出会いと別れ。
お久しぶり過ぎて忘れられてないかな?
私は何も見えない
何も聞こえない
何も感じない
そんな濃い霧の中からいつのまにか存在し気がつくと自分を認識できる自我を得ていた。
何がきっかけでどんな理由があって生まれたのか。
私は何も思わず、何も考えず、何も行動しない。
だから目的はない。
自我が芽生えたあの日からどれ程の月日が流れただろうか。
私にすらわからない。
興味もない。
霧は日に日に濃くなり続けようやく変化が訪れる。
感情が芽生えたのだ。
憎悪、憤怒、苦痛、嫉妬、絶望、堕落、疲弊、虚無、破綻、嫌悪、惰性、軽蔑、挫折、卑劣、屈辱、不浄、破滅、不合理…。
多くの負の感情だけが私の全てとなっていく。
あらゆる負の感情を味わい尽くし最後に残ったのは何か。
「あー…。退屈だ…」
どれだけ憎みしみ、怒り狂い、踠き、叫んでも晴れることの無い負の感情。
そんな感情を繰り返し繰り返し味わい続ける事でそんな感情に私は慣れてしまった。
怒りは怒り。
憎しみは憎しみ。
それ以上でも以下でもない。
むしろ誰に、何に向けるべき感情なのか。
どうでもよくなってしまった。
そうか。
私は飽きたのだ。
全てに飽き飽きしてしまったのだ。
そんな時だった。
1人の少女が私のもとにやって来た。
「これはこれは珍しい霧じゃないですか」
誰に話しかけているんだ。
「ここまできて何も無かったらどうしようかと思いましたけど、なかなかいい土産話ができそうです。ちょっとこの場所を借りるけどいいですか?」
借りる?
「返事がありません。しばらくここに居座らさせてもらうからよろしく!」
よろしく?
その少女はそこに住み着いた。
何度もこちらを向いては話しかけ、そして食事をし本を読み寝る。
「もう3カ月経ったけどそろそろ私と話す気になってくれたかしら?」
「誰に話しかけているんだ?」
「今日も駄目……!えっ!通じた!?」
何に驚いている…。
何だその目は?
少女は目を大きく見開き手を挙げ喜ぶ。
「何をしている?」
「何を?初めて意思疎通が出来たんです!喜ぶにきまっているじゃないですか!」
「喜ぶとはなんだ?」
「喜ぶってのは…嬉しいんだよ!」
「嬉しいってなんだ?」
「嬉しいは…笑顔になる?」
「笑顔ってなんだ?」
「笑顔って言うのは…こんな顔になるんです!」
少女は笑って見せた。
「なるほど。なるほど」
「今目覚めたのかしら?」
「目覚める?」
「んー。今起きたのかって事」
「起きる?」
「面倒くさ!」
「面倒くさ?」
少女は私に色々な事を教えてくれた。
負の感情しかなかった私に知る喜びを与えてくれた相手。
初めて私の友となった相手。
その名をエリザ・ロイス。
エリザとは何度も何日も会話しその度に新しい発見があった。
「そう言えば君に名はあるのかな?」
「名とは、その個体をあらわす固有名詞のことか?」
「そんな感じ。私はエリザ・ロイス。君は?」
「私には…ナイ」
「ナイって言うのね!」
「違う。持っていない」
「名前が無いの?」
「多分そうだ」
「それなら私がつけてもいい?」
「問題ない」
「それなら、無いの反対。アルにしよう!」
「私はアルか?」
「そう!今日から君はアルよ!」
「そうか。私はアルか」
エリザは私がどこから生まれて何なのか聞いてきたが私にもわからないので答えられなかった。
そしたら。
「なら調べてみよう」
なんて言いだすと直ぐに行動に移した。
「ちょっと周りを探してくるね!直ぐ戻るから!」
「わかった。私はここに居る」
エリザは荷物を置いて何処かへ行ってしまった。
それから何日だろうか。
エリザは帰ってこなかった。
退屈に慣れている私にとって時間などあってないようなもの。
そう思っていた。
しかし今の私は退屈を嫌っていた。
エリザはどこに行ったのか。
何をしているのか。
帰ってきたら何を話そうか。
どんな事を教えてくれるのか。
そしていつ帰ってくるのか。
そればかり考えた。
しかしエリザは今だに帰ってこなかった。
それから私は考えるのをやめた。
彼女はこの近くに居るはず。
彼女はすぐ戻ると言った。
約束は守るためにあると彼女から教わった。
しかしエリザは戻ってはこない。
約束を破った。
なぜ破った。
何が彼女にあったのだ。
アルは約束を破られた怒りよりもエリザの事を心配した。
私はここに居ると言った。
けれどそれよりも大切な事がある。
退屈な時間はもういらない。
私はここに居たくない。
アルは慣れ親しんだこの場所から離れる決心をする。
しかし、ここからどうやって動けばいいのか分からない。
エリザからも教わってはいない。
アルには一歩を踏み出すと言う概念がなかった。
それでもアルは踏み出す。
エリザを探すために。
出来る限り素早くそして力強く地面を踏みしめ前に進む。
その為には何が必要か。
脚が必要だ。
速く走るためにはどうすればいいのか。
その問いには2本脚より4本脚。
障害物を避けるためにはどうしたらいいのか。
その問いには体積は大き過ぎず、小さ過ぎない身体。
彼女を見つける為には何が必要か。
その問いに対して出した答えは。
彼女の姿を遠くからでも見つけられるための眼を。
彼女の声を聞き逃さないための耳を。
彼女が残した痕跡をみつけられる鼻を。
彼女を探すために高いところに登るための爪を。
そして彼女の敵を排除し守るための牙を。
アルは求め続けそして姿を変えていく。
彼は後に黒煙の邪牙と呼ばれる姿に。
居場所を離れた数日後、ようやくエリザのもとにたどり着いたがその時彼女は何をしていたのか。
「ようやく出て来てくれたのね!」
「……何をしているんだ」
「ご飯をつくってるのよ」
「あれからずっとか?」
「そーよ」
「なぜ?」
「あなたがきっとお腹を空かせて探しに来てくれると思ったから!」
「私は腹が減ったことはない」
「そうなの!?」
鍋に何が入っているのかわからなかったが鼻が爆破しそうな強い刺激臭をしていた事は覚えている。
それと腹が張り裂けそうな味だった事も。
それからアルはエリザの側を離れなかった。
彼女の敵を排除し彼女の笑顔を守り続ける為に。
それから旅する中でどーしても反りの合わないクソ猿が入って来たが彼女が満足するなら私は我慢する。
旅をやめ家に帰る際も我々は彼女のもとを離れる気は無かった。
彼女はいけ好かない男と恋をして結ばれ子供が産まれた。
子供にはよく悪戯されたが彼女が笑顔なら私はそれで満足だった。
子供な大きくなるにつれて彼女は出歩く事が少なくなった。
それでもたまに木の下で遊ぶこともあったがそれも次第になくなっていった。
「ねー。アル」
「なんだ?」
「もし私が居なくなったらあなた達はどうするの?」
「さーな。そんな事は知らない」
「元の場所に帰るの?」
「それもいいかもしれない。私は十分楽しんだ」
「そう」
「なぜそんな事を聞く?」
「あのね…。私の最初で最期のお願いを聞いてくれないかしら?」
エリザからは今まで1度も何かを頼まれたり命令された事はなかった。
私は私の為だけに行動してきただけ。
「最後と言わず出来る事はする」
「ありがとう。それならもし、私が居なくなったらあの子の事を少しの間、守ってくれないかしら?」
「わかった」
「でもあまり頼り過ぎてもあの子のためにならないから…3度。3度だけあの子が頼ったら助けてあげて」
「3度だな」
「えぇ。それが終わったらあなたの自由にしていいから」
「私の自由?」
「そう。私の為ではなく。自分の為に過ごして欲しいの」
「それならエリザを探しに行こう。あの時みたいに居なくなったエリザを探しに行った時のように」
「探せるといいね」
彼女は笑ってそう言った。
それから彼女は居なくなった。
遠くに行ってしまったように私は感じた。
遠くにいるのなら全力で追いかけよう。
だがその前に彼女との約束を果たさなければ。
私がこの子の側を離れるまで彼女はどこかで食事を作りながら待っていてくれるだろうか。
アレをまた耐えるのは嫌だが我慢しよう。
そんな事を考えるのは彼女との約束を果たす日まで我慢しよう。
そんな別れと出会いがあった事を知るのはオーリスの目の前に本来の姿を現した元黒騎士ただ一人だった。
ようやく投稿できました。
いつのまにかこんなに日が経っていたとは。
嘘つかな猫です。
本当にごめんなさい!
登録解除せず待っていてくれた読者さまに感謝しながらこれからも頑張ります!
それでは次回!
「裏切りのファウス」
を楽しみにお待ち下さい!笑笑




