第0話 私の世界は普通ではありません。
「なんだこれは。」
一般人としてこの世に生まれ、ユナイフ・アシナと親から名を貰い何不自由なくすくすくと育った。
物心ついたころに他の友達とは違い手の甲に紋様があることを知り、不思議に思ったが気にも留めずに遊び続ける日々を送りつづけた。
四歳の頃、近隣の王国から手の紋様が実は勇者の証拠だということを知らされた。
天啓だとかわけの分からないことを王国騎士のお偉いさんから言われ、その日から俺の生活が一変した。
それまで住んでいた場所を強制的に離され、英才教育を施されるようになり、勉学では他国の言語や人語とは関係ない魔族語を学び、各国の暗号の解読方法まで学んだ。
戦闘訓練では深い傷が付こうが骨を折ろうが回復魔法で治療されすぐに訓練に復帰するという地獄が待っていた。無論、仮病で休むことなどできない。
理由?回復魔法でどんな病気でも一発で治癒するからさ。優しい顔して治療するその回復士は俺から見れば悪魔そのものだった。
そんな生活を十年続けた。泣き喚けば体罰、サボれば不眠不休で訓練という過酷を乗り越えて。
サボった後の訓練は強化魔法を使って百キロある岩を意味もなく運ばせるというものだったから一度それを経験したあとサボることはなくなった。
そんな生活を送っていると魔族を監視している騎士団から近々戦争が始まる可能性があると知らせが届いた。
王国は先手をきるとのことで勇者である俺を筆頭とし、魔族討伐軍を建立させた。
だがそのためには物資が足らないとのことで目的遂行のため、必要物資を調達するために首都へ向かった。
道中敵にあった際に戦い慣れするためという理由つきだったため物資を王国に運んでもらうことを提案したが怠けていると言われ騎士団・王国幹部の人間、果ては王本人からも言われ拒否された。
結果、物資調達班としてそして
そしてその道中、ゴブリンの集団に襲われた。
背後からの奇襲を受け一瞬驚嘆が背後から聞こえたが態勢を整え
と思ったら唐突に視界が暗転し、目が覚めたら視界に異常を発見した。
目の前でニョロニョロ動く物体を発見したのだ、姿はまるで蛇の尻尾だ。
すぐに剣を構えようとしたが左腰に差してあった剣がないことに気付く。
腰元をみれば鞘に収まっている筈の剣が無く、それどころか自分の着用している鎧が違うことに気付いた。
さきほどまで自分の着ていたのは赤を基調とし黒の縦ラインが入った、それこそ騎士が着ていてもおかしくない鎧を着ていたのに白を基調とした衣服に変わっていた。
「俺の鎧は!?」
鎧ですらない自分の服装に思わずびっくりしてしまう。
そこでハッと気づく。
目の前の物体がこうしてる間にも攻撃準備をしているかもしれない。
考えると同時に視線は得体の知れぬそれに向かっていった。
しかし、蛇のような物体は以前蠢くだけで攻撃を仕掛けてくる気配がない。
だが、視界に入れた「尻尾」を再確認すると同時に全身に鳥肌が立った。
同時に一回転する羽目になったのだが、悟った瞬間受け入れ難い事実が発覚する。
受け入れたくない、だがそれが真実なのだろう、自覚すると同時に手足が震え、動悸が早くなる。
本当は一番初めから気付いていたのだ。なにせ自分の肌の色が黒いのだから。
自分の服装、「それ」の発見、自分の肌の色から推察し一つの答えを見出す。
「お、俺もしかして魔族になったのか・・・。」
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自身の体の変化を受け入れはしたが、鏡も何もないので現状はいったん放置することにした。
まずは他者を見つけるために歩くことにしたが自身のいた石造りの部屋には出口が一つしかないため、仕方なくそこから出たのだが。
「疲れた。」
絶対に誰とも会わない。
出口を出て人探しを開始するとともに目の前に見えたのはただ、延々とまっすぐ続く通路だった。
通路の周囲は自分がいた部屋と同じく石造りでできており、その壁にはご丁寧に松明が灯してあった。
松明が灯してあることを推測するに何者かの陰謀であることは瞬時に悟った。
一歩踏み出すのに勇気が必要だったが歩かなければ意味がないため仕方なくその一本道を歩くことにした。
だが、歩けど出口には到着しない。
まっすぐ見る先には出口らしき光は見える、時間的に30分ぐらい歩いているのだが一向に着かない。
変わり映えしない景色を見るほどつまらないものはない。
トラップに注意しながら考察し歩く。かなり根気のいる作業だが続けなければ死ぬ可能性があるため慎重になる。
そう言った行動をしながら長時間移動したため確認できたことがある。
目指している場所はまず間違いなく外だ。
さきほどまで光っていた出口が今では光らず真っ黒の状態で見える。
どれだけ歩いても変わらないため一度その場所で休むことにした。
「本当に疲れてしまったなぁ。・・・あいつら今なにやってんだろう?」
はぁ、と溜息をつきながら言葉を漏らす。
あいつらとは別に騎士団のことではない。前世の俺のことである。といっても前世の俺は大したことはないただの農業者だった。
王国のためにその一生を農業に費やし、そして畑を耕している最中に心臓の発作で倒れ享年43で亡くなったのだ。
税を納めるだけの毎日に癒しを与えてくれたのが畑仲間だった。彼らを自宅に招き共に手料理を振舞いおれを堪能する毎日は冒険者のいう宝物よりも大事な宝物だった。
そこでハッと気づく。
少し頭がボーッとする、どうやら昔を思い出しながら眠っていたようだ。
頭をぼりぼり掻きながら立とうとすると「コツン」と掻いている爪に何かが当たった。
触診することで理解する、角が生えていた。
頭部の逆側を触ってみると同じように小さい角があるようだ。
一層人外であることを理解する要素が増え寝起きから落胆してしまう。
「悔やんでも仕方ねぇ。歩くか。」
また、歩き始める、太陽であろう光差すその出口に向かい自身の未来を掴む一歩とするために。