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そのおっさん、異世界で二周目プレイを満喫中 作者:月夜 涙(るい)

四章:おっさんは抱きしめる

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プロローグ:おっさんは頼み込まれる

【紅蓮の火山】で、三竜の炎帝竜を倒した俺たちは、予想通り【紅蓮の猟犬】に絡まれた。
 返り討ちにして釘を刺しておいたが、逆恨みでまた襲われる可能性が高く、明日にはフレアガルドを出ることにした。

 今は出発前の準備をしている。
 宿屋に向かい荷物を回収して、ルーナたちには先に予約してあるレストランに向かってもらう。
 完全個室制かつ信用できる店だ。客の情報を漏らすことはなく、食事中に襲撃を受ける恐れは少ない。
 そして、俺は一人でギルドに来ていた。
【紅蓮の猟犬】に対する報復と……この街で正当な競争が行われるようにするためだ。

 ◇

 ギルドの掲示板でクエストをチェックし、ここ数日の狩りで溜めこんだ素材で達成できるものを持ってから、いつもの受付嬢のところに向かう。

 その中には、素材を換金せずに取っておいた【死蠍の劇薬】の収集クエストもあった。
【死蠍の劇薬】を取っておいてよかった。ポーションの需要は大きい、近いうちに依頼が出されるという読みは当ったようだ。

「ユーヤさん、よく来てくださいました。まずは、炎帝竜コロナドラゴンの討伐おめでとうございます! 適正レベルぎりぎりで、炎無効装備なしに倒すなんて、すごいです! ユーヤさんってとんでもない凄腕冒険者だったんですね」
「俺がすごかったわけじゃない。パーティのみんなが頑張ってくれたおかげだ」

 情報が早いな。【紅蓮の猟犬】とのいざこざや宿で荷造りしていたことを差し引いても、情報が早すぎる。

「謙遜がお上手ですね。ユーヤさんのためにおすすめのクエストを用意していますよ」
「ありがとう。先にクエスト達成の処理を頼む」

 ギルド嬢にクエスト票を提示し、達成に必要なアイテムを渡していく。

「こんなに!? よほどいい狩場を知っているんですね。報酬とギルドポイントも相当なものになります。今回はぎりぎり銀級には届きませんでしたが、次にクエストを達成すれば確実に銀級になりますね」
「今回で届くと思っていたが惜しかったな」

 ギルドでは、冒険者を格付けする。それによって得られるのは名誉だけではない。
 銀級になっていれば、入場許可証が必要な街もフリーパスで入れることが多いし、キャラバンなども無料で利用できる。

 これらは双方にメリットがあるのだ。銀級になれるほど、実力がある冒険者なら、ダンジョンから多数の素材や宝を持ち帰れるので街が潤う。キャラバンに同乗すればそれだけでキャラバンの安全性が高まる。

 クエスト達成処理が終わり、報酬とギルドポイントの受け渡しが完了する。これだけ金があればしばらく路銀には困らない。
 次の街に行くまでにしっかり稼げて良かった。

「あの、ユーヤさんにおすすめのクエストがありましてね。すごく報酬が高いんですよ。なんと【死蠍の劇薬】収集よりも上です! しかも指名クエスト扱いにしますので、さらに報酬の上乗せも!」

 報酬が高い。そう言われて喜ぶのは素人だ。
 金がたくさんもらえるのは嬉しい。だが、ギルドは美味しいクエストなんてものは作らない。報酬が高ければ高いほど危険度が高い。死の危険が付きまとう【死蠍の劇薬】よりも報酬が高いなんてろくなものじゃない。
 そうでなくても、明日にはここを出る予定だ。

「すまない。明日の正午のキャラバンで街を出るんだ。受けることはできない」
「うっ、どうしましょう。これ、ユーヤさんたち以外に頼むのは冒険者に死ねって言うようなものですよ。困っちゃいました」

 そう言われても厳しいものは厳しい。【紅蓮の猟犬】のことがなくても、確実にセレネを【継承の儀】までにラルズールに届けるために明日のキャラバンに乗りたい。
 だが、演技ではなく受付嬢は本気で困っている。
 どうしたものか……。

「一応、聞くだけ聞いてみようか」
「実はですね……」

 その話を聞いて頭を抱える。なるほど、受付嬢が強引に押し付けようとするわけだ。
 まず、フレアガルドにいるパーティでは達成できないだろうし、このクエストを放置するわけにはいかない。

「なぜ、こんなクエストを放っておいた? フレアガルドの生命線じゃないか」

 ことの重大さに頭を抱える。まさか、よりにもよってあれか。

「元々指名クエストで高名なパーティに依頼していたんです。ですが、指名していたパーティがフレアガルドに向かう直前に、とあるボスモンスターに挑んで全滅してしまいまして、代わりを探しているうちに今になりました。リミットはあと七日しかありません」

 そういう事情か。
 このクエストのことは知っている。ゲームのときにもあったクエストだ。イベントクエストの一つで、失敗すればフレアガルドが大打撃を受ける。

 並のパーティで挑めば全滅は免れない難易度。
 レベル40オーバーのいわゆる上級パーティで挑むべきだ。
 なにせ、難易度が高いだけじゃなく、一度に一パーティでしか挑めない。

 レベル30~35付近の冒険者が多いフレアガルドの冒険者では厳しいだろう。
【紅蓮の猟犬】連中であればレベルは達成しているが、あれはレベルのごり押しでどうにかなるものではない。しかも、とある事情から悪人に任せるわけにはいかない。

 だからか。
 クリアできそうな冒険者が見つからず困り果てていたギルドは、俺たちが炎無効装備もなしに、炎帝竜コロナドラゴンを倒したことを聞いて、実質適性レベル40を指名してきたのだろう。
 フレアガルドの危機だ。なんとかしてやりたい気持ちはある。

 そして、このクエストを受けるには大きなメリットがある。

 第一に、グリーンウッドとラルズール王国の中間点にあるグランネルが次の目的地だが、グランネルに入るには入場許可書が必要であり、なければ面倒な審査で一日潰されたあげくに大金を取られる。だが、銀級冒険者にランクが上がっていれば免除される。

 第二に、一般冒険者が入れない、特別なダンジョン【原初の炎を祭る神殿】に足を踏み入れられる。ここでしか手に入らない素材がある。
【原初の炎を祭る神殿】は、ゲームのときも特別なクエストでしか入れなかった。まず、クエストが出ているときにしかダンジョンへの扉が開かないし、一組のパーティが入るとそのパーティが出るまで閉ざされる。

 第三にギルドに恩を売れる。ここでギルドに貸しを作れるのは大きい。

「……わかった受けよう。だが、いくつか条件がある。ラプトル馬車を隣街まで貸してほしい。それを使えば、隣街でキャラバンと合流できる。どうしても、そのキャラバンに乗りたいんだ」

 キャラバンは各街で客を拾う。
 あのクエストなら、どうあがいても二日かかるがラプトル馬車なら、先回りして隣街に着くことで、二日の遅れを取り戻せる。

「それなら、なんとか手配できると思います……そういえば……ちょっと待ってくださいね。あの書類はこのあたりに……ありました! 実はですね。来週行われるギルド主催の競売で、借金のかたに差し押さえた二頭立てのラプトル馬車が出展予定なんですよ。いっそ買ってみませんか?」

 ギルドは冒険者がダンジョンで得たものをすべて買い取り、様々な商工組合や独自のコネで売りさばくが、規模の大きいギルドになると定期的に盛大な競売を開催する。

 ギルド主催のオークションは非常に盛り上がる。
 当然だが、ギルドから直接客に届く分、値段が安いし、掘り出し物も多い。俺も何度か世話になったことがある。

「たしかに、今の俺たちならキャラバンで旅をするより、自前の馬車があったほうが便利かもしれないな」
「はい、上級冒険者の方々はみんな自前の馬車を持っていますね。機動力が第一です」

 キャラバンを利用するメリットは共同で護衛を雇うことで安全が担保できるし、乗っていれば目的地に着くので楽ができること。

 デメリットもある。
 足が遅い。ただでさえ馬車というのはイメージよりもずっと遅いし、頻繁に馬の休憩が必要だ。
 それが団体行動をすることでさらに足が遅れる。
 いつでも行きたい街へのキャラバンが出ているわけでもない。

 その点、ラプトル馬車なら馬車の数倍の速度で移動できるし、いつ出発するかも自由。
 俺たちのパーティも、レベルが高くなっており、自分の身を自分で守れるようになってきた。
 馬車を手に入れれば、今までよりずっと自由に旅ができる。

「いや、やっぱりやめておく。来週の競売までなんてさすがに待てない。購入は見送ろう」
「待つ必要はありません。ギルドの管理している馬車なので都合をつけれます。そうですね、この値段でどうですか?」

 ギルド嬢が値段を提示してくる。
 二頭立てのラプトル馬車の値段としては、中古ということを考えても安い。相場の六割程度。
 そして、財布事情的にも買えない金額ではない。

「魅力的な提案だ。実物を見せてもらってから考えよう」

 中古だ。どれだけ痛んでいるかわからない。

「ええ、もちろんです。では倉庫のほうに」

 そうして、俺はギルド嬢に連れられてギルドの倉庫にくる。
 毎日山のような素材が持ち込まれるだけあって倉庫は大きい。
 魔法袋があれば、もっと小さい倉庫でもいいのだが、容量がでかい魔法袋の値段はすさまじい。
 それこそ、大きな倉庫を建てたほうが安いぐらいに。

 そして、目的の物を見る。
 いい馬車だ。五人ぐらいであれば快適に過ごせる。
 さすがに五人で眠るにはせまいが、就寝時には野営を設置してテントで寝ればいいだろう。

 中に入って作りがしっかりしているか確認する。
 大丈夫だ。見た目は地味だが腕のいい職人によって作られたもので丈夫だ。手入れも行き届いている。
 足回りもいいし、余計な装飾を排除し、材質にもこだわりがあり、強度が維持できる限界まで軽量化した設計思想には感心する。

「どうですか? ユーヤさん」
「良すぎて、どうしてこんな値段で売ってもらえるのか逆に不安になったな」
「理由はシンプルですよ。地味だからです。普通の馬車と違ってラプトル馬車は、冒険者しか使わないので派手な装飾が好まれるんです。こういう質実剛健というのは売れないんですよ」

 ラプトルは馬に比べて体力があり、足も速いのだが、いかんせん気性が荒く、弱い人間を舐める傾向があり、冒険者ぐらいしか使わない。
 自己顕示欲が強く、舐められたら終わりな冒険者たちは、こういう地味な馬車は避けるだろう。

「わかった。買わせてもらおう。それと相談がある。炎帝竜コロナドラゴンを倒す際に、【紅蓮の猟犬】に妨害されて、出し抜いたのはいいが、戦いのあとに逆恨みで襲い掛かられて、返り討ちにした。……そのせいでしつこく粘着されそうなんだ」

 ギルドに来たもう一つの目的を果たそう。

「その件についてはご心配無用です。ダンジョンの外で、【紅蓮の猟犬】のリーダー、ガルド・ケルローズを含めた四人がユーヤさんたちに襲いかかった。しかも、その際にユーヤさんのパーティの女性に性的な暴行を加えると恫喝したとの報告を受けています。ダンジョン内ならともかく、街でそんなことをすれば法で裁けますよ。すでに殺人未遂と婦女暴行未遂でガルドたちを拘束しております。もちろんユーヤさんは正当防衛で罪に問われません」

 なぜ、そこまで知っているのか。問い詰めたくなったが堪える。
 想定できるのは、ギルドも【紅蓮の猟犬】のやり方を問題視していて、やつらの中にスパイでも放っていたのだろう。
 街中での襲撃を通報するつもりではあったが、この展開は意外だ。

「助かる。俺も腕の一本や二本もらっておけばよかったと後悔していたところだ。それだけの罪で拘束されるのなら、十分に罰を受けるだろう。気が晴れる」
「任せてください。無法者には罰を、それが荒くれ者を束ねるギルドの信条です。もう一つ、気になるのは、どうやってあの人たちを出し抜いてボスに真っ先にたどり着いたかです」
「その方法をギルドで広めることがもう一つの条件だ。一つのクランがボスを占有するのはあまり良くないしな」

 ボスが拘束されようと、【紅蓮の猟犬】は、この秘密を知るために俺たちを狙おうとするだろう。
 だから、いっそのことこちらからばらしてしまう。

 さすがに七組のパーティ程度で、表口と裏口、両方を封鎖するのは奴らでも難しい。
 ギルド経由で冒険者たちに情報が共有されれば、まっとうな競争ができるようになる。
 俺は、裏口についての情報をすべて話す。

「わかりました。そういう方法ですね。でも、本当にギルドで公開していいのでしょうか? ユーヤさんたちはその情報を使えば、美味しい思いができるのに」
「構わない。やってくれ」
「わかりました。欲がないんですね。では、今日中に事実確認をして、明日には周知します。それから、ラプトル購入のお手伝いしましょうか? 馬車だけあっても仕方ないですよね。ギルドが懇意にしている牧場がありまして。特別にいいラプトルを仕入れられますよ」
「ああ、頼もう。一頭は手持ちのがいるから、一頭でいい」

 二頭立ての馬車。
 さすがに、俺のラプトルも一頭で五人が乗った馬車を引くのは不可能だろう。
 さあ、用事は済んだ。

 ギルドの好意で街を出るまでは、ギルドの来客用の部屋を貸し出してもらえることになった。
 結果論だが、安い値段で上質な馬車が手に入り、安全な寝床を確保し、次の街までに銀級冒険者になる見通しが立った。
 そして、諦めていた特別なダンジョン【原初の炎を祭る神殿】へと入ることができる。

 あそこなら、この街を出る前の最後のお土産を手に入れられそうだ。
 レストランで待っているルーナたちに話をすればきっと喜んでくれるだろう。
 さて、そろそろ彼女たちのところへ行こう。
 きっと今頃、ルーナとティルがお腹を空かせてまだ来ないと騒ぎ始めているだろう。
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