第8話:困惑
……脳腫瘍……
症状は主に、
・記憶障害
・嘔吐
・頭痛
・手足の麻痺
・視力低下
などである。
治療法には、[ガンマナイフ治療]というのがあり、放射線を病巣部に集中照射して、凝固・壊死させるのである。
しかし加奈の場合、放射線に弱い体質らしくその治療ができないらしい。
普段加奈は、いつでも放射線防止をしていたみたいである。
そのうえ病気が悪性で、かなり広範囲に転移し、どんどん病気はひどくなる一方だ。
……加奈は、助かるのだろうか……。
俺は、精神的にかなりつらかった。
加奈は普段、隠れて嘔吐したり頭痛に苦しんだはずである。
それを隠していたということは、しっかり支えてやれなかったということだ。
こんなことを考えるまでに、辛かった。
それを、見るに見兼ねた友人たちの優しさがよけいに辛く感じた。
病名を聞いてから、加奈の病室にいく足取りが重い。
日に日に看病する時間が短くなっていくのが、誰でもわかるくらいになりついには、学校にも加奈の病院にも行かなくなった。
親は、共働きで朝が早く夜が遅い。
だから、お腹の空いた時以外部屋のベットに寝っぱなしだった。
あるとき美樹が家に来た。
「おい!!蓮!いつになったら学校に来るんだ!お前、加奈ちゃんにも会ってないみたいじゃねーか!」
「うるさい!帰ってくれ!!」
散々世話になった美樹まで、顔も見せず帰らせようとした。
……………
数分間、無音・無言の時間が過ぎる。
むろん、無音だから美樹がかえったようすもない。
10分を過ぎそうになった時、美樹が話はじめた。
「俺さ、お前のこと本気で親友だと思ってる……」
何だろう、いまさら。
「友達で話すのは、お前が最初で最後だと思う。……俺、ひとつ上の兄ちゃんがいたんだ。
兄ちゃん、サッカーのセンスは抜群でさ、小学4年なのに中学3年の人相手に出来るくらいでさ。周りからも期待されてたんだ。
けど小5の時、兄ちゃん俺をかばってトラックにひかれて死んだんだ。
それで、辛くて兄ちゃんが死ぬなら、何もできない俺が死んだらよかったなんて言っちまって…親にぶっ飛ばされた。
お前は助けてもらったんだ!兄ちゃんの分まで生きろって。
そんとき、心に誓ったんだ『俺は、大切な人のことで後悔のないように生きていこう』と。
お前も大切な人だ。
苦しめるのはイヤだが、後悔させるのはもっとイヤだ。
加奈ちゃんのこと、いいのか?後悔するなよ。」
美樹の言葉は、心に深く染みた。
気がつくと家から飛び出していた。
行く先は勿論、加奈の病院。
ここからだと数キロあるが、必死で走った。