回収。またも戦闘
先ほどの出来事の詳細を知るため、神社から唯の家へ場所を移す事になった。
殺される。そんな経験は初めてで、助かったときの安堵感。何故か癖になりそうだった。
「結局何が起きたか説明してくれ」
「私もあまり詳しくないんだけど、ちゃんと説明してくれる人 ……人かな? まぁ、その人に連絡取るから1度家に寄らせて。知っている事はとりあえず教えるよ」
そう言って大まかにだが説明してくれた。
まず、先ほどの男について、鬼と呼ばれているもので、おそらく人の怨念などが物に着く事のよって生まれるらしい。この『恐らく』には原因は確定しておらず、状況的に見て1番可能性が高いからだと。
次に人や車がいなくなった経緯、少なからずこちらは刀など持って、斬り捨てるためそれを見られて通報されたり、一般人が人質になってしまうと面倒なため人払いの呪いを施しているため。しかし、効果はあまり長く続かないため、時間がたつと人が帰ってきてしまう。だから、唯は焦っていたのだと。
信じられないし、正直信じたくもない。でも、実際に見てしまい、巻き込まれてしまった。
その事実は認めるしかない。
そんな話を聞きながら唯の家までたどり着く。
「ちょっと待ってて」
そう言って唯は家の中へ入っていった。
中には入られないか。残念だ……
ついさっきの事を思い返すと膝が笑いだす。
ケーキ配達してただけなのに、何でこんな事に巻き込まれたんだか。
母さん怒っているだろうし、帰りたくないな。ありのままを話したところで、信じて貰えないだろう。
「ケーキと原付を神社に置き忘れてんじゃん……」
全て置いて、そのまま唯の家まで付いてきてしまった。
でも、さっきのこともあるから、寄りたくないんだよなぁ。怖いし、一人だし。
よし、唯を待つか。
我ながら賢明な判断。守ってもらわなくては死ぬ。
そう心に決めた時だった。着信音が鳴る。母さんからだ。
「……もしもし、何?」
『あんた! 何じゃないよ! 今どこで何してんの!』
「いや、ちょっと唯の家に配達を」
『時間かかりすぎでしょ!』
「諸事情で……」
『いいから早く帰ってきなさい!』
そう言い放って、電話を切られた。
まだ唯は準備が終わらない様子。このまま待ち続けるべきではあるが、連絡を取ると言い残していたので、おそらくまだ時間はかかるであろう。
「仕方ない、行くか……」
このままでは、母さんに殺される。是非とも唯に一緒に来て欲しいが仕方あるまい。
何かあれば全力で逃げる。よし、そうしよう。
✩
「ヒュー…… ヒュー」
何時ぶりだろうか、ここまで全力疾走をしたのは、肺がねじ切れそうだ。それにしても唯の家から神社まで走っただけなのに…… 体力の衰えを感じる。これが老化ってやつか。
呼吸を整えながら、境内を物色する。
神社に入ってから何か、違和感があるような…… 周りを見渡すと参拝者は女性が一人。平日の夕方だしそんなもんか? 受付にも人はいるし、唯の説明通りならば一般人がいる時点で問題は無いはず。少し神経質になっているだけだろう。
「確か、授与所付近に置いたはずなんだけど──っと、あったあった」
授与所の前に袋がそのまま落ちていた。
これで殺されずに済む。急いで帰ろう。
拾い上げ、振り返ったときに違和感の原因がわかった。
「社務所の窓直ってる……」
さっき確実に割れてたはず、あの出来事は白昼夢だったのか? 自分の記憶が正しいのかわからなくなる。
「君、大丈夫?」
「あっ、はい大丈夫です。ありがとうございます」
立ちすくんでいると女の人から声をかけられた。
すぐに我に返り、お礼を言い、正門へと向かった。
それにしても綺麗な人だったな。年齢は20代半ばってとこかな。
「すみません」
女の人に呼び止められる。これが世に聞く逆ナンて奴か。
自然な笑顔で振り返る。
これぞ接客業で鍛えた営業スマイル。
「これを落としましたよ」
「ありがとうございます。スマホよく落としちゃうんですよ」
落と物を拾ってくれたようだ。
スマホとか落としたら死活問題だった。助かった……
スマホを受け取り帰ろうとする。すると突然スマホの画面が見えなくなるほど光った。
しかもこの光見覚えがある…… おい、まじか。まさかそんな。
こちらの望まない方向へと事がどんどん進む。
その光は形を成し、スマホ画面から木刀が出てきた。
でもこのスマホ俺の物なんだけどな。何時からこんな仕様になったんだ……
左手にスマホ。右手に木刀。妙な装備が出来たその時だった。
女がこちらに向かって、木刀を振り下ろしてきた。
何とか防ぐが、この力、本当に女性か?
「何すんだよ!」
「大丈夫。許可は取ってあるから」
「誰のだよ! それならまず、俺から許可を求めろ!」
「まぁ、いいから、いいから」
「俺が良くないって言ってんの!」
全く会話をしてくれない。
こちらから何度も、止めろや、何すんだ。と言うが、まぁいいからと繰り返すばかりだ。
こうなったら、やるしかないな。
剣術なんて1回もした事ないし、木刀すら握った事無いけど、ゴリ押してどうにかする!
相手の攻撃に対し全力で木刀をぶつけてみる。
ダメだ、この方法。めっちゃ手痺れる。
次の手は、受け流す事に専念するが、まず受け流しの仕方がわからないため。正面から受けてしまう。
次の手だ。こっちからガンガン攻める。……は、無理だな。まず攻めれるほど優勢でもないし。初心者目から見てもわかる。隙なんてどこにもない事ぐらい。
逃げたいが、間合いを取って逃げようも、詰められてしまう。背中を向けようものなら、木刀でも即殺られる。そんな感じがする。
「ほんと何が目的なの!」
「ただ手合わせしたいだけだから」
「手合わせも何も防戦一方なんだけど!」
「打ってきていいよ?」
「そうじゃなくて、止めませんか!」
「あと10分ぐらいは付き合ってよ」
「いや、あなた何者ですか!」
「勝ったら教えてあげる」
自然と下手に出てしまう。あと、言葉通じてるよね?
徐々に攻撃の捌き方がわかってきた。でも、こっちは必死に食らいついて攻撃を食らわないようにしているのに、女は全く本気出してないように感じる。
右からの攻撃を木刀で受け止めるも、衝撃が殺しきれず、手が痺れる。
ひるむ隙も無く、更に色々な角度から攻撃が飛んでくるため、一つ一つの対処が遅れ徐々に捌ききれなくなってきた。肩や横腹にダメージが蓄積される。
くそ、痛いわ。でも何でここまで、捌き切れたのか、それがむしろ不思議なんだけど。
「息上がってるねぇ、大丈夫?」
「心配して頂けるのなら、攻撃止めて頂けませんかね!」
「そう言わずにね? もしかして私が女だから気を遣ってくれているの?」
「すみませんね。フェミニストなもんで!」
「別に気にしなくていいのに」
防戦一方で全く攻撃が出来ない。こっちは限界超え始めてるってのに、嫌みまで言えるって余裕持ちすぎだろう。
当てれたら当ててるからな。覚悟しろよ。
上段からの攻撃を受け止めつつ横に流す。そのまま、腰を落とし女の脚を払った。
脚を払われた事により、バランスを崩しこちらに倒れ込む女。
よし、決まった。仕方あるまい、胸で受け止めてやろう。
女は倒れ込むよう俺の胸元へ近寄り、そのまま俺の胸ぐらを掴み、後ろへ放り投げた。
「はぁ!? 倒れたフリだけかよ!」
「あんな見え見えな、攻撃で倒れないけど?」
フッと鼻で笑われる。こっちは全力で仕掛けたってのに、これ以上打つ手無いぞ。
しかも、投げ飛ばされた衝撃で木刀を手放してしまった。
さて、どうしたらいいか……
「アメノさん! ここにいたんですか!」
この声はまさか!すぐ声の方向を見る。
「唯!助けてくれ!」
まさに渡りに船。これで助かる……
てか、助かるじゃねぇよ、巻き込んじゃダメじゃん。身を挺して守るぐらいの男気持たないと。
そんな考えに至ってしまう自分が情けなくなる。
「うわぁ、ボロボロじゃん。アメノさん何してんですか」
「あっ、時間切れか。ちょっと実力確かめるために手合わせを」
「どう見ても手合わせのレベルじゃないですよ……」
「唯、この人と知り合いなのか?」
「さっき言った詳しい人って、この人なんだよね」
「ど~も、アメノサグメでーす」
ひらひらと手を振る女。もといアメノサグメ。……アメノが名字でサグメ名前か?
「おい、時間切れってまさか」
「そうだよ? 狭いスペースで限られた時間なら私は1日1回使えんの。デカいのだと1個作るのに何日もかかるからもったいなくて使えないけどね。いやー、それにしても渡辺綱が憑いてるってのに弱いねぇ」
やっぱりか、これだけ暴れて人にもバレず、自由に出来るのは、唯の言ってた呪いの類か。
しかし、明らかに馬鹿にされているのはわかるが、渡辺綱って誰だ。
「アメノさん。実は竜ちゃん何も知らないんですよ」
「そうなんだ。こっちでも把握できてなかったし、仕方ないっちゃ仕方ないね」
「あと、なんで渡辺綱さんが憑いてると思ったんですか?」
「手合わせの途中で視たから、しかも季以外は常世にいるし」
勝手に2人で話を進めている。誰が憑いてるだ。記憶がなんだと聞こえるが、全く内容が理解できない。うつしよ? とこよ? あと、すえって誰じゃい。
「竜ちゃん、天邪鬼って知ってる?」
「あの本心とは違った事を言う人のこと?」
「そうじゃなくて、妖怪の方」
「頼、私は妖怪じゃないって、神様」
自称神様かイタイ人じゃん。
「痛いんですけど……」
顔を踏まれる。
だってそうじゃん。自称神様とかヤバい奴じゃん。
「綱は顔に出やすいタイプだな」
「この人さ、心読むんだよ」
「現世にいすぎて嘘か本当か嘘か見抜けなくなったけどね」
何その本当か嘘かわからないやつ。マジで何者なんだこの女。
「あ~もう。アメノさんのせいで余計話しがややこしくなったんですが」
「綱の親御さんもこのこと知ってるの?」
「いえ、まだです」
「なら、家行こっか。綱、今から家行くから連絡入れといて」
「はぁ、まぁいいが綱って俺か?」
「そう、あんたは綱。この子が頼」
「ごめんね。私がちゃんと説明すべきだった。お母さんに連絡しといて」
凄く申し訳なさそうな、顔で謝ってくる。
よくわからないが、そういった流れになったため、スマホを開く。
おびただしい量の着信履歴。……すっかり、忘れてた。不味いな、今日1日で何回命の危険感じなきゃならんのだ。
ここは男らしくいくか。
「唯、すまん。俺から電話したところで話にならん。お前から母さんに連絡を入れてくれ」
「いいけど、何で?」
着信履歴を見せると苦笑いをして、なるほどねと呟いた。
1日3回も命を助けてもらうとか並大抵のヒロインより助けてもらってるぞ。
「わかった。って。でも、仕込みとか、片付けあるから21:00頃にって。あと『お前はすぐに帰ってい』だって」
「わかりました。すぐ戻ります」
これ帰っても大丈夫だよね…… せっかく助かった命もここで散るかも。
「じゃ先戻ってるわ。あとそのケーキあげる。食べといて」
そう言い残し、原付に跨がり、急いで家まで帰る。
既に日が沈み、肌寒くなっている。冷たい風を受けながら、命一杯スロットルを捻った。
説明回の予定でしたが、思ったより話が進みませんでした。計画性のなさが露見した結果に。次回はちゃんと世界観を説明する予定です。