早朝。そして訓練
早朝の人気の無い神社の中を1人歩く青年。
どこか遠くを見て心ここにあらずと言わんばかりの表情をしていた。
そのまま、参道を進み、裏山へと入って行く。
全く舗装されていない道を歩き、少し進んだところにあいつがいた。
「お前さ、神社の前で待つとか、せめて少しは目印ぐらいおけよ」
「ツクモ居るし良いかなって。てか、言葉遣い気にしなよ。神様だぞ?」
「尊敬できる人にはちゃんとしてるっての」
「唯ちゃんの爪の垢を煎じて飲ませてあげようか?」
「むしろ、お前が飲め」
『まぁまぁ2人とも……』
適当にも程がある。色々されてその上、説明もなし。
そんな奴に敬語なんて使ってやるか。
しかも、学生の貴重な睡眠時間奪うのは重罪な事わかってんのかな。
「で? 何するの?」
「手合わせだって言ったよね」
そういえば何か、ツクモも言ってた気がする。
てか、手合わせって出会った頃にした記憶が……
昨日やったなぁ、そんでボコボコにされたわ。
「前回やったとき、全く攻撃当てられなかったでしょ? このままじゃ狩る前に狩られちゃうなって思って」
「そーですか、心配してくださり有り難うございます。神様」
「でしょ~? 実践形式で動きを身体にたたき込むから覚悟してね」
思った事を口に出さなくても良くないか。
喧嘩すらほぼした事すらほとんど無いのに、体術や武術の心得のある奴に一撃加えるなんて難易度が高いだろう。
「まず、ツクモ木刀出して」
『わかりました』
すると、スマホの画面が光り出す。この光景、アメノと前回戦ったときに見た事がある。
その後、画面からゆっくりと形をなし、柄のようになっていく。
「綱、それを引いてごらん」
言われるがままに、形を成した部分を掴み、引っこ抜く。すると光は木刀へと変わった。
また、理解が及ばない事を……
「何なのこれ?」
「木刀だけど?」
「そうじゃなくて……」
「今後は欲しいものツクモに言うと、たいてい出てくるから」
また、説明の放棄。神様ってこんな感じなのか?
「よし、始めよっか」
「わかったよ」
全てがアメノのペース。流されるしかあるまい。
「ちょっと! 速いわ」
「始めよって言ったじゃん」
突然に斬りこまれる。普通はゆっくりと、打ち合ってからとかじゃないのか。
そうか、そうくるなら、やってやる。
上から斬り込む。しかし、軽々と流される。
諦めず、身体を狙い、崩された体勢のまま更に打ち込んだ。
打ち込んだ木刀をたたき落とされ、そのまま一撃を食らう。
「当てなくて良くない?」
「寸止めだったら、緊張感ないでしょ」
「めっちゃ、あるから。緊張しまっくてるから」
「さらに緊張感高めよっか」
残念だ、全く手抜いてはくれないようだ。
十数分経つと徐々にだが、目が慣れ始めてきた。
横からの攻撃に対して、木刀を合わせる。そのまま押し返すと下から攻撃が来た。
下からの斬り上げを躱し、空いた側面に攻撃を入れる。
しかし、わざと隙を作っていたようで、あっさりと受け流されてしまう。
そのまま力押しでもう一撃加えようとするが、右からの薙ぎが来た。攻撃を中止し、木刀の峰で受け止め、押し返す。
めっちゃくちゃ手が痺れる。何度も受けると握力が無くなるな……
「そんなんじゃ、刀だったとき折れるよ。受け流さないと」
「その受け流し方がわかんないっての!」
「まず、流さないと思うから、刃か鎬で受けて」
簡単に言ってくれるな。こっちは受ける事で精一杯だっての。
でも、向こうが正しいのだろう。こちらは全く武術とかその辺りの知識ないしな。
受け流すってどんな感じなんだろうか。
そう考えながら、打ち込む。すると、また受け流された。
……これ、真似すれば良いんじゃない?
そうか、動きを真似すりゃ良いんだ。そのためには、まず、何度も見本を見なくては。
何度も打ち込み、そのたび流される。そして、流されては身体に一撃を入れられる。
なんとなく、わかってきた。気もしなくもない。
しかし、何回も攻撃入れられるのに1回で済ましてくれるとは、案外良い奴なのかアメノって。
何度かそんな事を繰り返して、1時間が経った。
「今日はここまでにしよっか」
「あざっした……」
よかった、これで終わりか。これ以上は動けない。
このまま、バイトだが、速攻帰って寝よう。
家に帰り、シャワーを浴びてツクモにアラームのお願いをし、泥のように眠った。
✩
『そろそろバイトですよ』
「……ありがと」
のそっと身体を起こす。
身体が凄く重い。1時間ずっと身体を動かす事なんて何ヶ月ぶりだろう。
ここ3日間で肉体的、精神的どちらも消耗しきった。
だが、文句ばかり言ってられない。生き残るためだ。
ゆっくりとバイトの準備を始めた。
バイトと言っても、ただの実家の手伝いだが、しっかりバイト代を出すので働いている。
準備を終え、仕事場へ移る。
「そんな眠そうな顔しない」
「うぃ~」
流石にシャキッとしなきゃな。
気合いを入れてレジに向かう。
からんからん。と音が鳴り、人が入ってくる。
「いらっしゃいませ~」
長年培ってきた接客スマイルを炸裂させた。
——っておい、まさか。
「働いてるね」
「何で来てんの?」
「こっち客だよ? ちゃんと接客してよ」
アメノが来店してきたのだ。
しかし何しに来たんだろ。もうこれ以上は身体動かせないぞ。
「……何にしますか? てか、用件あるんでしょどうせ」
「じゃぁ、チーズケーキで。 確かに用件はあるよ、でも今回はお母様に」
「ここで食べる? 持って帰る? てか持って帰れ」
「ここで食べる。あと知り合いでもちゃんと接客するのがプロだよ」
言っている事は正論なので、反省する。すみません。声には出さないが。
仕方なく、席へ案内する。
母さんに用件? ろくでもなさそうだな。
その後、数時間働き、休憩の時間になった。
「休憩入るは」
「了解」
そう言って自室で休憩に入る。
「なぁ、何企んでると思う」
『私にも、あの方の思考は理解できないので……』
「だよなぁ……」
『でも、不利益を被るような事はしないと思います』
「あいつのみが利益を得る可能性もあるよな」
『……否定しきれないですね』
部下的な存在であるツクモにこんな風に思われてるなんて。やつ大丈夫か?
全員が不利益を被らない方法である事を切に願うしかないな。
休憩も終わり、仕事場に戻った時だった。
予想外の結果が待っていた。
「何してんの!?」
「そんな大きな声だしたらお客さんに迷惑だよ」
アメノが制服を着て、レジに経っていたのだ。
(ほんと何してんの?)
(君が戦いとかになると、人手が足りなくなるって言ってたから、代わりにって)
(何でそうなるのかな……)
(お母様も快諾してくれたし、それに何かあったとき直ぐ対応できるし)
母さんマジかよ……。
確かに全員に不利益はなく、万事解決ではあるだろうけども。
まぁ、バイト中に何かあったら助けてもらえるなら、いいか。
(ちなみにここに住むから)
(へ?)
(これもお母様から許可もらったから)
間の抜けた声が漏れ出す。
何? 一緒に住むの? また思考が止まる。
この3日で俺の世界は、思考をすっとばして大きく変わっていった。
今回は戦いっぽくしたかったですが、読みにくくなってしまったかもしれません。そして同棲スタートという事です。うらやましい。次回は大学生感出したいですね。