第6話:影の中の光
「あの、どちら様でしょうか………。」
病院に行った俺は、衝撃を受けた。
「あなた、誰ですか?」
「か、加奈ちゃん?」
「!私のこと知ってるんですか?………でも、私はあなたを知らないです。すみません、どちら様でしょうか?」
俺は思わず病室から駆け出した。
なんなんだ。何で俺の事を忘れているんだ!!
俺はあの日、加奈ちゃんに告白された海に向かった。
ザーーーー ザーーーー
あの日と何一つ変わらない海。
「………な、なんで…」
蓮くん。蓮くん!蓮くん!?蓮くん?蓮くん……
頭の中に、加奈ちゃんの声が聞こえたきがした。
しかし、振り向いたが………そこには、誰もいなかった。
自分は一体、何を失おうとしているのだろう。
砂を蹴って走り出す。足がもつれてひっくり返る。跳ね起きて、涙を流したまま走る。
「うああぁあぁあああぁあぁぁぁ!!!」
波打ち際に走り込んで、打ち寄せる水と全身で戦いながら真っ黒な沖を目指して走る。
気がついたら、波打ち際まで流されて、もがいていた。
ゆっくり立ち上がる。
俺がしっかりしなくちゃ。この先、決して楽な道のりではないが、俺が加奈ちゃんを助けなきゃ。だって俺は、加奈ちゃん、いや加奈が好きなんだから。
翌日俺は、加奈の親に話を聞いた。
しかし
「大丈夫、命に別状はない」と、いってはぐらかされた。
医者は、
「記憶の部分欠落で、ここ数年の記憶がなく、また、新しく物事を記憶することが出来ない状態です。幸い命に別状はないようですが、私生活は、厳しくなるでしょう。」とだけ答え、行ってしまった。
「新しく記憶が……できない?」
最初は、意味がわからなかった。しかし、加奈の病室に行ってその意味が明白になった。
「あの……どちら様でしょうか?」
病室に入って、初めて入った時と同じ言葉を聞いた。
「………加………奈……。」
「!私を知ってるんですか?………でも私は、あなたを知らないです。すみません、どちら様でしょうか?」
「お、俺は……あ、あなたのお手伝いをする者で、蓮といいます。」
その名前を聞いた加奈は、少し驚いた顔をした。
「すごい偶然ですね………その……私の好きな人の名前もレンっていうんです。あっすみません。関係ないですよね、私の好きな人の事なんか…。」
そういった加奈は、顔を真っ赤にしながら布団に潜った。
それは、自分だと言おうとしたが言えなかった。
今の加奈は、記憶を失っていて、そんな事を言ったら混乱するに決まっている。
では、どう言えば……
「あの………」
言葉を考えていると、加奈の方から声をかけてきた。
「これから、よろしくお願いします。………それとその、あなた、今恋をしていませんか?」
………
「どうしてそう思ったのですか?」
すると加奈はまた赤面して、申し訳なさそうな顔をした。
「すみません。その、あなたが、私みたいに苦しそうに感じたので。もしかしたらと思って。違いました?」
「いえ、間違ってはいません。」
そういうと加奈は、やっぱりという顔をして
「大変ですけど、お互い頑張りましょうね。」
と言った。病人だと思えないくらいの、素敵な笑顔をつくって。
そんな会話が数日続いた。新しい記憶が出来ないから。
はたから見れば、凄く残酷である。
実際、美樹や、周りの友人から何度か励ましの言葉をうけた。
俺は、毎日学校が終わると、つきっきりで看病した。
そのせいか、段々窶れていくの自分でもわかった。
しかし、加奈の記憶は相変わらずで、俺の名前は、なんとかあの夏祭りで捕った金魚に俺と自分の名前を付けて、忘れないよう何度も愛情を注ぐかのように呼んでいたから、名前は、忘れないよう最近なり始めた。
そして今、俺は一人で加奈が記憶をどうしたら取り戻すかを考えていた。
「………どうやったら記憶を戻すことができるんだよ……ボソッ」
「お前のせいで、佐々木さんが病院おくりになったんじゃねーか!」
!!加奈のことが好きだった輩が俺に、悪口をいった。
「〜〜〜っ!!」
俺は顔を机に押し付け、初めてみんなの前で泣いた。
「うっ、うぅぅっ。………。」
自分が情けない。あんなことを言われて言い返せず、人前で泣く自分が。
「みんな、やめなさいよ。別に蓮くんは、悪くないじゃない!!一番親しかった蓮くんが一番辛いのに、周りからも責めないでっ!!」
見るに見兼ねたのか、学級委員長が悪口を言った人に突っ掛かった。
「うるせーよ委員長!委員長には関係ねーだろ。」
「なっ!そんな言い方ないじゃない!!」
委員長がキレそうになったところで俺が止めた。
「ありがとう、委員長。」
ダッダッ!走り出す。
「あっ!まって蓮くん!」
背中の方でそう聞こえたが、構わず美樹に呼び出された記憶のある屋上へ向かった。
バンッ!
誰もいない。
当然である。
屋上など、生徒が昼食を食べる場所につかったり、放課後たまに部活でつかう程度で、普段は、人は来ない。
「……ふぅ」
近くに海があるので、潮風がほどよく気持ちいい。
バンッ!
反射的に振り向くと、……そこには、委員長がいた。
「ハァハァ……蓮くん、足速い。ハァ」
「ごめん、今ひと
「ごめんなさい!」。」
最後まで言えずに割り込まれた。
「なんで委員長が謝るの?」
「だって、私がもっとしっかりしてれば。」
申し訳なさそうに俯いてそう言った。
「また今回みたいなのがあったら、私が守るから。」
「どうして、そこまで?」
「そんなのは!……好き…だから……。」
!!
一瞬、委員長が加奈にかぶって見えた。
それは、あの友達記念日の時、加奈が言った言葉。
涙がまた出てきた。
「あっ、ごめんなさい。いきなり、こんなこと。」
「いや、こっちこそごめん。いきなり泣いたりして。委員長、その好きって言ってくれるのは有り難いんだけど……」
その瞬間、委員長の顔が少し曇った気がした。
「いいの、私知ってたから、蓮くんが佐々木さんのこと……ただ、あんまり無理しないで。じゃあ先行くね。」
そういって委員長は、屋上からいなくなった。
「ごめん、委員長。」
………加奈……。
「おうっモテモテだな、蓮。」
屋上のドアの裏に、美樹がいた。
「おまっ聞いてたのか?」
「わるい。寝てたら、お前の声が聞こえちまって。」
本当に、不本意らしい。
「それより蓮、いい情報があるぜ。」
?いい情報?
「俺の姉が好きで、言い伝えとかいろいろ知ってんだ。そのなかに、願いが叶う月光ってのがあって、そこの海で月光が海に反射してひかる時があるらしい、そんでその光を見た人の願いが1つ叶うって言い伝えがあるみたいなんだ。」
願いが叶う月光………じゃあそれをみれば加奈の記憶は……。
「俺もそれだけだから、先戻ってるぜ。」
「美樹っ!」
「ん?」
美樹は、ドアノブに手を付けたまま振り返った。
「サンキュー。」
今までも、ずっと影で支えてくれて。
「ああっ!」
最高の親友だよ、お前は。
こうして、加奈の記憶を戻すかもしれない幻の月光捜しが始まった。