潜入。つまり高校生
馬鹿だから夏風邪引いてました。
鳥の鳴く声と共に、ツクモのアラームで目が覚める。
う~ん。身体が重いな……
最近更に手合わせが厳しくなってきてるから疲れがとれないのか。
時計に目をやると6:30と表示されている。
また、こんな時間か。朝から何かやるんだろうな。
大学生の特権、惰眠を貪ることもできない。
仕方ない、起きるしかないしな。
寝ぼけ眼をこすり、のそのそと身支度を始める。
……何か目線低くない?
いつもより目線が低く感じる。身長ってこんな一晩で縮むんだろうか?
しかも、服もダルダルだしな。
気のせいだろ。そう思いながら、鏡見に目をやる。
——は? いやいやいや、あり得ないだろ。
鏡に映っていたのは見慣れた男の姿ではなく、女の子の姿だった。
「何だこれ!? 声まで変わってんじゃん!」
最近は並大抵の事じゃ、驚かない自信はあったけど、流石にこれはおかしいだろ。
それよりまず、犯人に直接聞かなくては。
急いでアメノの部屋へ行く。
こんな事起こす、いや、起こせるのはあいつしかいないだろう。
「アメノ! お前! これなんだよ!」
「あっ、おはよ。気に入った? 可愛いでしょ」
寝癖の付いた頭、少しはだけた服。これはなんともまぁ眼福ではある。
しかし、今はそこじゃない。
「そうじゃなくて! 説明が欲しいの!」
「え~、まぁ仕方ないな」
え~、じゃねぇわ。面倒くさがるな。
自分の身体が起きたら女性とか、役得って思う人いそうだけど、結局自分の身体だからね。
「鬼の気配があるけど、鬼が紛れ込んで見つけられない場所があるんだよね。悪さする前に倒しちゃわないとって事で潜入して欲しいんだ」
「はぁ、で? 何でこの姿?」
「東高校にいそうなの、だからそのためにこれ着て通学してもらおうと」
その手に持っていたのは、女子学生の服。
何でもありかよこいつら、その前に確認しなければ。
「男の姿で良かったんじゃないの? 一々女にしなくて」
「ほら、お上が『見た目絶対おんなのこがいい』ってそうしちゃったんだから」
「てか、何で身体が女性に変わってるの?」
「時間を掛けてこつこつと術式編んだらできるの」
日本の神様がそんなんでいいのか。
もう身体を作り替えられるのは当たり前なのね。
鬼を退治するまで、この姿のままなのかな……
「大学どうすんの? 流石に出席で単位落としたくないんだけど」
「その当たりは任せなさい」
「その前に俺じゃなくてお前が行けば良いじゃん」
「授業に出るぐらいならここで働いた方が楽しいから嫌」
本当にただの駄々っ子でしか無いじゃん。
鬼退治がお前の仕事の最重要項目だろ……
説明が程ほどしかされていない気もする。
しかし、どれだけ抗議しようとこの姿や、やるべき事は変わらないだろう。
「なぁ下着とかどうなってんの?」
当たり前だが、男物の下着を現在着用しているし、女性用下着なんて持ってない。
姿を変えられるなら、服も一緒に変えろって話しだけどな。
「買ってきた。付け方わかんないでしょ?」
「あぁ、まぁ」
「付けてあげるよ」
そう言って、付けてくれた。
すっごく馬鹿にされた気分。
お前女性下着触った事無い童貞野郎って言われてる気がする。
「それにしても、肌すべすべだね」
「やめろ、気持ち悪い」
「それじゃ、あとこれを着て、これも持って行きなよ」
制服を着用し、学生カバンを掛ける。
うわ、スースする。短パンはかなきゃ。
「時間割とか、登校時間とか覚えてないんだけど」
「鈴と登校したら? 学年もクラスも一緒にしてるから」
いろんな組織の上層に関係者いるって言ってたな。
編入手続きとかは全部簡単に出来たんだろうな。
妹と同じクラスか、まぁ知らないとこに独りより有り難い。
「後これも忘れないでね」
学生証を渡される。
名前は、渡辺 竜紀 とされていた。
「綱は退治が終わるまで竜紀って子になるから。竜紀は鈴の親戚設定だからいつも通り話しても違和感はないよ。後これも付けといて」
そう言って、アーティストが耳に付けているような物のような物を渡された。
何に使うんだろう?
「高校ってスマホの使用に厳しいらしくてね、でもツクモからの連絡は受け取らなきゃ駄目じゃん? だから、これで聴いて」
「でもこれも付けてたら、没収されるんじゃないの?」
「大丈夫、片耳が聞こえにくいから、補聴器の使用を許可してもらってる。って設定だから」
自然に付けていられる方法にしたのか。
医者にも関係者置いてんのか凄いな。
アメノから、色々と説明を受けていたら、扉がノックされる。
「入ってきて良いよ」
アメノがそう言うと扉が開き、鈴が入ってきた。
流石にこの姿、しかも何も聞かされていないとびっくりするだろう。
「お兄ちゃん……?」
やっぱり困惑するよな。わかるぞ妹よ。何度も兄が経験した状況だ。
「まぁ、この姿には——」
「めっちゃ可愛いじゃん! やった! お姉ちゃんが欲しかったし!」
予想外のリアクション。
受け入れ速いな。普通驚くだろ。
「アメノさん! 今日からおにい、いやお姉ちゃんと登校するんだよね?」
「そうだよ、色々世話してあげてね」
「やった! 任せて!」
おい、待て待て。この反応知ってたな。
「アメノお前、鈴に先に教えてたな」
「だって、突然お兄ちゃんがお姉ちゃんに変わってたらびっくりしない?」
「先に身体が変わる本人の方がびっくりすると思わないかな!?」
「まぁ、今説明したし、いいじゃん」
喜ぶ妹を横目に、アメノに問いただす。が返答は適当な物ばかり。
よかねぇわ。でもこれ以上何言っても無意味なんだろうな。
「そろそろ、学校行かなきゃ、時間だよ」
「ほんとだ! 行ってきます!」
「……はぁ、行ってくるわ」
ハイテンションな妹に引きずられ、家を出た。
久々に高校まで歩く。それにしても坂道がキツいな。
鍛えてるとは言え、荷物背負って歩くのはしんどい。
「なぁ、いつからこのこと知ってた?」
「4日前ぐらいにアメノさんから」
結構しっかり、時間あったじゃん。
説明期間を設ける事出来たよね。
「受け入れるの速くない?」
「さっきも言ったけど、お姉ちゃんが欲しかったの! しかも、こんな可愛いお姉ちゃんとか最高!」
「そーですか……」
兄が姉に変わっても自分の欲が叶えば気にならないとか。
素晴らしい精神してるな。
そんな話をしていると、学校へと着く。
「まず、お姉ちゃんは職員室行ってね」
「まだ、教室じゃないんだ」
アメノあいつ、このことすら説明無かったぞ。
あれか、鈴に説明したとき後で同じ説明面倒だからって、全部押しつけたな。
職員室へと出向き、説明を一通り受け、教室へと移動する。
「お前ら、まず今日は編入生の紹介するぞ。家の事情で期間限定でここに通うから、仲良くするように。じゃ、自己紹介して」
そう言われて、教壇に立つ。
クラスの全員の前に立って何か話しするの苦手なんだよな……
でも仕方ない、これも鬼狩って金もらうためだ。
「はじめまして、今日からお世話になります、渡辺 竜紀です。よろしくお願いします」
単調で、ありきたりな自己紹介をする。
正直、お世話にはならないよな。
「席は、あそこで」
空いている席を指さす。
鈴の近くか、これは有り難い。何かあったら助けを求められる。
言われたとおり着席する。
ホームルームが終わると、机のまあ割に人が集まった。
確かに高校で転校してくる人って珍しいしな。
更に、女子となれば連絡先交換したくなる気持ちもわかる。
だが、俺は男だぞ。男の考えなどお見通しだっての。
適当にあしらい、1時間目が始まるまで堪え忍んだ。
(お姉ちゃん、教科書忘れたから見せて!)
(お前…… 置き勉しとけよ。あとお姉ちゃんは止めた方が良いかも)
(何で?)
(親戚で同級生の設定なんだから)
(そっか、なら学校では竜紀って呼ぶね!)
まぁそう呼ばれた方が、自分の名前を間違えずに覚えられるって利点があるな。
それにしても、高校の授業か。
一般教養は、久々に受けるが、案外ついて行けるもんだな。
1度受けてるってのもあるけど。
何日かかるかわからないけど、頑張って高校生活を生き抜くか。
こうして、鬼を退治するための女子高校生活が幕を開けた。
当分女子高生続けようかなって思ってます。すぐ鬼倒しても良いんですが、日常回とか書きたいなって思ってるので、お付き合い願います。評価又は、ブックマークをしてくれたら、やる気が出るので出来ればお願いします。