3
「う…うーん…」
「起きたか。」
「…見間違いじゃなければいい歳して猫耳付けてる痛い人が見えるんだけど。」
「目に問題はないようだな。猫の獣人は初めてか?」
「猫の獣人?」
「獣人の中でも猫人族に属する種族だよ。耳も尻尾も生まれつき付いてるんだ。」
「ごめん。そんな生まれた時点で痛い種族がいるなんて知らなかった。」
「その発言…君は転生者だね?」
「なんでそう思うの?」
「知らない特徴の種族に対して何故その恰好と聞く以前に痛い人呼ばわりしているんだ、頭に何かしらの先入観があると考えた方が自然だろう?これで転生者じゃないというなら今この場で解体してあげたい程興味深いという結論に至るが…」
「わー!待って!ストップストップ!ごめん!痛いとか言ってごめん!」
「問題はそっちではない。君が転生者かどうかだ。」
「転生者です!間違いありません!今決めました!」
そしたら猫人族の女性はユキの首筋に手を沿えた。
「表面上慌てているふりをして内面は酷く落ち着いているね。私は君に害をなさないと分かっていた上でわざと慌てたふりをしているか、それとも君と君の眷属がいれば私がどうしようと返り討ちにできると考えているのか、どっちなのか教えてくれるかい?」
「ねぇユウリ、この世界の人って皆こんななの?」
「いや、この人は相当珍しいケースだと思うよ。」
「やっぱり?よかった。皆こんなだと気が気じゃないよ。」
「助けてやった恩人にこんなとはまた失礼な転生者もいたものだね。私の名前はステラ、深海の魔女と呼ばれている。君は?」
「ユキだよ。」
「名前は鑑定の結果と同じか…追われているのから鑑定の結果を偽造しているのかと思っていたが、違うみたいだな。」
「……え?鑑定の結果を偽造?」
「鑑定の結果を偽るスキルか道具でも持ってるんじゃないのか?」
「そんな訳ないじゃん。そもそもなんでそんな前提ができるのさ!」
「さぁ?なんでだと思う?」
「うー…」
「まぁそう怒らないでくれ。君が飛んで来たのかと思ったんだよ。」
「なんで?」
「嵐が過ぎたと思いきや君達が私の家の庭にクレーターを作っていたからね、雷にでも落とされたかと思ったんだよ。」
「雷に当たってたら死んでるよ普通。」
「それ含めて君がステータスを偽っているんじゃないかと思ったんだ。思い違いをしてすまないね。」
「ほんとだよー。先入観云々言ってる癖に決め付けで話を進めるなんて、人の事言えないじゃん!」
「そうだね。昔よく私をつけ狙う連中が騙して来るからすぐに人を疑ってしまう悪い癖を身に付けてしまったらしい。気を悪くしてしまったなら謝らせてもらうよ。疑ってごめんね、ユキ。お腹は空いてるかい?何か食べる物でも用意するよ。」
「…ステラって怒らないの?」
「君の発言が私の怒りを誘おうとしているのはわかるが、その意図に合わせて怒る必要はないだろう?」
「なんかつれないなー。」
「怒る気がないから怒らないのと君の意図を知ってわざと怒るのとどっちがいい?」
「どっちもいやだ。」
「ここは正直なんだね。」
ステラは曖昧に微笑んだ後、おかゆと小魚をテーブルに置いた。
「私お腹空いてるから肉とかバーガーとか食べたい。」
「お生憎様、ここにそんなものはない。」
「え?なんで?」
「ここは海に浮かぶ孤島でね、私の家と庭しかない。偶に遠出して実験素体の魔物を狩って来るが、どれも既に色んな注射や改造を済ませた後でな…その肉でいいなら出すぞ?」
「そんな肉を弱っている子供に出すなんて鬼だね。」
「いや、猫人族だよ。」
「第一、ここが海に浮かぶ孤島ってどう証明すんの?」
「外に出ればわかるよ。ほら、そっちが出口だ。」
「じゃあちょっと見て来ようかな。」
扉を開けたら唖然とした。確かに周りは色々育てている庭で、その先は見渡す限り海だ。
しかし船も筏もない、ケタケタ笑う植物や自分自身の身体を引き裂きそれを食べて増えるを繰り返している植物がある。
地面に視神経を張る直径1.5メートル目玉が奇声を上げながら地面にゴロゴロ転がっている。
げ、目が合った。
急いで目玉から視線を逸らした先には雲を突き抜ける程高い植物が視界に入った、ジャックと豆の蔓を思い出させる。
色々突っ込みがいがあるけど…異世界ではこれが普通なのか?でも霧の島は普通の植物が殆どだったような…
「ユウリ、ラファエル、この世界でこれって普通なの?」
「島から殆ど出た事ないけど…ここが特別なんだと信じたいね。」
「殆ど聞いた事すらない植物です…強いて言うならそこのクレーターで黒焦げにされた物体は仲間のスライムが言っていた稲という植物だったと推測できます。」
「面白い植物だろ?ちなみに君達はそのクレーターに落ちてたんだ。そこは食用の植物が育てられていたのだが、まぁまた育て直せばいい。」
ユキは急いでクレーターの付近まで走って足元の稲を拾い上げて観察した。
「よかった…本当に普通の稲だ。」
「普通ではない。ちゃんとDNAを弄って最も多く、おいしくなるように組み替えてあるぞ。」
ユキは本気であの異常な植物を食わされていたらどうしようかと思っていた。
そんなユキの気も知れず、ステラは嬉しそうに自分が育てた植物の説明をしている。
「後でリンゴでも剝いてやる、それまでぶらぶらしていてもいいぞ。」
「この辺ぶらぶらしていたら食人花とかに食われそうだな…」
「君達はそんなに弱くないだろ?」
「それって食人花がいるって事?」
「それくらいなら普通にいるぞ。もっと楽しい植物も一杯いるから…あぁ、そうだ、この孤島の一番外側にある植物には気を付けなさい。下手したら身体を乗っ取られてしまう。」
「…家に避難させてください。」
「そうか?じゃあ解体した実験体でも見るか?解体が終わった死体でも観察していて得る物は多いぞ?」
「最初さ」
「なんだ?」
「ここが孤島だと言われた時、絶対に嘘だと思ってた。家の中にはほぼ全ての日用品が揃ってたし、外に歌声が聞こえたから誰かいるのかと思っていた。外に出ればわかると言われた時も、どうせドアを開けた時に幻覚でも見せるんだろうと思ってた。間違っても歌声の正体が直径1.5メートルの目玉が歌ってただけとか考えてなかった。」
「あぁ、変な誤解をさせてしまったね、すまない。でも、結構可愛いだろ?この外見に反して植物なんだ。ほら、ヒトグイ、得意のララバイでも歌ってみなさい。」
「ぎょえ↑が→ぎゃ↑ぎゅ↓いじゃななな↓え↑じゃはー!(とっと↑と→ねや↑がれ↓こんのへへへタ↓レ↑ひゃはー!)」
「うんうん、うまくなってるね。流石に毎日練習しているだけある。」
「確かに泣く子も気絶しそうな声だからある意味ララバイだけどさ…」
「ぎじゃしゃーーーーーーーーーーー!(それってどういう意味ですか!)」
「あぁ、ヒトグイ、この子は少し捻くれててね、素直に人を褒めたりしないんだ。だからさっきのはこの子なりの精一杯の褒め言葉なんだよ。」
「ぎしぇ?がぎゃぎごががっが!(え?そうだったんだ、褒めてくれてありがとう!)」
「褒めてくれてありがとうと言ってるよ。よかったねヒトグイ、初めて外の子と友達になれたね。」
「…」
初めての友達が目玉とかないわー
「き!げげ!(うん!よろしく!)」
「よろしくだってさ。」
「えっと…うん、よろしく。」
ステラ
おっかなチートの猫耳族。昔大罪を犯したから反省中。
ヒトグイ
ステラの庭に育てられた植物。キュートな瞳と心のこもった子守歌が人を恐怖のどん底に突き落とす。