第9話:もう一つの想い
蓮が美樹の話を聞いている同刻………
「蓮くん、がっかりするかな……。いつも二匹で仲良くしてたのに。」
そう加奈は、金魚鉢を泳ぐ金魚に話しかける。
一匹になった金魚に。
今日、加奈と名付けられた金魚は、水に浮かんで動かなくなっていた。
所詮祭の出店ですくった金魚、そう長生きはしない。
「蓮くんなら大丈夫ですから体を休めてください、佐々木さん。」
病室には、委員長がいた。
加奈はまだ、委員長と美樹の名前は覚えていない。
一応ボランティアってことになっている。
委員長は加奈が持っている金魚鉢を取り上げ、布団をかける。
「………ありがとう。委員長。」
「気にしないでください。これが仕事なん……。」
「…………」
「……佐々木さん……今、委員長って………。」
「うん。言ったよ、委員長って……。」
佐々木さんは、淡々と言った。
「!?佐々木さん!記憶、戻ったの?」
佐々木さんは首を横にふる。
「……たまに、記憶が戻るときがあるだけ。」
「待って、今蓮くんにも連絡……。」
「やめて!!……蓮くんには、黙っておいて。」
!?委員長は、佐々木さんの言っている意味がわからなかった。
「どうして!?蓮くん、今まですごい苦しい思いをして……ずっと記憶が戻るよう、努力してきたんだよ?」
「うん。でも私、この病気治療出来ないし、先も長くないから……。」
「えっ…………。」
一気に気が遠くなる一言だった。
………先も長くないから………
「ごめんね、委員長。びっくりしたよね。」
「う、嘘だよね、佐々木さん?」
「………」
無言が答えだった。
「どう………して……」
「そういう病気なの。だから、私がいなくなることで蓮くんを傷つけたくない。」
……佐々木さんは自分の死を自覚して、蓮くんを苦しめないように、自分から遠ざけようとしていた。
「佐々木さん。ちょっと話したいことあるんだけど、いいかな?」
「何?別にいいけど。」
「………私ね、小さいときにお母さんを亡くしてるんだ。」
委員長は、何故この話をしようとしているのかわかっていなかった。
「最初はね、すごく苦しかったんだよ。でも、でもね、私はお母さんがいてくれて、本当によかったと思ってる。」
委員長は、自分が佐々木さんになにを伝えようとしているか、自分でもわからない。
けど、自然に口が動いた。
「そりゃーお母さんとは、喧嘩したりどっか行っちゃえって思ったこともあったよ。
でも、いなくなると、お母さんの存在がどれだけ大きかったかわかったの。
苦しい時は、忘れようともした。
でも忘れられないから、忘れたくないから好きなんだよ。」
ここでようやく、委員長は自分がなにを伝えようとしているのかわかった。自分は、佐々木さんに自分のように後悔をしてほしくないんだと。
お母さんの亡くなった日、私は何も伝えられなかった。
本当は、すっごい好きなことを伝えられなかった。
それで、苦しかった。とても後悔した。
佐々木さんには、私のように後悔なんて絶対してほしくないと思ってこの話をしていた。
「私はお母さんが死んでから、苦しいことから逃げて愛を知らずに生きていくより、苦しかったりする思い出を抱えてでも愛に溢れた今を生きたいと思った。
佐々木さんはいいの?
自分から蓮くんを遠ざけるってことは、蓮くんへの想いを失うってことだよ?
佐々木さんは、蓮くん嫌いになった?」
「好きだよ!!」
即答だった。
「蓮くんへの想いは、誰にも負けないくらい好き。でも、蓮くんを苦しめるのはイヤ……!」
「蓮くんは、その苦しさを乗り越えて現実を生きていくんだよ。
苦しくもない人生なんて、ただ存在するだけじゃん。
それに、蓮くんを苦しめたくないのは、自分が死ぬとき死にたくないって思うのが怖いだけじゃないの。」
「!?」
「いいんだよ。死にたくないって思うのは、当然じゃん。人間なんだもん。
でも、逃げるのはよくないと思う。逃げたら絶対後悔する。
それに、まだ聞いてないんでしょ、告白の返事。
いいの聞かなくて?」
「別に、もう先長くないし……。」
佐々木さんは、視線を逸らしながら言った。
「本当に?蓮くんの気持ち知りたくないの?
両想いとか、どーでもいいの?」
「両想いには、なりたいかも……。」
佐々木さんの頬が少し紅潮してる気がした。
「だったら勇気をだして。
先がどんなに短くても、それが人生なんだから楽しんで、しあわせでいて。
その先の未来を考えないで、今を生きて。
それに、どんなに遠ざけようと苦しいんだよ。佐々木さんがいなくなるのは。
だったら今だけは、しあわせでいて。
蓮くんにしあわせな時間をあげて……。」
「………。」
「………よし、じゃあ告白の返事聞きに行こ。」
「……えっ?」
「ほら、車椅子のって、つれてってあげるから。」
「い、今から行くの?」
「当たり前!善は急げって言うでしょ!担当医の許可もとってあるから。」
「は、早っ!!」
「ほら、早く!!」
「は、はいっ。」
そうして、二人は病室を飛び出していった。