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スタローン転生 ~怒りの異世界生活~  作者: アドキンス2号機
シーズン1:怒りの異世界転生
1/4

序【スタローン・イン】

 光の中に包まれていた。

 名前も過去も思い出せないが、死んだという実感だけが心の中にある。

「ここはどこなんだろうか」そう言おうとしたが、震わせる喉が無いので泡となって消えた。

「俺はどこへ行くのだろうか」その問いかけもまた泡となって消え、意味のないものとなった。

 段々と自己を認識する実感が消えはじめ、意識が光に溶け始める。

 暖かく、光と一体になる心地よさが全身に広がる。いや、全身こそ光なのだ。

 ──もういいや、もう終わりにしよう。

 そのまま全てに光りを委ねようとしたその時、

「──聞こえますか」

 声が響いた。

 意識が僅かに揺り戻される。

 ガラスのように繊細で鐘の音のように遠大な、美しい声だ。

「聞こえますか?」

 返事をしたかったが、返事を返せる喉がない。

 だけど、どうしても声を返したくて喉を震わせた。

「──はい」

 音が響いた。それは共鳴して光に広がる。

「はい、聞こえます」

 すると、声が返ってきた。

「よかった、あなたはまだあなたのままですね」

 どういうことだろう? 俺は俺なのだろうか?

「まず、落ち着いて聞いてくださいね。あなたは、死にました」

 声の主は重々しく告げる。しかし俺は既にそれを知っていた。

「おや、驚かないのですね」

 顔の見えない声の主が、少し、笑ったように感じた。

「やはり、あなたは特別……」

 声の主の言うことはさっぱり要領を得ない。なので俺は質問することにした。

「あなたは誰ですか?」

 声が響く。

「どうやら意識が徐々に戻ってきたようですね」

 しかし、声の主はそれに答えない。聞こえなかったのかもしれない。もう一度問おう。

「あなたの名前を教えてください」

「あなたは死にました。その事実には変わりません」

 声は響く。なのに返事は返ってこない。これは、意図的に無視されているのだろうか。

「あなたはあなたの自意識があります。なので、あなたには選択権が与えられます」

 それよりも人権が欲しい。例えば、声をかければ返事が返ってくる程度の。

「選びなさい。このまま光に溶けて神々の一部となる悦びに甘んじるか。それとも、再び生の苦しみに身を投じるか」

 声の主は問う。恭しく。それな神の啓示めいていて。否──、

「さあ、選びなさい。あなたは私になるのか、それともあなたになるのか」

「神、そのものなのか」

 なるほど、まさか神に会えるとは。夢にも思わなかった。いや、これこそ夢めいたことか。

「さあ、三上結城よ。選びなさい。死か──生を!」

 そこで、急激に記憶がフラッシュバックする。

 今までの人生。何も無いが、ささやかで幸せな日々。そして、唐突に現れた死。

 思い出した。俺は何もせず、何も成し得ず、死んだ。

 俺は三上結城だ。それと同時に何者でもない。

 俺は、俺は──。

「どうせならスタローンのようなタフな男になりたかった!」

 俺はあの惨劇に対して為す術もなく死んだ。俺が、アクション映画で見るような、スタローンのようなヒーローだった。救えたのだろか。皆を──。

 突如、光が収束する。否、光が空へと還り、俺の肉体は堕ちていく。

 そしてあの繊細で遠大な声が響く。

「よく選びました。三上結城。あなたはこれから第二の生を全うしてもらいます。これが悦びになるか苦しみになるかはあなた次第です」

 光と共に声が遠ざかる。そして光の粒子が下から照射される。

「私の名前は女神トラウトス。どうか、あなたの生に祝福があやんことを!」

 肉体の落下速度は音速を超え、光速を超え、全てを置き去りにする。光の粒子は線形となり体を通過する。

 そしてまた、光が見え、体が衝突した。

 そこで俺の意識はブラックアウトした。

 ──そして、俺はスタローンとなった。

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