家族とは
何度も書き直してみましたが、読みにくかったらすみません。
今後改善していきたいと思いますのでご勘弁ください。
「お帰りなさいませ。オーリス様」
「ただいま。これ頼まれていたお土産ね」
見慣れた相手が先頭に立ち、数人の使用人を従えて出迎えられる。
「ありがとうございます。ファウス様とご一緒だったのでは?」
ファウス?___誰それ?
脳内花畑の鼻息荒い奴なら誰かと連絡が取れた瞬間、凄い勢いで飛んでいったがそいつのことか?
減給確定だな。
「会議は如何でしたか?」
「まぁー。なんとなく・・。そうだな・・・」
「どうせまた、寝ていて何も聞いてこなかったのでしょに?」
「何故それを?!」
「やっぱりそうでしたか」
「はっはっはっは・・。それよりこのお土産美味しいらしいよ!」
なんとか誤魔化す。
「この地を治める王としてもっと立派に独り立ちしてもらわなければ・・・オイオイ・・・」
「泣かなくても・・・わかった。わかったから。頑張るって。ねっ?!」
「その言葉、聞き飽きました!それではこれから、頑張っていただきます」
「何を????今、帰ったばかりで疲れているんだけど・・・」
「オーリス様がよき王になるためなら私は手段を選びません。さっそくですが使用人を十人ほど増やして下さい」
「どーぞ。確かに人数がいつの間にか少なくなっている気がするし。人選は・・・お任せしますうぅーっ!」
突然、背中を蹴られて部屋に入れられた。
「そうはいきません。好・・・それなりの基準に達しているかについては選別を済ませておりますので」
「なんか言いかけなかった?」
「何も問題はありません」
「問題―」
「それでは宜しくお願い致します!バタンッ」
無理矢理応接室にぶち込まれ、扉が閉められ、目の前には女性たちが並んでいる。
またこれか・・・。
「「「「「本日は宜しくお願い致します」」」」」
「一人目から参りますので、ご準備をお願い致します」
部屋の中にいた使用人の1人が顔写真付きの履歴書を机の上に出し、椅子を引く。
この状況ではさすがに逃げられないことを悟り、渋々指示に従い、大人しく席につく。
椅子に座るとすぐに1人の女性が前に出た。
今回は十四人か・・・。
前に出た相手の身なりはしっかりしているというか煌びやかに着飾っている。
他の人達のほとんどがそうだ。
「毎回思うんだけどさ、面接にくる人達って働く必要ないよね?」
「働かざる者、食うべからず。です」
そうなると、俺はいつ食事を取れるのだろうか・・・。
働こう。
ご飯のために。
少し休んだ後で。
右ひじを机に置き、右手に右頬をのせて履歴書に目を通すフリをする。
「あのさ、ここをよーーーく見て下さい。マリーさん。こーこっ」
出された履歴書に書かれた親族名を指さした。
「経歴のここ見て。明らかに両親貴族でしょ。なんで使用人やるの?おかしくない?」
「魔王様たる者、細かいことを気にしてはいけません」
面接って細かいとこ見る仕事だと思うのは俺だけだろうか?
むしろ気にしないなら面接必要無いよな?
2人のやり取りを無視して目の前の女性が名前を名乗る。
「お初にお目にかかり光栄です。ヘスタ・ステイニーと申します」
そう言うと着ている物を脱ぎ、きわどい下着姿のまま着席した。
見慣れたから何とも思わないが、初めて面接やった時は鼻血が出たな。
多分、武器等は持ち込んでいないというアピールなのだろう。
この距離で攻撃されて殺されるとでも?
周りの人達は心配性だからあり得るな。
「これこそ意味なくないか?」
「オーリス様の(好み)ためです」
「俺の(安全)ためなら仕方無いか」
大切にしてくれるのは悪い気はしないがやり過ぎだとは思う。
「もっと俺を信頼してくれよ」
「おや?・・・オーリス様に信頼される要素があるのですか?」
マリーはオーリスを見下す。
「そんな目で見ないで」
「失礼しました」
逃げられないのなら、さっさと済ませよう。
「まずは簡単な質問から。ヘスタさんは・・・」
「働きたいです!」
まだ何も聞いていないけど、やる気だけは十分伝わってくる。
「・・・そうですか」
「はい」
ニッコリと笑う。
断わりづらいなー・・・。
合否はその場で決めるのがフフル式らしい。
どうして俺の知っている爺、婆はみなせっかちなんだ?
後で合否を通知すればいいのに。
不合格と言った時の相手の顔は見てられない・・・。
合格ならそのまま住み込んでもらい、不合格ならお帰り頂く。
「次の質問です。本当に自分の意思で働きに来たのでしょうか?」
「・はい!」
ん?!
ちょっと間があったようなきがするが、気のせいか?
「よし、本当の目的は?」
「っ・・・」
「無言か」
だいたいの予想はついている。
多分、フフルが何かを吹き込んでいるに違いない。
「・・・・・」
「大丈夫。フフルより俺の方が偉い。俺に逆らうのとフフルさんに逆らうの、どちらが利口だと思う?」
「・・・・・。」
口を開いてくれないか。
「私の命令が聞けない、そんな反抗的な相手はいりません。お帰り下さい」
「!!!」
「オーリス様それは・・・」
マリーもオーリスの言葉が意外だったのか慌てている。
マリーさんの動揺から見て、黒幕がいるのは間違い無さそうだ。
いるとしたらやはり、フフルさんが仕組んだと考えて間違い無いが、フフルさんが逆らうとか考えられない。
多分俺の事を思って面倒な具合になっているんだろうなー。
そうなると原因は自分ってことになる事にオーリスは気が付いた。
履歴書を何度も見直し、相手を見る。違う履歴書も見直し、控えている相手を見る。
今回も貴族が多い。
そうでない人も3人いるがその基準は何だ?
貴族以外が混じっているから金とか権力とかは関係ないか。
権力?一番の権力がここにいる。
財政難?
ないない。
それはない。
なぜなら頭の中身と、流れる血、全てがお金で出来ている奴が俺の領地で働いてくれている。
だから。
財政難には。
絶対に。
ならない。
破綻は絶対にない。
これは絶対。
まー、念願の不労所得という名のお小遣いはまだまだ頂けそうにないけど。
そうなれば外見の容姿、性格の内面?
フフルさんがそんな事を基準にするとは思えない・・・。
なぜなら、少し前にとんでもない化け物の写真を持ってきてその相手を嫁にしろとか言いだした。
強靱な肉体を持ち、潜在能力もかなり高い子を産んでくれるとかって理由で。
家を継ぐという事に関して言えばフフルさんの選択は間違いではないけれど、そんなのが嫁では俺の強靱な心までも破壊されると言ってさすがに断わった。
今回は化け物級がいないだけ・・・・あれ?
なぜ化け物級がいない?
こちらとしてはいない事に越したことないけれど、実力で選んでいるなら化け物級がいないことは不自然じゃないか?
なぜならこれは結婚相手探しではなく、使用人を選ぶだけだから。
思い返せば、今まで来た相手全てが容姿端麗、整いすぎていることにオーリスは気が付いた。
仕事が続く、続かないは置いておく。
「オーリス様。お気分でも?」
「ごめん、何かが・・・もう少しで。少し話しかけないで」
「・・はい」
机に突っ伏して考える。
もう少しで答えが出そうだが、何かが足りない。
決め手になる何か・・・・。
もう1度、頭の中で今考え出てきた事を整理する。
ただの使用人なのだから、フフルさんなら使える相手を選ぶはず。
護衛役も担える相手、特殊な力があり、俺またはこの領地に益をもたらす相手。
フフルさんは必ずそこを重要視する。
そして何より。先に選定して、目の前の女性を残したのは過保護なフフルさん。
なら万が1の確率すらも考えて、逆に化け物級を揃えて俺が手を出さないような相手を使用人として選ぶのではないだろうか?
確かに貴族の子を送り込んで恩やコネを作ろうとする阿呆みたいな貴族は残念ながらどこにでもいるし、それはそれほど珍しいことではないが・・・。
何かに気が付き、履歴書をもう一度見る。
「あー。なるほど」
「オーリス様どうかされましたか?」
「見えた!!」
「!!!!」
俺の一言に周りは響めいた。
「透けて・・いました・・?」
下着の事じゃないから!
フフルさんの考えが見えたって意味!
事実、若干ではありますが透けているのは確かなので否定はしないけど。
今は、そんな事どーでもいい。
今回は俺の読み勝ちなのだからっ!
「あれれ、長女の割合が多いですねぇー」
マリーの耳が一度ピクリと動いた。
残された履歴書をみて納得する。
3人以外の貴族の子は全員が長女。
それから考えられる事は1つ。
腐ってもここにいる自分は末席であっても魔王の1人。
魔王の妻になれば、妻側の家系はこの地での地位を約束され続ける。
万が一、長女以外が妻になって仕舞っては、その家系の長女の立場がなくなるので長女自ら来たか、それとも送り込まれたか。
親の命令か自分の意思かは分からないけど大変だな・・俺!
しかし、目の前の相手は全員力量的にも文句はない相手ばかり。
貴族ではない3人は特に高い能力を持っているのはわかる。
この中の相手が誰であっても問題無いという訳か。
フフルさんのことだから初めからそれなりの力を持っている優秀な人だけを残したのだろうなー。
「余計なお世話を・・・」
父と母が亡くなってからオーリスを育てたのはフフル含めこの城で働いている使用人全員が父親、母親代わりとなり厳しく育てられた。
そのお陰でなんとか亡き父親の後を継いで魔王の称号を得る事が出来た。
それはフフルさん達みんなのお陰と思って今でも感謝しているけど今回はさすがにありがた迷惑。
怒りの感情は全くないが、目的を知ってしまうと力が抜ける。
「あの。不合格でしょうか?」
不採用だろ?
何に対しての不合格と聞いて来たのかは察しが付く。
使用人が足りておらず、みんなに負担をかけているのは事実で、人手不足。
断わる理由がない。
「働きたければどうぞ。フフルさんは厳しいので有名ですから。それと面接は面倒なのでみなさんも働き
たければどうぞ、残って下さい。宜しくお願いします」
「頑張ります!ありがとうございます!」
マリーの耳が二度動いた。
「いつも、苦労をかけます」
「いえ。問題ありません。お仕事お疲れ様でした」
「そうだ。お土産買ってきたので後で食べて下さい」
「ありがとうございます」
「木天蓼クッキーDX(魔王様方御用達品)ですよ」
マリーの耳が三度動いた。
オーリスは目の前で喜んでいる集団を見て思う。
これだけ人数が増えても、一ヶ月もすればフフルの厳しい訓練に悲鳴を上げてほとんどが逃げ出すだろうと。
実際、フフルさんを除けば逃げ出さずに俺が産まれた時から残っているのはマリーと他4名のみ。
さすがにこの城の広さで使用人が少なすぎだとは思っていたが周りからは特に増やしてくれとは言われていない。
全員が全員、優秀すぎる。
それが問題だ。
優秀な人材が周りにいると、一人は必ず楽を憶え、堕落していく。
その成功例が・・俺だ。
もしかしたら俺の思い違いで、ただ単にフフルさんの指導を受けに来ているのかも知れない。
フフルさんは昔、かなり有名だったらしいが、何で有名だったのかはいまだに教えてくれないし、本人以外に聞いても誰も教えてくれない。
フフルさんが口止めしているのだろうから、聞かれたくない事なのだろう。
それに何故かフフルさんの元で自分の使用人を鍛えて欲しいとお願いされることはよくある。
むしろフフルさんをお金や、土地、他にも貴重な物と交換して欲しいと言ってくる者好きもいるが、譲る気はさらさらない。
嫁として欲しいというなら別だが、フフルさん本人がどこにも行く気はないようだし。
そのせいか、最近特に子供はまだか、相手はいないのか、この子がいいから子供だけでもと五月蠅さが増している。
ようやく面接も終り、これから何をするかと言えばだらだら過ごす。
今日は働き過ぎた。
来年分くらいは働いたと思うし、いいだろ。
ドアを開け、いつも通り静かにこの場からの脱出をはかる。
「オーリス様」
___見つかった。
足下には小さな使用人。
「見逃してくれるよね。サーシャ。あっ!これ買って来たお土産ね」
サーシャに近づき有名菓子店の箱を手渡すと目を輝かせてサーシャは箱を抱きしめた。
「ありがとうーございます」
買収完了・・・笑。
子供なんて御菓子をあげとけば間違い無い。
チョロいもんだよ。
ってファウスが教えてくれた。
そのころファウスは・・・・。
「ん?」
「どうしたの?ファウス?まだ・・・途中・・・・他の女の事は考えない・・・で」
「誰かが俺を呼んだような?」
「私が。・・・呼んでる」
「君の鳴き声は数時間前から聞き続けているよ。多分、気のせいだなっ。それじゃー再開、再開っ!!食べちゃうぞー・・ガォ―!!」
「きゃっ。ハート!」
ってな感じで過ごしているのかもしれない。
大人の事情はさておき、サーシャという目の前の使用人について少し、ほんの少し語ろう。
この城、最年少の小さな使用人。
歳は今年で十歳だったはず。
サーシャだけは面接はしておらず、丁度魔王になれるのか、なれないのかと周りが気を揉んでいたときにフフルさんがどこからか連れてきた子供。
初めて出会った時はまだ歩くことも出来ずにフフルさんに抱きかかえていたので、その姿を見てフフルさんの隠し子かと思ったがどうやら違ったようでどこから来たのか分からない。
サーシャに聞いても覚えていないそうだ。
一番古い記憶は、俺に抱かれていた時の記憶らしく、最初は俺が父親だと思っていたらしい。
正直、自分の子のように思ってはいるので万が一、億が一でも変な虫が近づいてきたなら、文字通り持てる全ての権力と財力と魔王としての力を根刮ぎ使ってこの世から消してやると、結構本気で思っている。
だから一緒にいてくれる俺達を家族と思っているので、お手伝いできることはしたいと申し出て使用人扱いにしているようだが・・・それでいいのだろうか?
フフルさんもサーシャもそれで納得しているので俺が口を挟むことでもないと思いそのままにしているけど。
そして今ここで俺の足にしがみついている。
妹のように可愛がっているのだから今回は見逃してくれるに違い・・・。
「フフル様!オーリス様が逃げようとしています!!!!」
「サーシャ!捕まえなさい!」
フフルさんの躾は一級品だな!
簡単に父親の魔王様を裏切るんだから!
お菓子を返せっ!
誰だ!チョロいって言っていた奴は!
「ハクションッ!風邪引いたかな・・・」
「何時間も裸だから。来て。暖めてあげる。ハート!」
フフルさんの指示が聞こえて来る前に俺を捕獲しているとは腕を上げたな。
大切なお菓子の箱も決して話さない。
やはりここの使用人は優秀、優秀。
優秀だからこそ困ることもある!
「フッフッフッー」
しかし、今は御菓子に夢中で手に力が入っていない。
ハッとした顔でサーシャはこちらを見た時にはすでに、サーシャの手をヒョイッと払われていた。
それに気が付くとサーシャはすぐに床をヘコませるほど足に力を入れて全力でオーリス目掛けて飛んでいった。
サーシャの行動に驚きもせず、悲しげにオーリスはその場に立っていた。
そんな早さで、俺を捕ま得る事は不可能。可能性が低いではなく、可能性は皆無。
・・・でも避けたらサーシャが壁に激突する事になるのは目に見えている。
なぜならサーシャは目を瞑っているからだ。
そうなると御菓子の箱もグシャグシャになること間違い無し。
サーシャの涙をこらえる顔が目に浮かぶ・・・。
サーシャの行動はオーリスの考えを見越してのダイブ。
当然自分なんかが勝てる物が何一つ無いことをサーシャは理解している。
だからこそフフルさんから多くの事を学んでいるサーシャはオーリスの弱点も知っている。
オーリスはそのままサーシャを優しく受け止め、捕獲された。
確かに逃げられたが、自分がこの場から逃げてしまった後のことを考えるとその場から逃げることが出来なかった。
当然、サーシャもそんなオーリスの優しさを理解し、信頼しているからこそ目を瞑って全力で突っ込んでいる。
「サーシャはいつから自分を犠牲にする女になったんだ。俺は悲しい・・・」
「ご安心下さい。オーリス様以外のために自分を犠牲にすることはありませんので」
サーシャの左手はもう一度オーリスを掴み決して離さなかった。
そして右手の御菓子箱も当然はなしてはいなかった。
正直、無理矢理ふりほどくことも出来たが、そんな事をすればサーシャの腕が確実にもげてしまう。
ファウスに言われた事を思い出し、今日は大人しく久々に仕事をすることにした。
サーシャの相手をしているとすぐにフフルさんが飛んで来た。
「よくやりましたサーシャ。皆さんでお土産をゆっくり食べてきなさい」
「ハイっ」
俺よりフフルさんかよ。
少し寂しい気はするが・・・。
フフルに仕事部屋に連行され書類の山と格闘する。
しばらくするとサーシャが御菓子の皿を持って入って来た。
丁度小腹が空いていた。
サーシャは目の前のソファーに腰掛けこちらを見ながら御菓子を頬張っている。
俺への差し入れじゃないんだね・・・。
笑顔でこちらを見るのはいいが、こぼれて床に落ちたそれは誰が掃除するのだろうか?
別に構わないけど。
仕事と言っても署名欄に自分の名前を書く簡単な仕事を10000回繰り返すだけの単純作業、流れ作業。
仕事慣れしていないのですぐに右手に痛みが走る。
「クソッ。右腕に痛みがっっっ!このままでは仕事が___」
「大丈夫ですか?!ヒール!!!!」
「・・・」
「痛みは?!」
「治ったよ・・・」
「そうですか」
1時間後
「腕に痛みが!ここが限界___」
「ヒール!!!大丈夫ですか?」
さらに1時間後
「今度は指に激痛が!これはもしや呪い___」
「ハイヒール!!!」
「・・・・」
「これで大丈夫です!もう少し頑張って下さい」
更に1時間後
「頭が!破裂す___」
「エレメンタルヒール」
「そんなものまで憶えたのか・・・」
「痛みは、どう?!」
「大丈夫だ・・・・」
痛みを理由に仕事を辞めようとしたが、無理みたい。
この程度の痛みで仕事を中止させてはくれないんだな・・・。
サーシャの治癒魔法であっさりと痛みを取り除かれ笑顔で椅子を引かれ、すぐに仕事再開。
これは仕事ではなく、拷問ではないだろうか?
「終ったぁ・・・」
充実感は確かにあるが、二度とごめんだ。
カーテンを開けると既に日が昇り始めてる!
サーシャを見ると眠っていた。
こんな時間なら、普通寝てるよな。
つまり…。
人間の言葉を借りて言うなら。
「神が逃げろとお告げになられた」
ゆっくりと窓を開けたと同時に、ドアが開いた。
「おはようございます」
「ヘスタ・・・。何をしているの?」
「「「「「おはようございます」」」」」
日が昇ったばかりだが、彼女たちはいつから外に立っていたのだろうか。
何人か寝てるような気もするが。
列を成して朝から待機しているとはご苦労様です。
フフルさんの命令だろうけど。
窓を閉めようとした時、聞き覚えのある声がした。
窓の外にも知った顔が。
「おはよう生涯の友よ」
「お前、だれ?」
「いやいや。あなたの心の友と書いて心友、ファウスだよ」
「ファール?残念だがどこかに飛んでいったボールのような名前は、俺の知り合いにはいない」
「ファウスだよ!ファールってなんだ?」
自分で言った言葉だが何なのかわからない。
なんだろなファールって。
たまにこんなことがあるけど、そんな細かい事を気にする性格はしていない。
「それで昨日はどうだった?」
「最高に決まってるだろ。なにしろナンバー1だからな!」
無言で窓を閉めるついでに、ファウスの指をおもいっきり切り挟んでやった。
窓の外で騒いでいるが知ったことか。
溜息を1つついて、大人しくこの部屋を出た。
下に降りると食事をしながら本日の日程が説明されているが全く頭に入ってこない。
なぜみんな下着姿で食事している?
日程の説明より今目の前の光景を誰か説明してくれ。
ちなみに下着の色は黒で統一され若干透けている。
悪く無い、悪く・・・いやいやそれもそれで・・・。
まさかファウス病原菌に感染したか?!
「なにか失礼なこと考えてないか?! ところでマリーさんの目が心臓を凍らせるほど冷たい気がするんだけど」
「気のせいです」
「それでこの状況の説明はないのだろうか?」
「黒は好みではありませんでしたか?オーリス様」
「そうじゃなくて。なぜ下着姿でみんな一緒に飯を食っているのかと聞いたのだけれど」
「それはもちらん、フフル様の指示です」
「・・・」
フフルさんは何を考えているんだ?
まさか?!
本当にファウス病原菌が蔓延しているのでは?!!
・・・そんなわけないか。
それよりいつの間にか騒がしい相手が1人、紛れ込んでいる。
城の警備はどうなっているんだ!
「そうそう・・・モチャモチャ・・うちの親父が・・モグモグ・・久々に・・・ゴックン。・・・dびおyせ・・・来ないかだって」
食うなら食う、話すなら話す、どちらかにしろ!
「話しながら・モグッ・食事を・モグッ・する・ゴクンッ・なよ」
まったく礼儀を知ってもらいたい。
「オーリス様」
「ん?」
激しい勢いで食事を胃袋に流し込むファウスを見て新人使用人がポカンっとした顔でその姿を見ている。
「お腹いっぱい・・・。所でこの下着姿の女性達は・・・お前の趣味か?」
「趣味と言えば、否定は出来ないが。俺の指示ではないのはたしかだ」
「失礼します。お行儀が余り宜しくありませんね。ガゴンッ!!」
テーブルにファウスの顔がめり込む。
「ファウス様。食事はお静かに」
「・・・フフルさん。いらっしゃったのですね」
ファウスにだって手加減はしない。
俺に手加減しないのだから、当然。
「当然です。使用人ですから」
「気配が全くしなかったので」
「使用人ごときが気配を発してどうするのですか」
「ごもっともです・・・ボソ(俺フフルさん苦手だわ)」
「ボソ(俺が得意そうに見えるか?)
「ボソ(ここで偉いのってフフルさんじゃね?)」
「ボソ(俺は前からそう思ってる!)」
「二人で楽しい会話をしているようですが?」
「「あっ・・・ははは・は・・・」」
「あのー。こちらの方はもしかして」
「昨日雇った使用人にはまだ紹介していなかったが。俺の隣で飯にがっついているのがら俺の友達?尻軽のファウスだ。妊娠には十分気をつけるように」
「なんだその紹介!間違いだらけだろっ!」
間違いがあっただろうか?
その場に立ち、襟を正しファウスはもう一度挨拶をする。
「自己紹介が遅れて申し訳ありません。ローレン家、長男、ファウス・ローレンと申します。以後よろしく。こちらが連絡先です。受付時間は、年中無休。二十四時間対応となっておりますので寂しいがありましたらいつでもご連絡下さい」
1人1人に丁寧に膝をついて連絡先を渡す。
「ローレンって?!あのローレン家?!」
「ローレン家の方?」
「ローレン家のご子息様?!」
さすが四大貴族のローレン家様。
有名だな。
お前の父親の名前が。
何名かが静かに胸を盛り直し、下を食い込ませていた。
まー、イケメンだからその気持ちは分からんでもない。
女癖には難があるがそれだけ目を瞑れば地位も財力もあり、そして実力もある。
将来性をみても悪く無い・・と思う。
「ファウス、お前の親父の件は無視していいか?」
「いいんじゃないか?俺には関係ないし」
ファウスの基本は自分に関係あるかないかのそこだけ。
「なら無視するとして」
「どこ行く?付いてくぞ」
「いつものことだが、ファウスはやること無いのか?」
「お前はやらないだけだろうけど、俺は今やれることがないんだよ」
何もしないのだから、俺とお前に違いはないはず!
「領土の近くで争いが起きてないか取りあえず見回るか。それから少し寄り道する予定だけど来るか?」
「オーリス様。仕事はきっちりと行って下さいよ」
フフルさんの冷たい声がプレッシャーとなって肩にヌメリと纏わり付く。
「フフルさん。ご安心を! それじゃっ!」
オーリスはファウスと一緒に元気よく飛び出し、逃げた。
「あんな事、言ってしまったからには最低限の仕事はしておかないと後が怖いな」
領土内を気の向くまま飛び回った。
1人は美女を見つける毎に連絡先を交換し、もう1人は疲れたと言って町村がある毎に休憩をとるので見回りは進まず、太陽は完全に落ちかけこんな時間になって仕舞っていた。
「我が領土は今日も平和だったな・・仕事終了と」
「10分の1も見て回っていないけど」
「見回った広さが重要じゃない、見回ったという事実が重要なんだよ。それに働いた事には変わりない。だから・・・」
「「俺達は何も間違っていない!」」
こんな所だけは意見が合うんだよな。
「しかし、色々見たが、ここだけは本当に何も無いよな」
目の前の領土の境界線となっている部分に川が流れている。
川を挟んで向こうが第四十九席魔王オベルの領土。
あちら側は荒野が広がっている。
こちらは幾分か草木が生えた草原だが結局なにもない。
なんとなく境界線となっている川に沿って歩くと変な集落があった。
「あれは・・・なんだ?」
オーリスとファウスが生い茂る草木から顔覗かせる。
「マジかよ!人間が住み着いているぞ!」
ファウスが叫んだ。
「世界は一つだ。人間だって必死に生きているのだからそんな時もある。それじゃ、帰るか」
「いやいや。一応だけど敵の種族がお前の領土に侵入し、生活しているんだぞ。さすがに見なかった振りをするのはどうかと思うけどな。もしかしてお前の眼球と視神経はあれが一時的に休んでいるようにみえているのか?」
「問題になっていないのだから、問題が起きるまで放置・・・待機。経過観察的な感じでいいだろ?」
「問題が起きたらさすがに駄目だろ。所で見回りに来たのっていつぶりだ?」
「5・・・10・・位前か?」
「10日前?そんな最近来たのに気が付かなかったのか?」
「違う、違う。さすがに10年前なんて憶えてない。俺はそこまで暇じゃない」
「・・・えっ?!」
「ん?」
「10年?10日じゃねーのかよ!」
「俺がそんな真面目に働くように見えるか?」
ファウスはゆっくりと首を振った。
「いや、去年来たか?それは反対側か・・・」
これ以上聞きたくないとファウスはオーリスに手を向けた。
それだけの年月が経ていれば村の一つや二つ・・・。
他にも村や下手したら町なんて物までもあるんじゃないかとファウスは思った。
近くには畑などもあり、安定して生活している様子がかなり遠くからでもわかった。
「あの人数だ。別に被害が出ているわけでもないから放っておいても問題無い」
再びオーリスが帰ろうとすると、ファウスが呼び止めた。
「おい・・あれ?なんか馬に乗った連中が向かってくるぞ」
「人間の仲間じゃないか?」
予想通り村に馬の集団が突っ込んでいった。
「ん?」
馬に乗った人間は剣や弓で村の人間を殺し、家々を焼き払っていく。
暗闇の中、その村がある場所だけ明るさが広がって行く。
「何をしてんだアイツら?仲間割れか?」
「こんな場所で生活している者は悪の手先となった者。神に変わって天罰を下す!殺せ!焼き払え!」
先導者が叫びながら家々を燃やしている。
兵士達は村の男を全て斬り殺し、子供は一カ所に集め、綺麗な女は草むらに連行されていく。
「ひでーことするな。女は世界の宝だと言うのに。全くこれだから人間は。とりあえず殺すか。ってあれ?オーリス?」
「ママー」
泣き叫ぶ1人の少女が母親を守るため母親と兵士の間で手を広げる。
「ママは病気なの!」
「どけっ!クソ餓鬼。1発でも使えればいいんだよ!」
兵士は少女の顔面に容赦ない蹴りを見舞う。
少女は当然蹴り飛ばされ、一瞬地面を離れ、空中を舞い地面に横たわる。
鼻は折れ、口からも血が溢れてくるが少女は立ち上がりまた母親の前で手を広げる。
兵士はその少女の態度が気にくわないともう一度折れた鼻に蹴りを入れる。
それでも少女は立ち上がり、再び手を広げる。
「ヴ・ァ・・ヴァ・・」
それを見ていた仲間から、そんな子供にすら反抗されるのかよと男に対して笑いが起きた。
その笑いに対して兵士が怒りで顔を真っ赤に染め、そして剣を抜いた。
「死ねぇーーー!」
「そうだな。死んだ方がいい。俺もそう思う」
剣を振り下ろした兵士の腕と首が上が宙を舞った。
周りで見ていた兵士達も唖然と頭と腕の行方を目で追っている。
少女は自分の前に立つ背中を確認するとそのまま倒れた。
「その威勢は立派だ。しかし愚かな行為。けど俺は的にはそーゆうの好きだぞ」
「う゛ぁ・・う゛ぃが・・・」
「心配するな。休んどけ」
その言葉が通じたのかはわからないが、倒れた少女はそのまま気を失った。
「ファウスっ!!この女と母親を何とかしておけ。俺が片付けるまでに何とかしないと親父に女遊びの件を報告するからな」
「久々にお前の切れたとこ見たな。・・・本当に昔からこーゆう所はだけは変わらないな」
ファウスは地面に片膝ついてオーリスに返事をする。
「王の望みのままに」
オーリスはファウスの返答を待たずに兵士達にゆっくりと近づく。
兵士達は身動きできず、オーリスが近づくのを許した。
オーリスが目の前にたどり着くと、ようやく兵士達は動く。
「おっ。おいっ!お前はなんだぁー!」
見知らぬ相手への恐怖を感じつつ、兵士の1人が震えた声を上げる。
それと同時に剣を抜いて一斉にオーリスを襲った。
右手一本動かし、兵士の首をまとめてはね飛ばし、さらに後方で待機していた連中らに向けて稲妻を落とし、まとめて吹き飛ばした。
それから1人だけ遠くで偉そうに座っている男の目の前までオーリスは歩く。
「おッお前は、だっだだれだ!」
「今、この状況で自分の命よりも、俺が誰であるかが重要なのか?」
誰に殺されたのか知ったところで無意味だというのに、人間とは変な生き物だな。
不思議に思ったが一応オーリスは名乗る。
「そうだな・・・。一応、魔王って事になっている。魔王と言っても末席のドンケツのビリで一番の下っ端の屑だけどな」
「魔・・王・・・?!」
男の体はガタガタ震えていた。
「エニス様っ!」
1人の青年がこちらに剣を向けて走ってくる。
コイツの仲間か?
まぁー、どうでもいいことだ。
右手をスッと挙げて剣を握る青年に向け手首を振る。
一瞬黒い何かが、静かに表れ消えた。
そして青年の両腕は弾けて消えた。
「うぁぁぁぁぁぁっ!!」
青年は突然両腕を失ったせいでバランスを崩し地面に転がり、悲鳴を上げる。
目の前の男は発狂しながら剣に手をかけたので首を吹き飛ばした。
「色々聞きたかったのだが、1人いれば十分か」
両腕を無くした青年に近づき、頭を持ち上げ青年に話しかける。
「どこから来た?人間」
「クッ・・」
質問に答えなかったので左足を踏みつけ骨を砕き、曲がってはいけない方向に足を捻る。
「どこから来た?人間。次は腕・・・はもうないか。仕方が無いから足を一本引き抜こう。その次は目を鼻を口を耳をそぎ落とすつもりだが最後まで耐えてくれるか?」
「・・・ブジ・・・ブジアント王国」
「口が使えるなら初めから話せ、俺の時間を無駄に使うな。殺すぞ」
別に、何か急いでいるわけでもなく、忙しいわけでもないが。
時間は誰にでも平等。
1日に24時間。
有意義に使わないと。
「王の命令で。魔族に魂を売った相手・・を滅ぼしに」
「そうか。お前は親を守る子供が悪魔に魂を売ったように見えるのか。俺はお前らのほうがよっぽど悪魔に見えたけどな」
「こんな場所で・・。暮らしている・・。のが悪い。神に逆らうなど」
その言葉を聞くと男の目を両方抉り取って燃やした。
男は叫びながら血の涙を流す。
「また神さまか・・・。神の加護があれば何も見えていない目なんて必要無いだろ?それにこんな場所で悪かったな。ここは俺達の居場所だ。今後一切近づくなと偉い王様にでも伝えろ。それと今度何かしたらお前の国を滅ぼすと。それでも戦争を起こしたいならここ以外の国とでも襲えと伝えておけ。結構マジで」
青年にそう伝えると、オーリスは治癒魔法をかけ、両手と両足を治す。
ついでに仕方無いから片目だけ治してやった。
「馬は残してある。さっさと行け。次は殺すからな」
何度もオーリスは青年に釘を刺す。
青年は急いで馬に乗り、国に帰っていった。
それを見送ると燃えさかる家々を横目にオーリスは少女の元に戻る。
「どうだ?ファウス?」
「どうだ?の意味が分からない。俺を誰だと思っている」
ファウスは自信ありげに答えた。
「ん?ただの女好きじゃ無いのか?」
「違ぇーよ」
「で。どうなんだ?」
「当然問題無い。ついでに昔の傷痕も綺麗に治しておいた。母親はちょっと面倒な病気だったけど持ち合わせの薬と治癒魔法で何とかなった。ほっといたら半月であの世行だったのを治療した俺って・・凄くね?」
「さすがローレン家のご子息様」
「なんだよ。お前に褒められると気持ち悪いな・・・」
ファウスは頭を掻いた。
褒めても貶しても文句言われるのかよ。
まったくもって面倒な心友だ。
「これからどーする?」
勢い任せの行動だったので今後の事なんて考えていない。
息のある人間を治療し、一カ所にまとめてから考える。
「残されているのは女と子供だけか・・・。奴隷にするか?」
「それでも構わないが、それだと助けた意味がない」
「確かに」
オーリスの領土にも人間が住んでいる。
奴隷として。
奴隷は契約で縛られ、過酷な労働をさせられる。当然使い道がなくなれば殺すか、殺すより酷い事をされて結局死ぬ。
男の奴隷ならまだましだが、奴隷が女となると、発狂して死ぬまで色々使われたりもする。
それもあり、結構な数で人間の血が混じっている魔族もいて半魔なんて呼ばれ差別を受けている下級魔族なんて者もいる。
境遇なんて人それぞれなのだから気にしたことは無い。
今後の事を悩んでいると少女が眼を覚ました。
予想通り、ファウスと俺を見て怯えている。
そしてまた母親の前に立った。
「お願いします。ママはー」
「病気なんだろ?」
「あっ・・はい・・・」
「治してやったぞ。感謝しろ」
ファウスがキリリッとした視線で少女に微笑む。
「えっ?!あっ?!」
お前は女なら種族問わず誰でもいいのかよ。
もしかして祖先は顔の整ったオークとか?!
ファウスをチラッと見てから、戸惑う少女にオーリスが問う。
「選択肢は多くはない。①国に帰る。②死ぬ。③俺に付いてくる。どれでもいい、選べ」
「・・・国には帰りたくありません」
少女は泣き出した。
「あぁーあ。女泣かせだねー」
ファウスが横から口を挟み、ハンカチを少女に手渡した。
これが女にモテる理由か・・・。
「それならここで死ぬか?」
「死にたくありません。ママと。ママと一緒にいたいです」
少女の目から涙が溢れそうで溢れなかった。
「母親は好きか?」
「はい」
「そうか。俺も同じだった」
そう言うと少しだけ少女の顔から緊張が解けた気がした。
「安心しろ。きちんと働けば仲良く生活は出来ると思うがついてくるか?」
「はいっ!」
「お人好しだねー。人じゃ無いけど」
「いちいち口を挟むな。次、文句言ったらマジで親父に報告するからな」
「それは勘弁してっ!次何かあったら本気で親父に殺されるって」
オーリスはファウスと燃えさかる場所に向けて右手にグッと力を入れる。
「馬鹿馬鹿っ!こんな場所で何しようとしてんだよっ!」
「村とお前を消し飛ばそうかと」
「心友は殺しちゃ駄目だろ!それにまだ村の中に誰かいるかも知れないだろ?」
「生命反応は多分ない。誰もいないから問題無いだろ」
「問題あるから。死んだ人間相手にも色々すべきことがあるんだよ」
「死人に価値があるのか?」
「種族特有の儀式みたいなもんだ。言っておくが誰が頼んだわけでも無い、コイツらはお前が助けた命だからな。最後まで責任を果たす義務くらいわかってるだろ」
「そう。。だな」
たまに話す真面目な会話でファウスが間違っていたことは今まで一度もなかった。
「それなら・・・まずは火を消すか」
「そーするか」
村の上部に結界をはり二人はその結界に向けて水魔法を手当たり次第に放つ。
少し遅れて結界が跳ね返し散った水が空から大粒の雨となって村全体に降り注ぎ、火とその場所で生活していた痕跡を消していった。
結界の中でオレンジ色に燃える炎が消えていくのを、少女は黙って見守っていたのだった。
ご感想、ご希望があれば改善していきますので是非お願いいたします。
今回は少し真面目なオーリスの部分を見てもらえたらと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。