第12話:〜Benediction〜祝福。
………………
ザァーー、ザァーー。
波の音が聞こえる。
………………
俺は、辛かった過去を…
誰にも話したことのない過去を…
一人の女性に伝えた。
これは新しい始まりの第一歩であり、今まで開きっぱなしだった心のアルバムを閉じた瞬間だった。
「〜〜っと、こんな感じかな。」
俺は、そんな大切な今日というこの日を涙で湿らしたくなかったから、必死で堪えた。
そんな中、隣で俺の話しを聞く彼女は……号泣していた。
「っ!おまっ、何泣いてんだっ!」
「グスッだ、だってぇ。仕方ないじゃん。……それで、それでその後どうなったの?」
俺は百合にハンカチを差し出しながら、続きを簡潔に話してやった。
「その後なー、まぁ想像つくと思うけど、涙の火葬に、葬式、それと……俺は加奈を好きだった連中に、加奈さんを殺したのはお前だ!とか言われた。」
「っんな!別に蓮は悪くないじゃん!!むかつくぅー!」
加奈は、顔を真っ赤にしながらぷりぷり怒った。
「ありがとう。でも、百合だって俺が加奈と一緒に死んでたら、加奈を恨むだろ?」
「……う、ん。」
「それと同じだよ。そいつらは、加奈がいなくなった悲しみを誰かにぶつけないと辛かったんだよ。」
「っでも!…でも…蓮の方がもっと辛い筈なのに……。」
「うん。……でも、委員長と美樹が中心になって、守ってくれたから。」
そう、本当にあいつらには世話になった。
明日にでも顔出すか。
「……ねぇ、私その二人に会ってみたい。」
「えっ?」
「だから、その委員長と美樹って人。」
「あ、ああ。わ、わかった。」
「なにそんなに噛んでるのぉー?」
「いや、ただ同じ事考えてたんだ。だから、そう言われてちょっとびっくりしただけ……。」
「ふっふっふっ、私は蓮のことは、全ておみとーしなのだぁー。はっはっはっ!」
そう言って百合は得意げになった。
全く、すぐ調子にのるんだから……。
「でも、よかったぁー。」
?
「なにがよかったんだ?」
百合は妙にニコニコしながら、
「だって、蓮の初恋の相手が凄く素敵な人で。」
「何でそんな事でよかったなんて思うんだよ?」
「だって、私の初恋の相手の初恋相手がいい人だと、なんか嬉しいんだもん。」
百合はちょっと赤面していた。
「百合の初恋相手って、俺だったの?こんなに綺麗でかわいいのに?」
そんなことを言うと、百合はさらに顔を朱くした。
「んっも〜!そんなにおだてても何もでないよ〜。」
「いや、本気で。」
「う〜ん?告白されたことは、何回かあるけど……なんかいまいちピーン!と、こなかったんだよねぇ〜。
でも、蓮の時はピピィーンッ!ってきたんだ。その後段々気になってきて、いつの間にか好きになってたの……。」
「……ゆ、百合、お前…。」
「な、何?」
「よくそんなこっ恥ずかしい台詞が言えるな…。」
「なっ!だ、だって蓮が初恋がどうとかいうから……
〜っあーもー、いいもん!私は、蓮が好きなんだもん!愛してるんだもん!」
開き直った……。
つーか、そんな大声で恥ずかしい台詞を……
………でも、
「ありがとう。……お、俺も、ゆ、百合が好きだ。」
「好きなだけ?」
百合が悪戯っぽく言う。
あ〜、わかりましたよ、言いますよ!
「あ、……愛してるよ。」
その言葉を聞いた瞬間、さっきまで泣いていた人とは思えない程の笑みで、抱き着いてきた。
「蓮っ!」
「おわっ。な、なんだ。」
「私、頑張るから。加奈さんの分も、蓮を幸せにするから。
いっぱい、いっぱい努力するから………。」
………百合……。
「そんなに気負わなくていいよ。今でも十分なくらい幸せだから。
今の俺には、百合が側にいてく……。」
そこで、百合が割り込んだ。
「誰か来たよ。」
た、頼むから最後まで言わせてくれ………。
「誰だろう……なんか二人組みたいだけど…。」
「そんなの、わかるわけないだ………っ!」
俺は、振り返り気味にそんなことを言い、その二人が目に入ると、言葉を詰まらせた。
「?どうしたの、蓮?」
「…美樹……委員…長?」
「えっ?」
そう、そこには親友である美樹と、朋友の委員長だった。
「!蓮っ!蓮か!?」
「蓮君?あの?」
二人は、俺を見るなりかなり驚いた。
「蓮!久しぶりだなっ!お前、上京したっきりこっちに顔見せないから、まだ加奈ちゃんのこと気にしてるのかって心配してたんだぞ。」
「そうだよ!私達の結婚式も大事な会議で来れないって言うし…。」
いきなりいろんなことを言われた。
「ち、ちょっとまって。そんなにいっぺんに言われると混乱するから。」
「わかった。簡潔に言おう。
隣の人を紹介しろ!」
「そっち!?そっちにいくの!!」
なんなんだ、美樹は…ハァー。
隣を見ると、百合が俺達三人を見ながらニコニコしていた。
「彼女は、ゆ……。」
「私、百合って言います。蓮っ、この二人が美樹さんと、委員長?」
また割り込んだよ、この人は……。
「ああ、そうだ。
んで彼女は俺の、か……。」
「はぁ〜〜っ、はじめましてっ!私のカレが加奈ちゃんの件で、大変お世話になりました。
カレに代わって、御礼を申し上げます。ありがとうございました。」
………な、なんだ?このいい人ぶりは……。
つーか、さっきからわざと割り込んでる?
「おおっ!いい人じゃないか!………と、喜びたいところだが百合さん、加奈ちゃんの事、蓮に聞いたの?」
いやに真剣な顔の美樹。
「そ、そうですけど…。」
百合は予想外の反応に、戸惑いながら質問に答えた。
「そうか…。蓮、お前加奈ちゃんの事、きっちりふっ切ったのか?」
「えっ?」
「もう、気持ちに整理がついたのかと、聞いてるんだ。」
「あ、ああ。」
「そうか……、なら安心だ。そんな素敵な人、泣かすなよ。」
「ああ、当然だ。大切な人がいなくなる悲しみは、誰よりも知ってる。
百合にはそんな思い、絶対にさせない!」
美樹の質問のおかげで完全に加奈の事をふっ切れた。
実は言うと、まだふっ切れていなかったんだか、もう百合をひとりの女性として見れる。
死んでも百合は、離さない。
〜〜よかったね、蓮君。
みんな、お幸せに。〜〜
!!
一瞬、加奈の声が聞こえた。
「おい、蓮。…今の、聞こえたか?」
「!美樹。お前も聞こえたのか!?」
「私も聞こえた。」
「私も聞こえたよぉ〜。」
!百合まで聞こえたのか。
「加奈ちゃんが、祝福してくれてるのかもね。」
「ああ、だろうな。俺達も祝福するぜ、蓮。」
「うん。二人とも、お幸せに。」
委員長……。美樹……。
「そ、そんなぁ〜。お幸せにだなんてぇ〜。」
そんな、無駄に照れるな。
〜誓いのキスをぉー。〜
!!
「美樹!今の聞こえたか?」
「っん?何の事だ?」
今度のは、俺にしか聞こえてないってか?
〜はぁーやぁーくぅー。みんなの祝福の前に誓いのキスをー。〜
!またか。わかった。するよ!
「ゆ、百合。」
「ん?なぁーに?」
「……愛してる。」
そう言って、俺は百合に優しくキスをした。
みんなの祝福の前に。
〜お幸せに……。〜
END.
読んでいただき、ありがとうございました。