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配達。そして巻き込まれる

 麗らかな春の陽気に包まれた午後、配達の途中だが、バイクを降り、公園のベンチに腰をかけ寝てしまいたくなる。

 しかし、ケーキを載せているのでそんな事をしている暇はなく、満開の桜を横目に渋々原付のスロットルを回し目的地へと向かう。


「午後の配達は次で終わりか」


 手元のリストを見ながら配達先を確認していく。

 配達を終わらせたら、返る前少しゆっくり桜を眺めるのも良いだろう。なんせ次の配達先は多田野神社だ。境内でのんびりさせてもらおう。

 そう考えていると、スロットルにかかる力が強くなった。





「やっぱり変だよな……」


 もうすぐ目的地に到着するのだが、この数キロの間、一台も車を見ていない。

 確かに大通りは避け交通量の少ないところを狙ってるとはいえ、一回も車とすれ違わないなんて事、普通はない。

 背筋に嫌な汗がにじむ。


 まぁ、その違和感に今の今まで気付かず、「今日は凄く空いてるなー」程度の感覚だった俺もおかしいけど。

 気味が悪いので出来れば引き返したいが、仕事はこなさなくてはならないので目的地まで急ぐ。

 

 見事に一度も車とすれ違わないまま多田野神社へと到着した。


「確か授与所でいいんだよな」


 原付を止め、手早く商品のケーキを取り出す。

 ケーキを崩さないよう慎重にかつ迅速に授与所へ走りだす。

 もちろん境内にも人の気配はない。

 人の気配のない神社はどことなく薄気味悪く感じる。

 

 授与所の目の前までたどり着いた。


 ……ここにも人がいなかったらどうしよう。

 だが、ここまで来たらやるしかないだろう

 決意して授与所の裏口をノックする。 

 それとほぼ同時に向かい側の社務所の窓が割れた。

 

「何!? 何が起きた!」


 突然の出来事で、声が出てしまった。

 何が起きたか確認するため、そして、怖い物見たさもあり、社務所へと行ってしまった。

 

 参道の真ん中で袴姿の女性が尻もちを付いていた。

 袴は所々、すれたり、切れたりしていた。それに、赤いシミ…… 血痕か?

 様子を見るところ、何かしらの事件に巻き込まれていると考えるのが普通だろう。

 急いで駆け寄り、手を貸す。


「大丈夫ですか?」

「ありがとうございます…… って竜ちゃんどうしたの? こんなところで」


 きょとんとした表情をこちらに向けてくる。

 その女性は馴染みの顔だった。


「唯、お前!どうしたもくそもねぇわ、お前こそどうした」

「いや~ 深い事情があるんだよ。 てか、それケーキじゃん!」

「お前が注文したんだろ、早く受け取ってくれ、俺は早く帰りたい」

「忘れてた、今野暮用で受け取れないんだよね~」


 あははと軽く笑い受け取りを拒否する。

 いや、受け取ってもらわないと困るんだが……


「お前、怪我してるのか、血が出てるぞ」

「だって、窓割って飛び出したんだから、怪我ぐらいするって」


 尚更、そこまでしなくてはならない理由を知りたくなる。

 しかし、その理由がすぐにわかった。窓からもう一人、出てきたからだ。中肉中背の若い男性、手には刀を所持し、殺気がだだ漏れしている。

 生まれて一度も味わった事は無かったが、おそらくこれが殺気という物であろう。全身に悪寒が走り鳥肌が立った。

 

 やばい、腰抜けた。


 馬鹿でもわかる。これが窓を割ってでも逃げなくはならない相手だという事ぐらい。


「早く警察に通報しないと!」

「それが出来たら、苦労しないんだけどね」


 すぐさまスマホを触るが、圏外の二文字。普段は電波がしっかり届いているのに。

 もう訳がわからない。何で電波が届かないのか、何で幼なじみが殺されかけてるのか、なんでこんな状態でもこいつは冷静でいられているのか。何故逃げないのか。


「とりあえず逃げるぞ!」

「腰抜けてるのに走れるの? まぁこれが深い事情ってやつだよ、ケーキはその辺に置いといて」


 ごもっともです。全く力が入らない。しかし、こんな状態でもケーキか。


「しっかりしなよ、情けないぞ!」

「むしろ、この状況で冷静なのがおかしいと思うぞ」

「しかたないなぁ」

 

 はぁ、とため息をつき、腰が抜けて立てない俺を抱え走り出す。

 凄く恥ずかしい。だってお姫様抱っこされてるんだもの。

 でも、何か悪くないな…… この抱擁感。いや、落ち着け。それだけはダメだ。この状況を受け入れるんじゃないぞ、俺。


「あいつは何?」

「え~っと…… おじさん! おじさんが手合わせしてくれてたんだ。ちょっとテンション上がっちゃって窓割って出てきちゃった✩」

「嘘つくならもっとましな嘘つけよ」

「なら、強盗がきたから返り討ちにしようとしてた!」

「そっちの方が危ないじゃん! 逃げろよ!」

「うるさいなぁ、お姫様は静にしていてよね」

 

 明らかな嘘ばかり付き、まともにこちらの質問に答えない。それがこの状況を引き起こした『深い事情』を物語っていた。

 しかし、今は逃げるべきであると考えるのが普通だと思うが、唯はどう見ても素手、戦う素振りは見せているが、どうするつもりなんだろう。

 

 ……姫様か、そうだよな。襲われそうになったところを抱きかかえられて逃げてるんだもんな。

何か、泣けてきた。


「竜ちゃん、今何時何分かわかる?」

「ついさっきスマホ見たときは、16:48だった」

「そっかぁ。ごめん、そこに座ってて」


 そう言って、俺を下ろす。

 何で? と聞こうとしたが、先ほどとは違い、柔らでとぼけたような表情ではなく、凛とし、鋭い目つきに変わっており、声をかけれないような雰囲気を纏っていた。

 追いついてきた男に迫っていく唯。

 男は明らかに殺す気でいる。しかし、何の武器もなくどうやって戦うつもりなんだろう。

 

 そんな事を考えていると、突然、唯の着けていた指輪が青白く光る。

 その光は、一瞬で刀の形へと変化し、光が収まると紛れもない刀が唯の手中にあった。


 男が振り下ろす刀をしっかりと捉え、自身の刃で受け止めた。

 そのまま押し返し、横からの斬撃を繰り出す。しかし、これは容易に受け止められてしまう。

 男から斬撃を仕掛けられる。が、身体を反らしながら相手の攻撃を刀で受け流す。


 何度も刀と刀がぶつかり、甲高い音とともにそのたびに火花が散り、互いに攻めきれず、つかの間の鍔迫り合いが起きる


 このまま、何度も受けたら刀が鈍らになってしまうし…… さて、どうしようか。

 剣術に関しては、私と同じか少し下。あまり時間もかけられないし、決定打が欲しいけど、難しいな。体勢が崩せれば良いんだけど。


 ちらっと竜之介の方を見た。


 ……そんな不安そうな顔しないでよ。

 少しの怪我でも気にしちゃうんだろうな。

 お姫様のためにもサクッとかっこよく倒してあげなきゃ。


 押し返すには、筋力の差で負ける、だったら…… 受けていた力を抜いてやる。

 前に力を加えていた男はそのことで体勢が少し前に傾いた。

 そこに蹴りを加える、それによって完全に相手は体勢を崩した。

 

 ──今しかない。


 刀を構え直し、相手の胴体めがけて突きを放つ。しかし、刀が触れる僅か手前で身体を捻られ、避けられた。

 

 しくじった、もっと焦らず確実な手を選ぶべきだった…… 

 だが、手首だけは獲ってやる。


 突きを放った刀を返し斬り上げる。

 刃は見事に男の手首を捉え、斬り裂き、手首は刀とともに宙を舞った。


 次こそ確実に仕留める。体勢を崩したところを刀を振り下ろす。

 その時、砂を投げつけられた。


 あちゃ、目が見えない…… どうしよう。でも、相手はまだ刀を持っていなかった。

 やられる前にこのまま振り下ろすしかない。

 

 全身の力を込め勢いよく振り下ろす。

 しかし刀は空を切り、ジャリッと砂に当たった音がする。手応えもない、外してしまったようだ。

 これは、殺されちゃうかな……

 

 唯の攻撃をよけ男は刀を拾い上げようとしている。

 

 ……動けよ。目の前で幼なじみが殺されそうなんだぞ。

 黙って見てるだけか、違うだろ。

 これだけ助けられて、何もしないのか、男だろ。

  

 自分の顔を思いっきり殴る。

 めちゃくちゃ顔は痛いが、恐怖心は吹き飛び、脚は動く。そう感じたときには既に駆けだしていた。


「どうにでもなれ!!」

 

 そのままの勢いで男へ跳び蹴りを繰り出す。

 見事に直撃し、男は吹き飛んだ。しかし、勢いが強すぎた、自分も体勢を崩しその場に倒れ込む。

 ……格好が付かないな。


 蹴り飛ばした男はすぐに立ち上がり、切り落とされた部分を押さえながら、西門へと走り出した。


「逃がすか!」


 今、相手は武器を持っていない。さらに手負い。これは全く恐怖心なんて沸かない。むしろこの状況なら、いける!

 そのまま、男を追いかけ、腰めがけてタックルをかました。


「唯!どうにかして!」


 相手からタックルをキメてからずっと殴られているが致命傷を負うような攻撃はされずに済んでいる。しかし、こちらからも決定打になるような攻撃をする術を持っていない。

 俺はもう、何も出来ない。あとは痛みに耐えるだけだ。唯がどうにかしてくれるはず! 最後まで他力本願だが仕方あるまい。


「任せて、でも15秒耐えてね!」


 そう言って、刀を持ち直す。すると先ほどの刀は青白い光となって、弓の形へと変化していく。

 何故か、最初ほどの驚きはなかった。正しくは容量が一杯で処理が間に合ってないだけなんだけど。

 

 ゆっくりと弓を構える。

 少し遠くからでも、すさまじい集中力が伝わってくる。


「竜ちゃん、離れて!」

「だが……」

「いいから!」


 言われたとおり、相手を離す。想定通りだが相手が逃げ出した。

 唯から男との距離は40メートルほどだろうか、当てられるのか?

 そんな考えが頭をよぎる。が、自分と少し距離が空いたその時だった

 空を切る音と共に男の背中に矢が突き刺さった。その場に男は倒れ込み血だまりが出来る。


 人が目の前で死んだ。しかも、殺した相手は幼馴染。確かに荷担したが唯を守るためであって。仕方ない事であって…… でも……


 そんな風にもやもやしていると唯が男の元へ近寄る。


「終わったのか?」

「いや、まだ終わってないよ」


 刀に持ち直し、そのまま男の首を斬り裂いた。

 すると、男の身体が崩れ、灰のように空へ舞う。

 明らかに人間じゃないな…… 幼馴染が人殺しでなくて良かった。しかし、ならあれは何なのか。


「これで終わり」


 首を斬るまでの流れには一切の躊躇はなく、手早かった。

 今まで自分が知らないところでこんな事が起きて、こんな事をしていたのか……


「お前詳しく説明しろよ」

「わかったよ、とりあえず家まで来て」


 詳しく知りたい。何に巻き込まれたのか。


次回はざっくりとした世界観の説明いれなくちゃって思ってます。

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