説明。しかし情報過多
竜ちゃんの行くの久々だなぁ。
そんな事を思いながら、渡辺家へと足を運ぶ。
ケーキ屋兼自宅の家に着いた。
深呼吸をし、インターホンを押す。
信じてもらえるか、そして納得してもらえるか。緊張する。
少ししてから竜ちゃんのお母さんが出てきた。
相変わらず、綺麗だなぁ。同じ女性としてもあこがれる。
「遅くに済みません」
「唯ちゃん久しぶりだね。この人がその説明してくれる人かな?」
「初めまして、アメノサグメと申します」
「とりあえず家に入りな」
リビングまで案内してもらう。
そこには、半裸で正座している竜之介の姿があった。
「あぁ、それは気にしないで。自主的にしてるから」
「そうなんですね……」
(竜ちゃんいつから、そんな格好で正座してるの?)
(誠意を見せた結果なんだ)
(……なんで脱ぐ事が誠意なの)
(素を晒し出す事が重要だと思っただけだ)
普段からどんな生活をしていたら、謝る際に半裸で正座になるのか。
せっかく気を引き締めたのに、緊張返して欲しいな。
気を取り直して、話を切り出す。
「先ほどお電話した事について、この方から説明があります」
「今から話す内容は、信じて頂けないかもしれませんが、信じて頂きたいものです」
そう言って、アメノさんが話し始めた。
✩
内容を要約すると、表で大きく動く事が出来ないので、裏で治安維持のようなことをしている。そこに、俺は巻き込まれてしまい相手に顔を覚えられた可能性がある。そのことによって狙われてしまうかもしれない。なので、いっそのこと仕事として私たちの仲間に入れさせてくれないか。との事だった
しかし、季や頼、渡辺綱、呪い、神などのワードは1つも出なかった。
「怪我の治療や、その費用。そして1体討伐あたりに報奨金も出します。色々な機関の上層部にも私たちはいますので、多少の無理はまかり通ります。しかし、最悪の場合、大怪我では済まない可能性があります。もし、同意頂けなければ無理にとは言いません」
「なるほどねぇ。信じ切れないけど、そんな真剣な顔されちゃ無下に出来ないわ」
最悪の場合ってのは、死ぬ事だろう。こちらとしては勘弁願いたい。
しかし、自分自身がそんな大事に巻き込まれていた。しかも、それなりの使命がある。そう考えるだけで、ただ楽な方に逃げて生きてきた人生に、何かしらの意味を見いだす事が出来るかもしれない、と馬鹿な思いがふつふつと湧いてくる。
母さんがチラッとこっちを向く。
流石に止めるだろう。息子が死ぬかもしれないとなると即決はできないのが普通だと思う。
「竜はどうしたい?」
「へ? どうしたいって?」
「あんたがどうしたいかって聞いてるの、20歳になったんだ。親があーだ、こーだ言って決めてやるもんでもないだろ。自分がしたいようにしな」
今までも判断は自分でするようにさせられてきたが、楽な方に逃げてきた。今回もそうするべきなのか。もしくはこのふつふつと湧き上がるこの気持ちに正直になるのか。
だが、やはりこのままでは、死ぬ。今回、何度唯に助けられたか。止めておくか。
「申し訳ないがやめ──」
「ちなみに大学の単位も操作できなくもない」
「やります」
何事もチャレンジって必要だよね。もし無理だったらその時に考えよう。この湧き上がる気持ちを大切にしなくちゃ。
「お母様。よろしいですか?」
「本人が決めた事だし、いいよ」
「では、預からせて頂きます」
「よろしく頼むね。竜、帰るときは唯ちゃんたちを送っていきな。私はまだやる事あるから」
そう言って、作業場へと消えていった。
母様は知らないのだな、俺より唯の達方が強く、むしろ俺は守って貰う側だという事を。
「遅いし、もう帰るよ」
「綱、君には帰り道に話をしてあげよう」
「じゃ、送るわ」
やっぱり全部は話さなかったのか。もしくは話せなかったのか。
そのまま玄関までついてく。すると唯に止められた。
「ねぇ、それで外出るの?」
「それって?」
「その格好」
「あっ、すぐ着替えてくる」
忘れてた。何時間も半裸でいたから、馴染んでたや。
服を着て、送りに出た。
帰り道、さっきの説明で引っかかっていた事を聞く。
「アメノ、お前さ、母さんにした説明は嘘だろ」
「やっぱりわかる? まぁ嘘とは言い切れないんだけどね。本質的には似た内容だし」
悪びれる様子はない。
流石にイラッとくる。
唯は申し訳なさそうな顔をしていた。
「せめて、俺には説明してくれよ」
「もちろん」
そして、説明が始まる。
20年ぐらい前に、常世にいた酒呑童子が現世に逃げた事が発端らしい。
早急に捕まえなくてはならないが、その他神々も、自分の場を治めるのに精一杯だった。
なので、その時に、まだ現世に留まっていた。源頼光とその配下である卜部季武と渡辺綱にお願いし、捜索かつ、酒呑童子逃走と共に増えた鬼を退治してもらうこととなる。
しかし、彼らは実体を持たないため血縁の者に取り憑く事になったが、自我がはっきりしている者に取り憑く事は出来ず、生まれたての赤子に取り憑いた。それが俺や唯らしい。
……確かに、こんな事を言ったら普通信じないし、むしろ電波受信しちゃってると思うわな。
「取り憑くって、俺いま憑かれてんの?」
「まぁ、憑かれるって言っても、ただ記憶を垣間見るぐらい。勝手に身体動かしたりとかできないから大丈夫だよ」
大丈夫って言われても、「そっかよかったぁ」とはならないぞ。
むしろ、生まれた頃から知らないおっさんの記憶と同居してるって、全然大丈夫じゃないし。垣間見る事がなくてほんと良かった。
そんな事を話していると唯の家までたどり着いた。
家に入るのを見届けてから、後にする。
正直、泊めてもらいたかったが、流石に言わなかった。
さぁ、ここからだ。
帰り道に何もないよう。アメノ以外の神に願いながら帰路についた。
✩
『起きてくださーい、時間ですよ』
う~ん。もう朝か、何か昨日の疲れがとれてないな。
身体を起こし少しぼーっとする。枕元の時計を見ると7:00。
確か今日って学校休みだし、手伝いは午後からのはず、何でアラームなったんだろう……
って、さっきのアラームなんだ!? そんな設定してないぞ!
「だれだ!?」
ベッドから飛び起きる。まさか、また、鬼が出たのか?
流石に不味いぞ。アメノも唯もいない、武器もない。
しかも家だ、あまり迷惑をかけられない。
……かくなる上は窓から飛び降りるしかない。
窓を開け縁に足をかける。
『ちょっと! 待ってください!』
謎の声に止められる。殺してやる的な雰囲気はない。敵ではないのか?
でも、どこから聞こえてくるのかがわからない。
声が聞こえる付近を探索する。それらしい人はいない。
ベッドの下か? でも、居たら居たで恐怖だが……
意を決してベッドの下を覗く。
——よかった。誰も居なかった。
「誰! どこにいる!」
『こっちですって』
声のする方へ近づく。どこだ、枕元か?
『スマホですって』
「は?」
スマホを拾い上げる。
するとその画面の中には高校生ぐらいの女の子が映し出されていた。
AIか? でもインストールした記憶は無いし。
『何も聞いてないような顔してますね』
「何もって?」
『アメノ様から何も教えられてないのですか?』
……あいつマジでなんなの。
✩
一目散に唯の家へと急ぎ、インターホンを押した。
唯なら居場所知っているはず。
すると扉を開けて出てきたのは、アメノだった。
「アメノお前! 俺のスマホに何した!」
「あっおはよ」
「おはよ。じゃねぇーわ! これお前の仕業だろ!」
スマホを突き出す。
唯の家に居た事に驚きはなかった。むしろ、手間が省けた。
「あぁ~それね、武器」
「はぁ?」
「いや、ほんとだって。本人に聞きなよ」
頭をかきながら、面倒くさそうな顔をしている。
いや、説明を面倒くさがるなよ。
『……アメノ様。まさか説明してないんですか?』
「うん。面倒くさかった。ツクモが説明すると思って」
『普通、先に説明すべきでしょ』
スマホの中のAIがツクモというのか?
至極全うなことを言っている。
ツクモの方がまともなんじゃないのか……
「じゃぁ、ツクモ頼むよ。その後で手合わせするから」
『ほんと、どうしようもないですね』
はぁ、とため息をつく。
……ツクモに同情するわ。
本当に、どうしようもねぇなこいつは。
出会って2日だが、あまり頼っちゃダメな奴ってのはわかる。
「ツクモ~ 訳がわからないんだけど。教えて。あいつ信用ならない」
『そうですよね。あの人適当ですもの』
画面の中で頭を抱えている。
人工知能に頭抱えられてるってどうなのか。
『まぁ、いいですよ。付喪神って知ってます?』
「一応は」
確か、長く使ってる道具に霊的な何かが宿った奴だったはず。
でも、このスマホ勝って1年ぐらいしか経ってないんだけど……
『それなんですよ、私。』
「はぁ、そうなんだ」
『すんなり受け入れるんですね』
「何かもう全てを受け入れるしかないなぁって」
竜之介は、あはは、と笑いながら遠い目をしている。
連日、話の内容が濃いんだよな……
しかも、今日に至っては朝からだぞ。脳も全然起きてないのに。
展開も速いし、ついて行けない。
驚かないというより、驚く容量すら残ってない。
だから、もう受け入れるしかこの現状に耐えられないんだよ。
『そうですか。不憫ですね』
「で、なんで俺のスマホに?」
『私、特殊で、何にでも憑く事が出来て、1度憑いた事のある物には何にでもなれるんで。それで駆り出されたって感じですね』
「へーそうなんだー」
『理解してます?』
「よくわかんないけど、何にでもなれるんでしょ」
『まぁ、そうですね』
武器がある。それだけわかればいい。
むしろそれ以上言われたところで、理解は無理だろう。
既に理解してないけど。
『説明は以上で良いようなので、裏山へ行きましょう。アメノ様が待ってます』
「了解です」
言われたままに裏山へと足を運ぶ。
そういえば手合わせとか言ってた気もするが…… まぁいいか。
考える事を放棄した俺にこの後、なにが起きるかなど予想する事すら不可能だった。
サブタイトル通り説明が多く、内容が伝わりにくかったのかもしれません。やっとタイトル通り、鬼を狩る事によって収入を得る事が出来るようになりました。次回は身体を動かしたいですね。