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そのおっさん、異世界で二周目プレイを満喫中 作者:月夜 涙(るい)

四章:おっさんは抱きしめる

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第二話:おっさんは上級ダンジョンの洗礼を受ける

【原初の炎を祭る神殿】に足を踏み入れた。
 白亜の大神殿は、ルーナが扉に手を触れると、ひとりでに扉が開き……無数の炎のブレスと炎の矢で出迎えてくれる。
 それを俺たちは左右に分かれて跳んでかわす。見てからでは間に合わなかった。知っていたからこその反応速度。

「うわっ、ユーヤ兄さんが言ってたの本当に来た」
「ん。予習して良かった」

 実は、この扉の裏には固定で魔物がポップされている。
 しかも、この扉は敵の魔物のアクティブセンサーを透過するものだから、扉を開くと同時に敵の魔物の遠距離攻撃が殺到する。

 知っていれば扉が開くのと同時に回避できるし、知らなくても一流の冒険者なら扉ごしに魔物の気配を感じることができる。
 そのどっちでもなければ集中砲火で即死だ。

 炎の雨が止むのと同時に、俺たちは飛び出す。
 敵の数は十二体。魔物の種類は二種。
 紅蓮の死霊術士……ぼろぼろのローブを纏った焼死した魔術士の躯。
 炎の人魂……その名の通り、燃え上がる人魂。
 ずいぶんと神殿らしい魔物たちじゃないか。

 普段なら、レベルアップのために苦労して他の冒険者と魔物を奪い合いをしていることもあり、十二体も敵を見つければ歓喜するが、今回ばかりはご遠慮願いたいものだ。
 魔物配置もいやらしい。神殿に配置されている椅子などの後ろに隠れ、魔法やブレスの射程ぎりぎりまで距離を取っている。

 フィルとティルの矢が、距離を詰めようとする前進する前衛組の頭を飛び越え、次々に敵を射抜いていく。

「みんな、無駄なリソースを使うなと言ったが、ケチるなよ。必要なら、魔力もアイテムも使え! 適正レベル40相手に、使うべきリソースを使わずに勝てると思うな。だが無駄遣いはするな!」

 魔力の温存のために、スキル・魔法を使わないのは状況次第では正しいが、こいつら相手にそれをすれば戦闘が長引き、致命的なことになる。
 炎の矢と炎のブレスを躱して、全速力で突っ込む。

 初級火炎魔法による単体攻撃であれば、集中していれば問題なく躱せる。
 問題は、上級火炎魔法による範囲攻撃。
 紅蓮の死霊術士は、上級火炎魔法を使用できる。それも上級モンスターにふさわしい火力で。
 六体の紅蓮の死霊術士のうち、三体が詠唱を開始する。
 詠唱の完了まで、大よそ九秒。

「フィル、ティル!」
「任せてよ。ユーヤ兄さん」
「わかってます!」

 フィルとティルが、詠唱中の紅蓮の死霊術士にターゲットを変える。
 朝の講習で紅蓮の死霊術士が現れたら、真っ先に潰せと言っている。そして詠唱を始めた個体がいたら、そっちにターゲットを変えろとも。

 上級火炎魔術の直撃は俺とルーナにとって致命傷になりかねない。
 二発、三発と矢を受けるが紅蓮の死霊術士はなかなか倒れない。
 レベル40ともなると体力も防御力も高い。
 そして、問題は詠唱中の死霊術士が三体いること。そちらに向かおうとするが、残りの紅蓮の死霊術士と、炎の人魂が放つ単体魔法による牽制で思ったより距離が詰められない。

「ユーヤ、ボスを倒したときのあれをする!」
「いい考えだ」

 俺はあえて敵に背中を向ける。そんな俺のもとへルーナが全力で走ってくる。
 手を前で組み、ルーナが俺の手に右足を乗せ、俺は思いっきり手を跳ねあげる。

 ルーナの体が宙を舞い、敵の群れを飛び越え、最後列で詠唱を続けている。紅蓮の死霊術士へと向かう。
 フィルとティルが狙っていた紅蓮の死霊術士が倒れる。
 詠唱完了まで残り二秒。
 ルーナが空中で体をひねり、短剣バゼラートで突きを放つ。

「【アサシンエッジ】!」

 紅蓮の死霊術士の急所は、心臓のある位置に存在する魔核、そこに短剣が吸い込まれ、クリティカル音が響き渡る。
 クリティカル時のみ超倍率を誇る【アサシンエッジ】。今までは通常の魔物なら一発で倒してきた。
 だが……。

「ん。死なない!?」

 これが、適正レベル40のダンジョンの怖さだ。
 強さが段違い。
 詠唱完了まであと一秒。
 紅蓮の死霊術士が笑い……その顔面が剣により叩き割られて死亡し、青い粒子に変わっていく。

「危ないところだったな」
「ユーヤ、すごい!」

 俺でも、魔物の壁を越えてあそこまでたどり着くのは不可能だ。
 だから、剣を放り投げた。
 いざというときのために剣を投げる練習もしている。

 お堅い騎士様なら、己の魂である剣を投げるなんて何事かと怒るかもしれないが、俺にとって剣は信頼する相棒ではあるものの、数ある攻撃手段の一つという認識だ。
 投げなければ間に合わないのなら投げる。

 とはいえ、剣がなくなれば戦力が落ちるので最終手段ではある。
 俺は予備である黒の魔剣を引き抜く。
 残りの敵も速やかに対応しよう。

 ◇

 五分後、紅蓮の死霊術士と炎の人魂を駆逐した。
 紅蓮の死霊術士は上級魔術を使用してきてうっとうしかったが、炎の人魂もフィルがいなければやばかった。
 炎の人魂は物理属性無効だ。【魔術付与:水】がなければ、ダメージをろくに与えられなかっただろう。

「ユーヤ、いきなり疲れた」
「私もかなり焦っちゃったよ。いつもの魔物なら数発で死ぬのにさ」
「まだ、こいつらは楽なほうだぞ。後衛向けの魔物だけで襲ってきたからな。このレベルのダンジョンなら、ちゃんとした編成でくることが多い。前衛向けの魔物に、後衛向けの魔物って組み合わせだ。ルーナを俺が投げ飛ばすのは、そいつらにも有効かもな」

 ルーナ投げは今後も使おう。軽く、バランス神経が抜群なルーナだからこそできる芸当だ。
 ただ、使いどころは考えないといけないだろう。どうしてもルーナが孤立する形になる。

「ん。ユーヤに投げてもらうの楽しい」
「あっ、それ私も思った。ユーヤ兄さん、あとで私も投げて」
「後衛を敵のところまでぶっ飛ばしてどうする……」

 ティルは楽しさ優先だから、ときおりとんでもないことを言う。
 俺はドロップアイテムと投げた剣を回収し、フィルとティルは矢を拾う。
 矢も大事な資源だ。普段なら、使い切るなんてことはないが、このダンジョンでは節約が必要だ。

「二人とも、矢の数は大丈夫そうか」
「節約すればなんとかってところでしょうね。ボス戦で、【矢生成】でため込んだ矢を使ったのが痛いですね」
「だね。お姉ちゃんが街で買ってきてくれた矢、さっき使ったけど、やっぱ攻撃力が落ちるよ」

 普段、フィルとティルが使っている矢はスキルである【矢生成】で生み出した矢だ。持ち主の能力に比例した矢を作成できる。
 これで、矢を買う金を節約できるし、レベル20を超えたあたりから市販の矢より強力な矢になり攻撃力もあがっていた。

 しかし、コロナドラゴンとの長期戦でほぼすべての備蓄を使い切ってしまった。
 十二時間で魔力は全回復するため、眠るまえに可能な限り【矢生成】をしたが十分な数が作れておらず、フィルにポーションと一緒に市販矢を買い込んでもらっている。

「あるものでなんとかするしかないな」

 時間があれば、一日ここに来るのを遅れさせて、矢の補充をさせたが、そんな余裕がなかった。
 俺は神殿の中心へと歩いていく。
 神殿の奥には女神を模した像があり、盃を掲げている。
 女神の像には、古代文字で『女神は盃を炎で満たし、進むべき道を照らす』とある。

「ユーヤ、ここからどうするの? 綺麗なところだけどここから先へ行けない」
「まあ、見ていてくれ」

 魔法袋から、野営のときに使う火打ち石と油を取り出す。
 女神の像の盃に油を注ぎ、火打ち石で火をつける。

「こういう謎解きは書いてあることをそのまますればいい。この場合は『女神は盃を炎で満たし、進むべき道を照らす』だから、盃を炎で満たしてやる。そうすれば、女神は進むべき道を教えてくれるはずだ」

 盃に炎が満ちて一分ほど待つと、地響きのような音がして女神像がスライドする。
 すると、地下への階段が現れる。
 神殿はどんどん地下に潜っていくタイプのダンジョンだ。この謎を解けないと地上部をぐるぐる回って何も得られず引き返すことになる。

「ユーヤ兄さん、これ意地悪だよ。気付かないとここから先へ進めないじゃん」
「逆に俺は親切だと思う。解けない謎が、最下層のすぐ近くにあって引き返さないといけないとか悲惨だぞ?」
「うっ、それはやだな」

 ティルが嫌そうな顔をした。
 セレネが何かを考えこんでいる。

「セレネ、どうかしたか?」
「……少し不思議に思ったの。どうしてギルドの人たちは最初の謎解きのことをアドバイスしなかったのかしら」

 セレネは頭がいいし注意深い。
 こういうことに良く気がつく。

「たしかに妙だ。ギルドは俺たちにこのダンジョンをクリアしてほしいはず。そして、何度もこのダンジョンを冒険者にクリアさせてきたのなら、謎解きのことも知っていたはずだ」

 教えないほうが妙だ。ギルドだって、俺たちが謎がとけずに無駄に時間を過ごすことなんて望んでいない。
【帰還石】なんてものを渡すほど支援するのなら、アドバイスをしないほうがおかしい。

「もしかして、ギルドの人たちはユーヤなら知っていると思ったんじゃないですか?」

 フィルの言葉で一つの仮説ができる。
 今回の指名してきたのは、炎帝竜コロナドラゴンを倒した実績と差し迫った状況からかと思っていたが、俺たちのことを知る誰かが推薦したのかもしれない。
 レベルリセットをする前の俺とフィルのことを知っているのなら指名をしてもおかしくないし、この程度の謎解きで助言なんてしない。

「そうかもしれないな。これ以上は推論になる。今は前に進もう」

 その推測を確かめるすべはない。地上に出てから考えよう。
 俺たちは先に進むことにした。
 地下からが本番だ。今日は行けるところまで行って、明日楽できるように貯金を作りたいものだ。
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