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そのおっさん、異世界で二周目プレイを満喫中 作者:月夜 涙(るい)

三章:おっさんは手を伸ばす

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第二十話:おっさんは炎帝竜に挑む

 ボスへと続く迷宮を進行中、【紅蓮の猟犬】に追い抜かれてしまった
 二組のパーティに露払いをさせている上に、この迷宮に通い慣れている【紅蓮の猟犬】を相手に独走は無理だったようだ。

 だが、これは想定の範囲内だ。次善策を用意してある。
 俺たちがそうされたように、魔物と戦っている間に追い抜いてもいいのだが、奴らは三組十二人。
 魔物と戦いながらでも、本命以外を使って妨害ができるし、抜いたところで、また魔物と戦っているところを抜き返されるだけだ。
 だから、今は奴らの後ろにつくことで体力を温存しておく。
 あいつらが魔物を倒してくれるので、ルーナたちの疲れが抜けてきた。

「ユーヤ、ゴールが見えた。あの扉からすっごい力を感じる」

 ルーナの言う通り、ようやく長い迷宮の終わりが視えた。
 この迷宮の入り口と同じく竜の顔が描かれた扉。違うのは紅い魔法金属でできており強大な魔力が感じられること。

 その扉の前には幅が二十メートルほどのマグマの川が流れていた。道は一本、遥か東に延び、折り帰って扉に続いており、一キロ程度迂回する必要がある。

 ここから先に魔物はおらず一度抜いてしまえば、追いつかれることはない。
 ここが最初で最後のチャンスだ。

 東へ伸びる道の先には、【紅蓮の猟犬】のパーティ二組がにやにやと笑って武器を構えている。ボスに挑む連中はすでに折り返し地点の近くまで行っていた。
 ボス部屋までに魔物は存在しない。露払いの役割は終了ということだ。

「おっさん、諦めろよ。ここからじゃもう追いつけねえよ」
「お疲れ様、まあ、雑魚にしては頑張ったじゃん。俺たちさ、どうやっておっさんがここに入ってきたか聞き出せって言われてるんだよね。痛い目に会いたくなかったらわかるよな?」

 俺はにやりと笑う。……あくまで最後の最後に抜くのは次善策であり、独走状態で駆け抜けようとしたのは、こいつらが十分に俺たちを警戒していれば失敗する可能性があったからだ。
 そして、こいつらは油断した。
 妨害をするなら、東へ伸びる道ではなくその前にするべきだった。
 なのに、こいつらは最後の最後まで主力を温存するために、露払いのパーティをいつまでも切り離さず、後ろについてきている俺たちを無視してくれた。

「ユーヤ、どうする? 戦って突破する? ルーナはこのまま諦めるなんてしたくない」
「……八人相手に戦ってたら、追いつくのはしんどいよ。だから、瞬殺だね」
「やるしかないわ。あんな人たちに負けるのは悔しいもの」

 ルーナ、ティル、セレネは戦闘態勢に入る。

「落ち着け、裏口へどうやってたどり着いたか覚えているだろう。実はな、最後の最後、ここだけ同じ芸当ができる。見て見ろ、目の前の露骨にショートカットしてくれっていう地形。だからこそ、ここまで大人しくしていた。道ができれば一気に駆け抜けるぞ」

 俺の言葉を聞いたルーナのキツネ耳がぴくりと動き、ティルが振り向き、セレネが微笑んだ。
 ここだけを渡れるようにしたのは製作者のお遊びだろう。
 最後の最後に逆転できる余地を残した。ありがたく、その余地を使い逆転させてもらおう。
 俺は詠唱を開始する。
 中級氷結魔法【氷嵐】カスタム。
 威力と詠唱時間を犠牲にし、射程と範囲・効果時間を延長した。
 その名は……。

「【永久凍土】」

 氷雪が吹き荒れ、溶岩が固まり道ができる。
 届かないはずの対岸までの道ができた。
 これこそが逆転の道だ。

「行くぞ!」
「んっ」
「急ごっ!」
「さすがはユーヤおじさまね」
「ええ、私もびっくりです」

 俺たちが向こう岸に向かい始めるのを見て、足止めのために東へ続く道にいた二組のパーティが血相を変えてこちらに向かってくる。
 だが、距離は十分。
 そこからじゃ追いつけない。
 岸を渡り終えると東への道をおり返してこちらに向かっている【紅蓮の猟犬】のリーダーが叫んでいた。

「いったい、どういうことだあああああああああ! 待てえええええええええええええ! ボスは、俺たちがあああああああ!」

 そういえば、あいつは俺に向かって偉そうなセリフを放ったが、それをそのまま返してやろう。

「がんばったが、ちょっと頭と力が足りなかったようだな。大人しく引き返しな」

 ボスの顔が真っ赤になる。
 ルーナがベーっと舌を出した。
 俺は赤い扉に手をかける。

「みんな、行くぞ。準備はいいか」

 ルーナたちが頷いた。
 扉が開く。
 足を踏み入れると同時に扉が閉まった。
 ボス部屋に入れるのは一パーティのみ。ボスか足を踏み入れたパーティか、どちらかが消えるまで扉は開かない。
 ここのボスはゲーム時代の難易度判定(適性レベルで挑んだ際)では条件付きで中難易度であるCランク判定。攻撃が炎属性に著しく偏りがあり、耐性も極端に水(氷)に弱い。炎無効装備と冷気属性武器があれば苦労はしない。
 だが、逆に炎無効装備がない場合は上からの二番目に厳しい難易度Aランクと称されている。
 多彩かつ強力な炎属性のスキル、圧倒的な攻撃力とタフネス所以だ。

 もちろん、俺たちには炎無効装備なんてものはない。あれを人数分手に入れるだけの金を稼ごうとすれば、一年はかかる。
 厳しい戦いになるが、なんとか勝利を掴もう。
 ここのボスは特別なボスの一体、絶対に倒さねばならない。

 ◇

 扉の先は、ほのかな明かりに照らされた洞窟だった。
 ただ、天井がやけに高い。二十メートルはあるだろうか。
 俺たちは、魔力回復ポーションと体力回復ポーションを飲み、ゆっくりと歩く。

 誰かの息を呑んだ音がやけに大きく聞こえる。
 そして、開けた場所に出て、それを目にする。
 翼持つ赤竜が中央にいる。
 迷路の中で戦ったフレア・ワイバーンより二回り大きく、翼と腕が一体化しておらず四肢が発達している。
 瞳まで赤い。

 さきほど迷宮で戦った竜もどきとは違う。真のドラゴン。
 名を炎帝竜コロナドラゴンという。炎無効装備がなければAランクという極めて強大な魔物。
 その秘めたる力は今まで戦った魔物の比ではない。
 俺たちは小高い崖にいて、あと一歩前に進めば戦闘が始まる。
 目くばせをする。みんな頷いた。
 昨日のうちに徹底的に行動パターンを叩き込んだ。対応力を身に付けさせるため、なるべく魔物や罠の事前情報は伝えないようにしているが、こいつは事前に対策をしなければまず勝てない。
 全員で一歩踏み出す。
 その瞬間、コロナドラゴンが咆哮をあげる。

「GRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY」

 体が硬直する。
 頭ではなく、本能が動くことを拒否する。
 それでも意志の力へ前へ踏み出す。

「キュイッ!」

 エルリクが【竜の加護】を与えてくれた。わずかとはいえ炎耐性はありがたい。
 いつもなら、ここでフィルとティルの矢が降り注ぐが、今日はティルだけが矢と単体向けの初級雷撃魔術【雷矢】で攻撃を行う。

 フィルの矢と雷撃をコロナドラゴンはものともしない。
 コロナドラゴンの口から炎が漏れた。必殺のブレスの前兆。漏れる炎の色は青。
 青なら足を止める必要はない。フィルがなんとかしてくれる。

 コロナドラゴンから青い火炎球が吐き出され、奴の目の前で爆発する。

「GYUA!?」
「私がいる限り、その技は通じません!」

 さすがフィル、いい仕事をする。
 今のコロナドラゴンの火球は着弾と同時に爆発するタイプだ。

 火炎弾のダメージと爆発ダメージ、二回ダメージ判定があるうえに、どちらも非常に攻撃力が高く、一発でも喰らえばほぼ瀕死。
 かわそうとしても、近くに着弾すれば爆発に巻き込まれて大ダメージ。
 防御もままならない。

 だから、フィルには青い炎が口から洩れれば矢を放つように命じた。
 爆発型ブレスは矢が当たれば即座に爆発する。
 それにより、コロナドラゴンの攻撃を止めつつ、ダメージを与えられる。

 後衛から高速で放たれる火球を打ち落とすなんて芸当はフィル以外には頼めない。
 フィルは【魔力付与:水】と【アイスベール】による支援と爆発型ブレスの撃ち落としに専念してもらう。
 直撃すれば終わりの、スキルを一つ潰してくれるだけでだいぶ戦いは楽になる。

 前衛であるセレネとツートップで前へと進み、ルーナが俺の後ろにぴったりと張り付く。
 爆発でよろめいていたコロナドラゴンが立て直し、今度は赤い炎を口に纏った。
 それを見た俺はセレネの後ろに隠れる。
 セレネがスパイクを地面に突き立て重心を落とす。

「【城壁】!」

 青い壁が生まれるのと炎の奔流がぶつかるのは同時だった。
 セレネが歯を食いしばり必死に盾を押える。
 ぎりぎりで炎から俺たちは守られる。炎が止むと同時に、セレネの後ろから俺とルーナが飛び出す。
 一歩でも前へ。

 赤い炎は拡散型のブレス。射程はさほど長くないが範囲が広すぎて躱せないし、受けることもできない。
 俺やルーナは一撃で即死、【アイスベール】の守りがあれば、ぎりぎり一発は耐えられるが重傷を負うだろう。

 あれを防ぐには、セレネの【城壁】しかない。
 唯一の救いは、リチャージが長く、青い爆発型ブレスと違って連射はできない。

 こいつとの戦いでは常に赤い拡散型ブレスのリチャージ時間を気にしながら、フィルが青い爆発を打ち落とせる場所で戦い続ける必要がある。
 たった一回のミスで壊滅だ……もし炎無効の装備あれば、ブレス攻撃を一切気にしないでいいのだが、ない物ねだりをしても仕方ない。

 射程まであと一歩というところで、コロナドラゴンが体を回転させ、遠心力のついた尻尾がせまってくる。
 初動から先読みして俺は跳んでいた。足元を尻尾がうなりをあげて通り過ぎる。その風圧だけで体が浮きそうになる。直撃したらどうなるかなんて考えたくもない。

 前回り受け身をして、ついに剣の距離へ。奴の振り下ろした拳をかわしつつ剣を上段から振り下ろす。
 フィルの【魔術付与:水】によって水(氷)属性が与えられ剣が氷を纏う。
 いいタイミングだ。

「まずは一撃だ。【バッシュ】!」

 奴の腹に渾身の一撃を叩き込む。

「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO」

 弱点属性の一撃は大ダメージのようだ。
 俺の背後からルーナが飛び出す。ルーナには今回の戦い、常に俺の後ろに控え、隙が出来たら攻撃を当てるように言っていた。
 当然、ルーナのバゼラートも氷に包まれている。

「【アサシンエッジ】!」

 クリティカル音が鳴り響く、怯んだコロナドラゴンに追撃が決まった。奴の急所は腹部で狙いやすい。
 たたらを踏んだ奴に、さらなる追撃を仕掛けようと突っ込むと、奴は大地を思いっきり踏みしめた。
 放射状に衝撃波と石礫が広がり、俺とルーナが吹き飛ばされ転倒する。

「ちっ、追い打ちか……フィルっ!」
「任せてください」

 口には青い炎、爆発型。
 放たれた青い炎が、再びフィルの矢によって奴の眼前で爆発する。
 奴は、二度、三度連射するが、そのすべてをフィルは叩き落した。
 命拾いした。フィルがいなければ終わっていた。

「UGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」

 ブレスを撃つたびに叩き落とされて、いら立つコロナドラゴンが、その原因であるフィルを睨む。
 奴が羽ばたき、うなりをあげてフィルのほうへ突進していく。
 それを見たセレネがスキルを使う。

「【ウォークライ】」

 敵意を自らに集中するスキル。クルセイダーの場合、ボーナスがかかりその効果は絶大だ。
 コロナドラゴンはもっとも敵意を集めていたフィルではなく、セレネに方向転換した。

 重力を味方につけ羽ばたきで加速した一撃がセレネに襲いかかる。
 セレネはスパイクを大地に突き刺し、真正面から受ける。
 凄まじい衝撃にスパイクを刺しているのに、地面が抉れ壁まで叩きつけられる。
 だが、隙はできた。

「【バッシュ】」
「【アサシンエッジ】!」

 セレネを壁に叩きつけ隙だらけの背中に俺とフィルが攻撃を加えると、コロナドラゴンが悲鳴を上げて、バランスを崩す。

「セレネ、大丈夫か」
「……ええ、【回復ヒール】すれば」

 セレネが血を吐きながら、自らを癒す。
【城壁】を使わず、やつの攻撃を受ければ盾越しとはいえ大ダメージだ。
 今回は【城壁】のリキャストは終わっており、使えなかったのではなく、使わなかった。
 なぜなら……。

「GYUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」
「【城壁】!」

 セレネの後ろに俺とルーナが隠れる。
 炎の奔流が吹き荒れた。
 そう、放射型の炎を防げるのはセレネの【城壁】だけであり、常に放射型の炎に備えて【城壁】を温存する必要がある。
【城壁】のリキャストは、奴の拡散ブレスよりほんの僅か短い。

 つまるところ、一度でも放射型ブレス以外に【城壁】を使えば、パーティの壊滅を意味する。
 かなりの綱渡りだ。
 そもそも、ボスというのはダンジョンの適性レベル+5は見て挑むもの。

 俺たちのようにレベル35という適性レベルぎりぎりで挑むのはかなりの無茶だ。
 それでも、セレネの継承の儀までに莫大な経験値を手に入れるため、何よりぎりぎりの戦いでルーナたちを成長させるためにわかっていて無茶をした。

「みんな、かなりどたばたしているが、パターンには入ってる。粘り続ければ勝てるぞ」
「ん。倒れるまでアサシンし続ける」
「私も撃ち続けるよ!」

 ルーナとティルが元気のいい声を上げてくれた。
 この調子であれば、通常パターンのうちは問題なく削り切れるだろう。

 ◇

 戦闘開始から二十五分経過した。
 マグマロック・ドラゴーレムより強いコロナドラゴンとの戦いなのに、ルーナたちには前より余裕がある。
 マグマロック・ドラゴーレムとの戦いが生きている。あのぎりぎりの戦いを長時間続けたおかげで、精神的に強くなった。

 もっとも成長しているのはセレネだ。
 セレネが今もコロナドラゴンの剛腕を盾で受け流していた。
 目に見えて、スパイクを使わない防御の割合が増えている。

 スパイクは便利だが、今までセレネはスパイクに頼りすぎていた。
 小型から中型までの魔物であれば、積極的に技量で流すのに、ある程度以上の大きさになると途端に流せる攻撃すらスパイクに頼るのがセレネの悪癖だ。

 たしかに、スパイクと【城壁】の組み合わせならどんな攻撃でも受けられる。
 だが、スパイクを防御に使えば次の行動に移りにくい、とくに攻撃はほぼ不可能だ。

 理想を言えば、スパイクを使わなければ受けられない攻撃以外はスパイクに頼るべきではない。
 ブレス以外に【城壁】を使えない状況になって初めて、スパイクを使った受けではなく小型盾の取り回しの良さと丸みを活かした流しの価値を再認識している。
 セレネに教え続けたことが、ここに来て芽吹き始めた。
 改めて、コロナドラゴンに挑んで良かったと思う。

「セレネ、今なら攻めまで行ける!」

 セレネが頷き、殴打を流しきったあと即座に踏み込む。

「【シールドバッシュ】!」

 コロナドラゴンの脇腹めがけて、腰をひねり、盾を突き出す。
 スパイクが射出され、肉を抉った。

「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA」

 悲鳴を上げて、コロナドラゴンが後退する。
 そして、その全身が炎に包まれる。
 異常なまでに赤い、まるで血のような炎。鱗が逆立ち、筋肉が盛り上がり、爪が鋭利になり伸びる。
 約三十分戦って初めて見せる行動パターン。
 さて、いよいよか。
 冷たい汗が首筋を伝う。

「みんな、ここからが奴の本気、逆鱗モードだ。死ぬなよ」
「ん。ユーヤからたくさんパターンを教えてもらった」
「ええ、ユーヤおじさまができると言ってくれたのなら、できるはず。勝つわ」
「ここからは、私もお姉ちゃんと一緒に防御だね」
「ティル、連携が重要です……が、あなたは好き勝手やりなさい。私がサポートします」

 体力が20%を切ると同時に、コロナドラゴンは逆鱗モードと呼ばれる状態になる。
 攻撃力、速度、防御力、耐性、すべてが跳ね上がり、より強力なスキルを解禁する。
 ここからが本番だ。

 だが、恐れはない。
 俺はルーナたちを信じ、勝てると思ったからここに来た。
 なら、あとはやり切るだけだ。 
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