を感じて起きたらステラが家にいなかった。
庭に出るとステラとヒトグイがが何かヤバそうな儀式を行っていた。
「ぎゅ!えし!ぎゅ!ぎし!(太!陽!サン!シャイン!)」
「何してんの?」
「魔力の流れをコントロールする練習だよ。」
ステラはそう言って両手で大気中の魔力を一点に集中させ、それを空中に打ち上げ、空に浮かんでいた雲を一つ残らず消しさった。
「空を飛んでる鳥とかに影響はないんだ…」
「勿論だよ。そういう風に調整しているからね。今度は雨雲を一点に集めるよ、見てみなさい。」
今度は雨雲が何処からともなく集まって来た。この人本当に何者だよ…
「がががががあっががががあああがが!びゃーーーーー!(圧縮凝縮集めるコンデンス来たきた来たきた!雨だーーーーーー!)」
「これは近くの雨雲の魔力を操ってるんだ。そうすると雨雲も一緒に吸い寄せられる。」
「近くって…雲はさっき全部消したばっかじゃん。」
「消してはいないよ。少し遠のかせただけだ。まだ操れる範囲にはある。」
「これって自然現象じゃなくてステラがやってたんだね…」
「驚き…」
「つまり今回が初めてじゃないの?」
「うん。毎日この時間帯に霧島の霧と雲が数秒消えるんだ。魔力の移動は感じてたけど、間違っても誰かが意図的にやっていた事だとは思わなかったよ。」
「私達スライムにも解明されてない自然現象の一つとして捉えていたわ。」
「おや?霧島にも届いていたのかい?これは失礼したね、少し範囲が広すぎたか。で、どうだいユキ、試してみるかい?」
「…いや、冷静に考えて無理でしょ。」
「無理じゃないと思う、ユキは魔力8530あるし、魔法強化もあるから…」
「カーバンクルもそう言ってるんだ、やってみなさい。大丈夫、魔力が暴走しても私がなんとかするよ。」
「…ステラの魔力ってどんだけあるの?」
「ん?カンストとだけ言わせてもらおうかな。」
「だよね。」
そのままカーバンクルとラファエルと一緒に魔力コントロールの特訓を始めた。
「ユキの魔力は綺麗だね。ヒトグイもそう思うだろう?」
「ぎゅう!(うん!)」
「ステラステラ、そろそろ本当にMP切れそうなんだけど…これいつまで続けるの?」
「色と形が時間の流れに連れ変わっていく掴みどころがない印象を与えるが、しっかりとした芯を持っている。」
「ぎしぎしぐう。(本当に不思議だよね。)」
「ユウリとラファエルがMP切れで倒れてるんだけど。私もそろそろ駄目なんだけど…」
「強く眩しく見えれば弱く儚げな風にも見える。」
「聞いてないよね…」
「ぎみゅみょきゅ……きょ!(ごめんね、主は偶に人の話を聞かないんだ……あ!)」
「お、倒れてしまったか。では実験体にでもなっても」
「わー!起きた!起きたから!…今内心で舌打ちしてなかった?」
「ぎゅう。(してただろうね。)」
「なんの事だかよくわからんが、進歩したじゃないか、ユキ。元から素質はあったが、ここまでとは思わなかったぞ。」
「ステラの鬼。」
「ひゅい。(同感。)」
「参ったよ。ユキは鬼のような才能だな。」
「偶には人の話聞こうか?」
「ひひゅう…(それはもう諦めてる…)」
「私は鬼じゃなくて猫人族だ。二度も言わせるな。」
「心が鬼。」
「鬼が実在していたら失礼だとは思わないか?」
「ひょ。(確かに。)」
「自分の性格に難ありと分かってたんだね。」
「変える気もないがな。」
「うん。諦めてる。」
「にょー…(諦めないでよ…)」
「ユキはこれからどう暮らしたい?貴族として暮らすか?それとも魔法を極めたいか?」
「全然宛がない。」
「そうか…なら冒険者なんてどうだ?」
「なにそれ?」
「世界を旅して色んな人と会ったり、色んな事を知る事が出来る職だ。そこから自分がやりたい事を探してもいいぞ。」
「ふーん…じゃあ冒険者になろうかな。」
「冒険者になる前に少し常識を教えてあげよう。魔道具についてだ。」
「魔道具?」
「道具を媒介に魔法を注いで、必要になったら魔法を使える道具の事だ。例えばこのランプの中の石には火の魔法が使われている。ランプの台座を回すのをトリガーにして、照明になる。ラファエルが持ってる水晶も魔道具だな。」
「あれ?ラファエルも魔道具持ってるの?」
「はい。島にいた頃はこの水晶の魔道具で他の大陸のスライムと連絡を取っていました。」
「その魔道具は自分で作ったの?」
「はい。外の情報にも興味があったので。」
「さっすが私のラファエル!折角だから魔道具の作り方を私にも教えてよ!」
「魔道具に関してはカーバンクルの方が詳しいかと。」
「あれ?そうなの?」
「まぁ、作り方はわかるけど…魔道具は邪道だと思うな。神聖な魔法を道具にするなんてどうかしてるよ。」
「私は魔法を一つの知識としか捉えてないが…カーバンクルはそう思っているのか。でも魔道具を持っていると何かと便利だよ。不意打ち防止にもなれる。寝ている時や食事をしている時などはどうしても気が緩んでしまう。そんな時まで気を引き締めるのは大変だろ?そういう時に役に立つと思うよ。」
「…そんなに頻繁に狙われる事はないからわからないけど…確かにそうかもしれないね。」
「備えあれば憂いなしという言葉があってな、完全に気を緩めとは言わないが、色んな事態に対して備える事は悪い事じゃないと思うよ。魔道具を作る基礎は私が教えてあげよう。それ以上は外の世界を見て回った方が面白味もあると思うよ。」
「ステラも教えてくれるんだ、ありがと。ところでさ…」
「何だい?」
「ステラって何歳?外見は二十代前半か、二十歳未満かに見えるけど」
「言うと思うか?」
「いや、ごめん。」