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第六話:おっさんはダンジョンに潜る

 クラスを得たことで、俺は魔法戦士。ルーナは盗賊へとなることができた。


 クラスを得るだけで、5ポイントのスキルポイントを得られる。あとはレベルを上げる毎に1ポイントを得ていく。

 その5ポイントを最初にどう振るかが重要だ。

 もっとも、俺の場合はレベルリセット特典で20ポイントあるので、かなり余裕がある。


「美味しい。柔らかくて肉汁がすごい。今日のお肉はいいお肉」

「パーティ結成のお祝いだから奮発した。遠慮せずに食べろ。こんな機会はめったにないぞ。毎日、こんな高い肉は頼めないからな」


 ルーナが目の色を変えて、巨大骨付き肉にかぶりつく。

 キツネなのにリスのように頬を膨らませていておかしい。

 今は酒場に来ており、安い日替わり定食ではなく高めのメニューをかなり頼んでいる。


 表向きはパーティ結成をしたお祝いだが、本当のところは俺を選んでくれたルーナへの感謝の印だ。

 自分の意思で、俺と共に冒険してくれると言ってくれたことが嬉しかった。


「ユーヤ、さっきからルーナの顔をじっと見すぎ。気になる」


 口元を肉汁とソースで汚しながら、ルーナが顔を赤くしていた。


「すまん。無神経だったな。俺も手を付けるとするか。……その前に、乾杯だ。パーティの結成と、俺たちの今後の成功を祈って」


 エールの入ったジョッキを掲げる。

 ルーナも頷いてジュースの入ったジョッキを掲げた。 ……昨日、彼女は『ユーヤと同じの』と言ってエールを注文したが苦くて飲めなかったこともあり、素直にジュースを頼んでいる。


「「乾杯」」


 ジョッキをぶつけ合う。

 久しぶりのパーティ。この温かさが懐かしく、愛おしく思えた。


 ◇


 次の日もギルドに向かった。

 今日も帽子で顔を隠している。かつての仲間でありギルドで受付嬢をやっているエルフのフィルに見つかると面倒だ。


「ユーヤの言う通り、全部、【気配感知】にスキルポイントを使った」

「いい子だ。それがあるのとないのでは全然違うからな」


 盗賊は探索スキルが取得できる。

 探索スキルの中でも【気配感知】は非常に有用なスキルだ。

 探索で一番怖いのは、不意打ち。魔物というのは狡猾で、匂いや音を立てずに近づく魔物もいれば、冒険者の死角に潜み奇襲をする魔物、さらには風景の中に擬態して待ち構えているなんてやつまでいる。

 扉を開けた瞬間、落とし穴にはまって、敵の群れの中なんてこともざらだ。


【気配感知】があれば、そういったものを防げる。

 スキルは取得しただけではレベル1、さらにスキルポイントをつぎ込むことで、スキルのレベルを上げられる。


【気配感知】の場合は、レベル1時点だと敵が半径20メートル以内にいるかどうかしかわからない。

 レベルを上げるごとに有効範囲が20×レベルで増えていき、レベル3で範囲内の魔物の数がわかり、レベル5になると相対距離がわかる。


 ルーナのように、レベル5の【気配感知】なら、半径100メートル内のすべての魔物がどこに何匹潜んでいるか感じ取れるのだ。

 経験の長い冒険者ほど【気配感知】の重要性を知っている。


「ユーヤ、やっぱり攻撃スキルとかのほうが良かったかも。アサシンエッジとか、かっこいい」

「ルーナもダンジョン探索を始めてみればわかるさ。潜んでいる敵を感知できることの安心感、敵を簡単に見つけられることでの狩り効率の大幅な上昇。それらはどんな攻撃スキルにも勝る。攻撃スキルはレベルが上がってからとればいい」


 ルーナは首を傾げているが、頭のいい子だから、すぐに気付くだろう。


「ユーヤはどんなスキルを取ったの?」

「俺は普通に攻撃系の特技優先だ。これは見てのお楽しみ。ルーナが敵を見つけてくれる分、俺が戦う」


 魔法戦士という産廃職業。

 その隠された力を活かすスキルを取っている。

 今から、それを使うのが楽しみだ。


 ◇


 ギルドに入り、部屋の奥にある魔法の扉を使いダンジョンに入る。

 ここは低レベル者専用のダンジョンだ。


 ギルドでは低レベル冒険者の支援に力を入れている。低レベルの冒険者はどうしたって、普通のダンジョンに潜れば、熟練の冒険者との獲物の取り合いの競争に負けて、うまく成長できない。

 再配置があるとはいえ、魔物は限りある資源。儲けを大きくしようと、冒険者たちは必死になる。


 だから、ルンブルクのギルドには低レベルの冒険者しか入場を許可しないダンジョンをいくつか用意してある。

 そのおかげで、低レベルの冒険者は比較的安全かつ、楽にレベルを上げられる。


 そのうちの一つに入る。

 ……俺のゲーム知識では、ここにレベル上昇時のステータス固定の隠し部屋が存在する。

 低レベル冒険者にしか入れないダンジョンに隠し部屋を用意するなんて性格が悪い。


 魔法の扉による転移が終わる。

 たどり着いたのは岩山ダンジョン、山を踏破していくタイプで、山の険しさによって難易度は大きく変わる。

 ここは、道幅が広い上になだらかな登りで、ハイキングでもやっているような優しいダンジョンだ。

 初心者にはもってこいだろう。


「ユーヤ、すごい。建物の中にいたのに、いきなり岩山」

「ダンジョンはこういうものだ」


 ルーナは驚いて、きょろきょろとあたりを見ている。

 この子はダンジョンの水晶に閉じ込められていたはずなのに、初めてダンジョンに来たような反応だ。


 ふと気配を感じる。

 隣にほかの冒険者たちが転移してくる。

 高価な魔法金属の鎧に身を包んだ若い冒険者の三人組。……ギルドで俺たちに絡んできた奴らだ。


「ちっ、おっさんもここに来たのか」


 俺を見て、彼らは嫌そうな顔をした。


「そうだ。ここでレベル上げをしようと思ってね」

「……好きにしろよ。俺たちの邪魔をすんなよ。そんな貧相な皮鎧で来るなんて、ばっかじゃねえの。やばくなっても助けないからな」

「冒険者は自己責任だ。誰かに頼るつもりはないさ。お互い、がんばろう」

「俺らは必死こかなくても余裕だっつうの。おまえらいくぞ」


 意外なことに、俺たちを無視して頂上へと昇っていく。

 てっきり、喧嘩を売られると思ったが、ギルドでの説教が効いているのかもしれない。


「ユーヤ、ルーナはあの人たち嫌い」

「そう言ってやるな。ああやって突っ張るのは駆け出しの冒険者の多くが通る道だ。舐められないように必死なんだよ。……まあ、どこかで痛い目を見ることにはなるがな」


 実のところ、いらつくより、ほほえましいという感情のほうが大きい。

 あれは、一種のはしかのようなものだ。


「ユーヤは優しい。でも、あの人たちの言うことも一理ある。皮の鎧より、金属の鎧のほうが強そう」

「それも、初心者にありがちな選択だね。ダンジョンの探索は何時間も、ときには何日も続く。重い上に、蒸し暑い鎧なんて着ていたらすぐにばてる。身軽で疲れない皮鎧のほうが使い勝手がいいのさ」


 熟練者ほど、金属鎧ではなく皮鎧。それも重要な部分以外を薄くして軽量化した軽鎧を好む。

 もともと、俺は剣で受け流すスタイルなので防御力は重視ししていない。


 ……それに皮にもいろいろある。

 俺の纏っている皮鎧に使われているのは上位のドラゴンの被膜。見た目はそこらの皮鎧だが、あの坊ちゃんの金属鎧より数段上だ。防御力、炎耐性、氷耐性、魔法耐性に優れ、快適かつ実践的な形状にオーダーメードで作ってもらっている。

 見るものが見たら、これの価値に気付くだろう。


「冒険者は奥が深い」

「無駄話は終わりだ。先に進もう。ルーナの【気配感知】、頼りにしてるぞ」

「ん。任せて、ルーナには魔物が見えている」


 俺は頷いて、二人でダンジョンの探索を始めた。


 ◇


 岩山を上へ上へと昇っていく。

 ルーナのキツネ耳がぴくぴくっと動いた。


「魔物がいる、まっすぐいった曲がり角から数メートル先、二匹」

「そうか、なら戻って左の道に行こう」

「ユーヤ、さっきから逃げてばっかり。これじゃ強くなれない」

「……悪いけど、まだレベルを上げるわけにはいかない。大事なイベントがあるからな」


 ルーナの【気配感知】を使い、魔物を徹底的に避けながら、ときには隠れてやり過ごし、少しずつ頂上に近づいていく。

 もし、ルーナがいなければこんな芸当は不可能だっただろう。


 レベル上昇時のステータスアップ幅を最大にする前のレベルアップはもったいない。そこで低い上昇値を引いてしまったら、取り返しがつかなくなる。

 レベルアップできる機会はたった49回しかない。一度足りとも無駄にできない。


 そして、一度も戦わないまま切り立った崖に到達した。

 ここは本来の頂上ではない。


「行き止まり……。もどろう、ユーヤ」

「いや、ここでいい」


 魔法袋のなかから巨大な輪がついた杭を取り出す。

 その杭を大地に突き刺し、思いっきり踏みつける。

 輪っかに縄をかけてしっかりと結ぶ。念のために二本。縄を崖から落とす。

 この縄はマジックアイテムで、持ち主の意思でどこまでも伸びる。


「この崖を二百メートル下りた先に、隠し部屋があるんだ。今回の目的地だよ」

「……意地悪な隠し場所、こんな崖を降りようなんて誰も思わない」

「俺もそう思う。隠し部屋を見つけた奴は頭がおかしい」


 超やりこみプレイヤーへのおまけ要素だ。

 これに気付いたやつは本当にすごい。


「俺はこのまま下りていく。縄で崖から下りていくのは危ない。ルーナはここで留守番していてもいいぞ」


 そういうと、ルーナがぶんぶんと首を振る。


「ユーヤと一緒がいい。ルーナもがんばる」

「わかった。ルーナが落ちたときにフォローできるように俺が先に行く」

「ん。落ちたら受け止めて」

「そのつもりだが。そうならないように頑張ってくれ」


 心臓に悪すぎるシチュエーションだ。

 俺は縄を掴み、下へ下へと向かっていく。

 ルーナがやってきた。キツネ獣人だけあって身軽だ。危なげない動きで、安心する。


 ……ただ、下から見上げるのは問題だな。店員に勧められるがままに防具を買いそろえたが、次はちゃんとスカートではなくズボンを買い与えよう。


 そうして、崖を下り続け目的地にたどり着いた。

 断崖絶壁をくりぬくように横穴があり、そこをまっすぐに進むと封印された扉がある。


 この扉の封印解除条件は、レベルリセットを行っていること。

 俺が扉に触れると封印が解かれて一人でに扉が開いた。


「ルーナ、先を急ごう」

「ん。わくわくしてきた」


 さあ、行こう。

 レベル上昇時のステータス固定はこの先だ。

 俺を苦しめ続けた低ステータスの呪いから、やっと解放される。



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